87 ぎゃー やめてやめてやめて
「仕方がなかったとは言え、女の子の肌に傷を残しちゃったか。シナン君を治療してくれた病院なら、きれいに治してくれる医者もいる。かかってみるか?」
「うーん」
考え込むエウフロシネ。そこでシラネは笑いながら言う。
「それとも、坊っちゃんが責任を取るからいいか?」
「ちょっ、シラネっ! 責任って何?」
あわてる坊っちゃん。そこで、エウフロシネはぽつりと言う。
「坊っちゃんが責任を取ってくれるなら、治さなくていい」
シラネは爆笑する。
「わぁっはっはっ! これはもう決まりだなっ!」
「まっ、まっ、まっ、待ってよ。シラネ、変なこと言わないでよ」
坊っちゃんの焦りに、シラネは満面の笑みでこう答える。
「安心しろっ! 坊っちゃんっ!近いうちに『偵察局』本部に行くから。事務局のパオラさんには懇切丁寧に話してきてやる」
「ぎゃーっ、やめてやめてやめてっ! 本当にやめてーっ!」
坊っちゃんはその場に突っ伏した。
◇◇◇
シラネは集まったメンバーを前に話し始める。
「さて、ラティーファちゃんと旦那さんも戻って来たことだし、本題に入る。あたしが『偵察局』へ行くのは、二つの理由がある。一つは坊っちゃんの恋愛事情を事務局のパオラさんに報告するためだが」
ラティーファは上機嫌で旦那さんの左隣りに座っているが、机の下で、右手はがっちり旦那さんの左手を掴んでいる。
余計なことを言いだしたら、すぐに右手に力を入れ、黙らせる態勢である。
坊っちゃんは真っ青な顔をして座っている。その隣でエウフロシネは、にこにこしている。
シラネの話は続く。
「もう一つは『星間警察』と『偵察局』もいよいよ『洗脳機関』対策のため、合同会議を設けることになった。あたしも状況説明のため出席する」
シラネは旦那さんの方をチラ見する。
「本当は旦那さんが行くのが筋なんだが、なにしろ……」
「記憶にございません」
シラネと旦那さんの声はハモる。
シラネはつかつかと旦那さんの席に歩み寄ると、おもむろに胸倉を掴む。
「てんめぇ、何度やられても、これだけは慣れねぇっ!」
「だって、本当に憶えてないんだもん」
ラティーファの上機嫌は変わらない。エウフェミアとアナベルは少し驚いたふうだったが、すぐにシナンが耳打ちする。
「あれは『兄妹のじゃれあい』です」




