82 思い知ったか 乙女の……
「貴方、強い相手と戦うの好きでしょ? 凄い強い奴がいるんだけど……」
「うん。そうだけど……」
「強い奴のいるところに連れてってあげるから、倒してほしいんだ」
「うん。でも……」
「?」
「今は、それより、むさいのを何とかしてくれる人にゆっくり教わらなければならない。そんな気がする……」
「!」
(う~ん。ここで、それが出るのかぁ~。今まではどうだったっけ?)
「ビル・エル・ハルマート」での1回目の「チャージオン」の時は、時間をかけて教え直した。2回目の時は、急遽「偵察局」に帰ることになり、教え直している時間はなかった。
「アクア3」では、大急ぎで教えたが、多分、あれは関係ない。「チャージオン」出来たのは、坊っちゃんが時間をかけて教えたからだろう。
(どうしても、時間をかけて教えないと、次の「チャージオン」は出来ない? いや、待って、シラネさんの場合は?)
(「ビル・エル・ハルマート」での1回目の「チャージオン」では方向オンチがでて、何人か掛かりで抑え込む羽目になった。でも、2回目は? 方向オンチは出たけど、すぐ、ミラー社長が止めた。あの時は……)
(ミラー社長がプロポーズして止めた。同じような強いショックを与えれば、あるいは……)
(だけど、あたしが『旦那さん』にプロポーズする訳にはいかない。どうする? 考えろっ、あたしっ! このままじゃ、アナベルさんが危ない)
ラティーファは何かを決意すると、つかつかと歩み寄って行った。
◇◇◇
「?」
その意図をつかみかね、茫然とする旦那さんの顔を両手で掴むと、ラティーファは自らの唇を旦那さんの唇に押し付けた。
「!」
あまりのことに、言葉を失う旦那さんをよそに、肺活量をフル稼働し、ラティーファは旦那さんの口の中の空気を吸い上げた。
「むむむ、むぐぐぅ~」
肺活量が限界に達すると、ラティーファは初めて口を離し、己の口の周りを右手の甲で拭った。
(思い知ったかっ、乙女のファーストキス。これならどうだっ? 旦那さんっ?)
旦那さんは、顔を真っ赤にすると、叫び声を上げた。
「ラッ、ラララ、ラティーファッ!こういうのはだなっ! もっと、分かり合った男女がすることでっ!」
(こいつ、本当に三十かあ?)
ラティーファは一瞬怯んだが、すぐ続けた。
「うるさいっ、うるさいっ、うるさぁいっ! あんたは忘れちゃっているけど、あたしはあんたのこと、あんたより知ってんのっ!」




