60 俺には、絶対当たんないの
「ぬぉっ」
さすがの荒くれ海の男たちも初めて見る狂信的暗殺者に衝撃を受ける。
だが、坊っちゃんが冷静に指示を出す。
「みなさん。あわてないで。あいつらの頭を狙ってください」
そう言うと、坊っちゃんは、瞬く間の早撃ちで、一気に四人の狂信的暗殺者を倒して見せる。
「うおおおおおおおーっ!」
荒くれ海の男たちは大歓声を上げる。
「おめえらっ、見たかっ! 坊っちゃんのやったようにやるんだっ!」
ティモンの号令に、荒くれ海の男たちは射撃を開始する。
◇◇◇
荒くれ海の男たちの猛烈な射撃に、先鋒の狂信的暗殺者は崩れかかる。
敵は後方にいる正規兵の部隊が前進させ、射撃を開始させる。
もちろん、前方に位置する狂信的暗殺者に弾丸が当たることは全く問題にしていない。
むしろ、後方からの射撃で、腕や足が吹き飛んでも、前進を止めない狂信的暗殺者を見せつけて、相手方に恐怖感を与えることを狙う。
そして、それは一定の効果があった。
◇◇◇
「うぉっ!」
「なっ、なんなんだ? あいつら」
前進を止めない狂信的暗殺者に気圧され、荒くれ海の男たちの射撃が止まる。
崩れかかった狂信的暗殺者の部隊は立て直しに成功する。
しかし、それは長く続かない。
「みなさん、あれはこけおどしですっ! 痛覚がないだけですっ! 腕や足がなくなったからと言って、戦闘力が増す訳じゃあないっ!」
そう叫びながらの早撃ちで、坊っちゃんは更に四人を倒す。
「おめえらっ、聞いたなっ! 坊っちゃんは他の惑星でも、あいつらを退治されたそうだっ! ひるまず、頭を狙えっ!」
ティモンの檄に、荒くれ海の男たちの士気も上がる。
「おおりゃあぁぁ~っ!」
「だああああああ~っ!」
「うおおおおっ、こいつぁ、負けてらんねぇぜぃっ」
旦那さんが、レーザーセイバー片手に前に飛び出す。
◇◇◇
「うぉーいっ、旦那さん、そこにいたんじゃ俺らが撃った弾丸が当たるぜい」
荒くれ海の男たちは、心配して声をかける。
「だいじょーぶっ!」
旦那さんは、荒くれ海の男たちに背を向けたまま、左手でVサインをして見せる。
「俺には、味方の弾丸は絶対当たんないの。試しに、そのまま敵の頭狙って撃ってみ」
「いいのかよ。本当に」
荒くれ海の男たちに、言われるままに、射撃する。
すると、弾丸は不思議と旦那さんを避けて飛び、敵には命中する。
「おおっ、すげぇっ、本当だぜっ!」
「よーしっ! 撃て撃て撃ちまくれっ!」
荒くれ海の男たちの士気は、更に上がる。
実際には、旦那さんは高速で回避運動を行っているのだが、素人目には弾丸の方が避けて飛んでいるように見える。
更に旦那さんは、レーザーセイバーを旋回し始める。
味方の撃った弾丸は敵に届くが、敵の撃った弾丸は旦那さんが蒸発させる。
一方的なアウトレンジ攻撃に、敵の先鋒狂信的暗殺者は潰滅。
敵の第二陣正規兵部隊もじわじわと後退する。
「そろそろ、出ねばならぬな」
船内に待機していた敵の指揮官は座席を立った。




