41 言葉の意味、ちがくない?
「だからね。ああいうのは、シナン君だけなの。あたしだって、毎日、ついて行くのが必死だし、他の『ビル・エル・ハルマート』出身の三人もやっとついて行ってるって、言ってるし、周りがみんな優秀に見えるのは、エウフェミアちゃんだけじゃないよ」
「そうでしょうか?」
「そうそう。まあ、実際、あたしも留学生だから、成績のことはプレッシャーだからね。でもさ、一緒に頑張らない?」
「有難うございます。あと……」
「何かな?」
「これからもこうやって、お話してくれますか?」
「何言ってんの、もちろんだよ。こちらこそよろしくね」
「はぁ~、良かったぁ~」
エウフェミアは安堵して、気が抜けたようだった。
「えーっ? あたしなんか、ただの族長の孫娘なんだから、そんな緊張しなくていいのに」
「緊張しますよー」
エウフェミアは続ける。
「ラティーファさん、身長170超えのモデル体型じゃないですか? あたしなんか、やっと150あるくらいのちんちくりんだし、男子学生たちはあのシナンが『族長』なら、ラティーファさんは『王女様だとか言ってるし」
「ははは、そんなこと言われてたんだ。人って勝手なこと言うからねぇ。でもさ、人が何言おうが、あたしたちはもう友達だよ」
「ラティーファさん、嬉しいです」
(エウフェミアちゃん。嬉しいのはこっちの方だよ。やっと、シラネさん以外に何でも話せる友達が出来たんだから)
ラティーファは内心そう思っていた。
◇◇◇
「以上が、今回の任務内容です」
「偵察局」の一室。職員が任務内容を旦那さんと坊っちゃんに説明している。
旦那さんは大あくびをした。そして聞いた。
「で、強そうなのはいるの?」
「さあ、それを調べに潜入して貰う訳で、ただ、『洗脳部隊』が確認できれば、かなりの確率で、強い指揮官はいるでしょうね」
「でも、その『洗脳部隊』がいるかどうか、捜さないとわからないのね? いないかもしれないのね?」
「ま、まあ、そうですが」
「あの、僕もいい?」
「はい。坊っちゃん」
「えーと。空挺降下で潜入するけど、突風が吹くかもしれない。多分、潜入先は、高射砲とか持ってないと思うけど、持ってるかもしれない。持ってたら、降下中に射撃されるかもしれない」
「はい」
「地上部隊は未潜入なので、アフターフォローは基本なし。アフターフォローが欲しければ、自分たちで秘密通信が出来る通信機を入手し、連絡すること。なお、秘密通信でない通信は、危険なので、無視する。また、連絡を受けても、フォローできるかどうかはわからない」
「はい」
「相手方については、『洗脳機関』が入り込んでいるらしいという噂以外に何もわからない」
「はい」
「あの~。これひど過ぎない。シラネの時は、ちゃんと地上部隊がフォローしたじゃない」
「だって、貴方がた、こっちで事前準備したって、その通り動かないじゃないですか?」
「ま、そうだけど」
「今までこれでうまくいって来たんだから、貴方がたには、これが一番いい方法なんですよ。きっと」
「はぁ~あ」
坊っちゃんは大きな溜息をついた。
「さあっ、行きましょう! 新しい任務地にっ」
職員は妙に明るく行った。
「それで、任務地の惑星の名前は何だっけ?」
旦那さんが気怠そうに聞く。
職員は更に明るく答える。
「アクア3ですっ!」
◇◇◇
「この惑星の海って、大型の肉食魚がいるって、情報があるんですよね」
軍用輸送機の機長はさらりと言った。
「なにそれ?」
坊っちゃんが問いかける。
「それはもう凄いんがいて、人間は喰うわ、牛とか馬も喰っちまうってのが、いるって話ですよ。あくまで、噂ですけどね」
「それ、本当の話~?」
坊っちゃんはうんざりとした調子で再度問う。
「だから、わからないんですよ。『偵察局』で、この惑星に潜入するの、貴方たちが初めてですもん」
「……」
「だから、海じゃなくて、島に降下して下さい」
「言われなくてもそうするよ」
坊っちゃんは少し不機嫌そうに答える。
「でも、結構、下の方、風が強いから、海に運ばれちゃうかもしれませんけどね。その時は『自助努力』でお願いします」
「ちょっと待って。言葉の意味ちがくない?」
抗議をする坊っちゃんに、旦那さんが問いかける。
「坊っちゃん。こないだ、俺の職業『偵察局員』って、言ってたような気がするけど、間違いない?」
「うん。そうだけど」
「そうだったのか。今までの会話聞いてて、俺の職業『リアクション芸人』かと思った」




