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チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第二章 砂の惑星Ⅱ

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26 あまり怒らないでくれると嬉しいな

 旦那(だん)さんはバギーを飛ばし、第7拠点に向かった。


 今度は不用意に近づかないよう、慎重に接近した。


 まだ強い者の気配は感じない。


 拠点からは煙が立ち上っている。見たところ、周囲で戦闘は行われていない。戦闘をやっているとすれば、もう拠点内部なんだろう。


 もう、陥落してしまったか、それとも、陥落寸前か。


 そんな状態なのだろう。


 「!」

 人の気配がした。それも大勢の。


 だが、強そうではない。敗残兵か難民か。そう言ったところか。


 旦那さんは静かにその場を立ち去り、最後の偵察予定地点である第6拠点に向かおうとした。


 だが……


 後方から悲鳴が上がった。


 「キャーッ」「ワァーッ」といった声。


 その中でもよく響いたのは、「この化け物ども、非戦闘員にまで、手を出すか。この俺が相手になってやる」という声である。


 「ちぃーっ」

 旦那(だん)さんは舌打ちした。


 脳裏には、出発前に長老から言われた言葉がよぎっていた。


 「貴方にお願いすることは『偵察』であって、『戦闘』じゃありません。まず、それを理解して下さい」

 「『援軍』で行くんじゃありません。敵の正体を確かめに行って下さい」


 旦那(だん)さんは思った。

 (いや、これは「戦闘」じゃなく、「敵の正体を確かめる」行動であって、あーもう、ごめんなさい。長老。そして、ラティーファさん、あんまり怒らないでくれると嬉しいな)


 鈍く光るレーザーセイバーを抜刀し、旦那(だん)さんは悲鳴のする方に向かった。



 ◇◇◇



 難民とそれを守る(わず)かな敗残兵に襲い掛かっていたのは、果たして狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)だった。


 彼らは「第7拠点の者を可能な限り殺せ。そうすれば、性的欲求を満たすヴァーチャルリアリティ機器を使わせる」という命令がキャンセルされない限り、殺戮(さつりく)を続ける。


 戦闘力が高く、相手を恐慌に陥らせるが、正規部隊と違い、非戦闘員は攻撃しないと言った自主判断はできない。


 「この化け物どもがぁっ、非戦闘員に手を出すなって、言ってるだろうがっ!」

 一際、大きな声を張り上げ、弾丸の切れた銃剣を振り回し、ぼろぼろになって戦っているのは第7拠点首長モフセンであった。


 旦那(だん)さんは前に躍り出、レーザーセイバーを一閃した。狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)たちは腕がもげ、足が飛び、脇腹がざっくりえぐられる。


 しかし、倒れない。


 旦那(だん)さんを「敵」と認識し、襲い掛かってくる。


 「そこの君っ! 頭だっ! 頭を狙うんだ。思考が止まれば、動きも止まるっ!」

 モフセンのアドバイスに、旦那(だん)さんは大きく(うなず)く。


 旦那さんは、レーザーセイバーを円形でなく、狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)の頭の高さに水平に薙ぎ払う。

 

 狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)たちの頭はまとめて輪切りにされ、次々倒れて行く。


 「そうだ。そのやり方で、あの化け物どもを退治してくれ……」

 モフセンは最後にそう(つぶや)くと、その場に倒れ込んだ。


 張りつめていた緊張の糸が切れてしまったようだ。


 「首長っ」「首長っ」

 心配した難民たちが駆け寄る。

 

 「心配するな。ちょっと疲れただけだ。少しだけ休ませてくれ」

 モフセンは安心したのか、眠った。


 旦那(だん)さんは戦い続けた。


 やはり相手が悪く、傷も増えて行く。


 だが、頭を狙う戦法に切り替えてからは、敵を倒す効率は遥かに上がった。



 ◇◇◇



 第7拠点を攻撃していた正規部隊の者も、旦那(だん)さんの存在に気付き、指揮官(コマンダー)たる黒づくめの男に報告した。


 そして、旦那(だん)さんに対する攻撃の可否を問うた。


 「捨て置け」

 それが、黒づくめの男の答えだった。


 「あの男は強い。正規部隊でも手に負えまい。それより、あいつの戦っているところの写真を撮っておけ。公表するんだ。第12拠点が第7拠点を攻撃した証拠写真としてな」



 ◇◇◇



 何時間たっただろうか。


 旦那(だん)さんは最後の狂信的(ファナティカリー)暗殺者(アサシン)を倒し、難民からは歓声が上がった。


 難民たちは、なけなしの食糧を旦那(だん)さんに勧め、やはりなけなしの医療品を使って、傷の治療をした。


 モフセンは目を覚ました。

 「どう……なった?」


 難民の一人が嬉しそうに報告する。

 「赤みを帯びた眼の化け物は全て倒して貰いました」


 「そうか…… 礼を言わないとな」


 しかし、モフセンはもはや立ち上がれなかった。


 旦那(だん)さんが、モフセンの所に向かうと、モフセンは驚きの声を上げた。

 「君、君は。宙港で、議長の、第12の議長の護衛でいた」


 「え? 俺を知っているんですか?」


 旦那(だん)さんの質問に、モフセンは微笑を浮かべ、答えた。

 「これでも政治家だ。人の顔は忘れんよ」


 「……」


 「そうか。俺は、最後まで間違えてたってことか。攻撃したのは第12では、なかったんだな」


 旦那(だん)さんは大きく(うなず)いた。


 「君、君は、第7拠点(うち)を攻撃したのが誰か知っているのか?」


 「証拠はないですが」

 旦那(だん)さんは、モフセンの問いに、第10拠点の不穏な動きを話した。


 「そうか。マフディが。俺は人を見る眼がなかった。政治家失格だな」


 「……」


 「俺は非戦闘員を第10拠点に誘導するつもりだったが、そうも行かなくなったな。第12で受け入れてくれるか?」


 旦那さんは(かぶり)を振った。

 「途中で第10拠点を通ります。危険過ぎる。まだ、第6拠点をうまく抜けて、ミッドラント駐在所に向かった方が安全です」


 モフセンは瞑目(めいもく)した。 

 「俺の判断は間違いだらけだったが、最後は間違えなかったようだ。第7拠点(うち)の住民を頼むよ。君」


 モフセンはそのままこと切れた。


 難民たちは号泣した。


 それはモフセンが長老と意見を異にしたとしても、ひとかどの政治家であったことを示していた。



 ◇◇◇



 そこからの行軍は、ゆっくりにならざるを得なかった。


 難民には高齢者もいれば、幼児もいるのである。


 旦那(だん)さんはゆっくりと先頭を歩き、まめに休憩をとっていった。


 時には「防衛隊」崩れの野盗が、略奪を狙ってくることもある。


 野盗自体は旦那(だん)さんの敵ではなかったが、それでも、退治するまでは行軍は中断される。


 一日何kmも進めないうちに、日数は経過していった。








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― 新着の感想 ―
[一言] 旦さんは庶民に人気があるのですね。羨ましいです。
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