24 あたしは、真剣なんですけどぉ
翌朝、モフセンは以前砂の惑星に進出したいと打診のあった企業に通信を送った。
正確には、その企業そのものではなく、代理人とのことだったが。
今となっては、そんなことはどうでも良かった。
(これが逆転の切り札になれば)
今はその気持ちしかなかった。
返電は来た。
「既に付近の別の方と交渉がまとまりつつあり、現地で試験的な活動も始めている。またの機会があれば、お願いするかもしれない」だった。
モフセンは慌てた。
「以前、聞いた話では、その『商品』は極めて高い成長性を期待できるとのことだった。ならば、試験実施中のところに加え、当所とも契約できないか。より条件を良くする用意はある」
と再度、通信した。
しばらくして、また、返事が来た。
「本社とも相談する。場合によると資本参加等で協力をお願いするかもしれない。後でこちらから連絡する」
モフセンは少し安堵した。
(資本参加か。もし、それで利益が出るようなら、こんな惑星捨てちまって、移住してもいいしな)
また、こんなことも考えた。
(もし、移住することになったら、ワリードは一緒に行きたいと言ったら、連れてってやろう。だが、マフディは別だ。あんな冷たい奴とは思わなかった)
◇◇◇
深夜の物音で、モフセンは目を覚ました。
「騒がしい。何が起こってるんだ?」
モフセンの問いに部下は神妙に答えた。
「我らが拠点が攻撃を受けています」
「な、ん、だ、と」
モフセンは一瞬絶句したが、すぐに続けた。
「相手はどこだ? ミッドラント駐在所か第12拠点か?」
「先方は『第12』と言っています」
「12? あのじじいめ。とうとう、こんな汚い手を」
モフセンはしばし考えた後、指示を出した。
「全拠点とミッドラント駐在所に送信しろ。内容は……」
「第12拠点に不当攻撃行為を受けている。至急援軍求む」だ。
◇◇◇
「何を言ってるの? この人?」
ラティーファは呆れかえった。
「第12拠点は攻撃なんかしていない」
「また、今回は意図が読めんなぁ」
長老も嘆息した。
「とにかく、第12拠点は攻撃行為などしていないと、全拠点とミッドラント駐在所に発信するしかあるまい」
そんな長老に
「俺、援軍に行きましょうか?」
と腕まくりしたのは果たして旦那さんであった。
「あんたねぇ、これが敵の罠じゃないって、保証はあるの?」
ラティーファはすかさずツッコミを入れる。
「敵の罠だったら、罠ごと壊してくる。長老、ここには爆薬たくさんあるって言ってたし」
堂々と胸を張って言う旦那さん。
「また、あんたが第7拠点行ってる間に、第12拠点が攻撃受けたら、どうすんの?」
ラティーファは更にツッコミを入れる。
「大丈夫。坊っちゃん、置いてくから」
更に胸を張る旦那さん。
「えーっ、僕も行きたいよ~」
抗議の声を上げる坊っちゃん。
「何かこのパターンも前もあったね」
とのラティーファの声には
「俺は覚えていない」
と旦那さん。
「何か、ホント。シラネさんがあんたに対して、かんかんになって怒る訳がわかるわ~」
ラティーファは右拳を固めた。
「わっ、わっ、ラティーファさん。暴力反対」
ここで長老が宥めた。
「まあまあ、二人が掛け合い漫才やってる間に、一斉送信しておいた。そろそろ返信も来る頃だ」
ラティーファは、むくれた。
「『掛け合い漫才』って、おじいちゃんっ、あたしは真剣なんですけどぉ~」
長老はスルーした。
「おっ、もう返信が来だしたぞ」
「ミッドラント駐在所・ミラー:第12拠点が他拠点を攻撃することは考えられない。もし、第7拠点が本当に攻撃を受けているのなら、他の機関のものである可能性が極めて高い。もう一度、精査した上で、再発信されたい」
「第11拠点・ナジーブ:当拠点は第12拠点の最寄りだが、第12拠点からの攻撃部隊の進発は一切確認されていない。もし、第7拠点が本当に攻撃を受けているのなら、他の機関のものである可能性が極めて高い。もう一度、精査した上で、再発信されたい」
「さすがにミラー所長もナジーブも冷静だ。有難い話だな」
長老は感心したが、次の受信内容は衝撃的だった。
「第6拠点・ワリード:当拠点も攻撃を受けている。そのため、援軍は出せない。相手方は第12拠点と名乗った」
「こ、これは」
長老は言葉を失う。
「ますます分からなくなって来たね」
ラティーファも考え込んだ。
「と、とにかく」
長老は再度通信士に指示を出した。
「『第12拠点は、第6拠点も第7拠点も攻撃していない。もし、本当に攻撃を受けているなら、他の機関である』そう一斉送信してくれ」
「はい」
通信士は即座に送信した。
今回は先程よりレスポンスは早かった。
「ミッドラント駐在所・ミラー:第12拠点の主張は正しいと思われる。第6拠点も本当に攻撃を受けているのなら、他の機関のものであると考えられる。もう一度、精査した上で、再発信されたい」
「第11拠点・ナジーブ:第12拠点から第6拠点への攻撃部隊の進発も確認されていない。第6拠点が本当に攻撃を受けているのなら、他の機関のものであると考えられる。もう一度、精査した上で、再発信されたい」
「そうだな。第6と第7からの再発信を待とう」
長老は言った。
しかし、本当に戦闘に巻き込まれて、余裕がないのか、第6拠点と第7拠点からは再発信はなかった。
代わりにあったのは、以下の発信である。
「第10拠点・マフディ:各機関の発信を見る限り、何が真相なのか判断しかねる。そのため、当拠点はこれより門戸を閉じ、他拠点との交流を絶つ。中立を宣言し、援軍は出さない」
「なっ?」
長老は驚いた。
(第10拠点のマフディと言えば、第7拠点のモフセンの最大の盟友と言われている男だ。第10拠点のワリードとも親交が深いはずだ。それがこんな?)
だが、その謎はすぐに解けた。ミッドラント駐在所から秘密通信が入ったからだ。
「ミッドラント駐在所・ミラー:昨日、第7拠点のモフセンと第10拠点のワリードが『航宙機工場防衛隊』と称する部隊を率いて、当所と宙港への駐留を要求して来ましたが、丁重にお断りしました」
「なるほど。二人だけで行ったのか。あいつら、仲間割れしたのかもしれんな。それにしても」
長老はミラー所長あてに秘密通信を返信した。
「第12拠点・アブドゥル:第6第7と第10は仲間割れした可能性がありますな。失礼を承知でお伺いしますが、彼らが主張する攻撃に、あなた方は関与していませんね?」
これに対するレスポンスも早かった。
「ミッドラント駐在所・ミラー:もちろんです。私どもには他に対抗できる戦力はシラネ君しかいません。2か所を攻撃できる戦力などありません。そこで、もし、第12拠点で状況を調査できるならお願いしたいのですが」
長老は考え込んだ。確かに坊っちゃんを防衛の要としてキープした上で、旦那さんを状況調査に出せるのは、第12拠点だけだろう。しかし、これが第6第7が仕掛けた大きな罠でないとも言い切れない。
考え込んでいるうちに受信は次々に入った。しかし、内容はみんな似たり寄ったりだった。
「第2拠点・ズバイル:我が拠点も第10拠点同様、何が真相なのか判断しかねる。そのため、当拠点はこれより門戸を閉じ、他拠点との交流を絶つ。中立を宣言し、援軍は出さない」
「まあ、第7拠点のモフセンの最大の盟友と言われた第10拠点のマフディが中立だ。援軍出さないだ言ってるんだ。他が助ける義理はないわな」
長老は頷いた。
だが、最後に来た秘密通信に長老の眼は釘付けになった。
「第11拠点・ナジーブ:アブドゥル、ミラー所長。秘密通信だ。マフディの第10拠点は中立化して門戸を閉じたと発信していたが、実際には多くの人員の出入りが確認できる」
(これは……)
長老は考えた。
(ひょっとすると、このパズルを解くカギになるかもしれん)




