222 後日譚 長老・シナン・エウフェミア
「昔よりはだいぶ短縮されたっていうけど、それでも片道4日かあ。あれっ?」
アナベルは航宙機の窓から見える風景に、目をこすり直した。
「凄い。近代化された都市だよ」
惑星「ビル・エル・ハルマート」の宙港付近は近代化都市に生まれ変わっていた。宙港自体が大幅に拡張され、輸送用航宙機がひっきりなしに離着陸している。
「はっはっはっ~、驚いたかい。これが今の『ビル・エル・ハルマート』だよ」
元気に出迎えてくれたのは、長老ことアブドゥル・ラフマーンビル・エル・ハルマートミッドラント航宙機製作所技師長。なんと齢80歳である。
「ええ。驚きました。昔の戦乱時の記録をよく見てましたから」
頷くアナベル。
「ここのレアメタルから『奇跡の金属』ミスリルが見つかったのは大きかったよ。うちでの航宙機生産にも使っているが、ミスリル鉱の輸出で、相当収益を上げている」
「良かったですね」
「ああ、国家体制も首長連合から直接民主制に切り替わった。当然、大統領夫妻には会っていくんだろ?」
「もちろん、あちらの都合がついてくれれば、会いたいです」
「はっはっはっ、あんたたちなら大統領夫妻も無理にでも、時間を作ってでも会うさ~」
◇◇◇
長老の言葉通り、大統領夫妻はその晩の予定を丸々開け、アナベル・オキニィ夫妻に面会した。
「お久しぶり~」
最初にハグを交わしたのは、アナベルと大統領夫人である。大統領夫人の名前はエウフェミアという。
「エウフェミアさん。男見る眼あったよね~。今じゃ大統領夫人だもんね」
気の置けない会話を交わせるのも、親しい証拠である。
「うーん。頭がいいとは思ったけど、こんなに偉くなるとは思わなかったよ。惹かれたのは頭の良さより、さりげない優しさで……」
「はいはい。ごちそうさま」
アナベルとエウフェミアは笑いあった。
オキニィは大統領と握手を2回交わした。オキニィは右手が義手。大統領は左手が義手。
1回目の握手は生身の手同士で、2回目の握手は義手同士で。
大統領の名前はシナン。
オキニィにシナン。偵察局の歴史に残る「惑星バストーニュの戦い」の長距離砲コンビ。
そして、共に「洗脳機関」との戦いで重傷を負い、サイボーグになった者同士。
普段は寡黙で人見知りのオキニィもこの晩は本当に嬉しそうだった。




