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217 トカゲの尻尾切りにされちまった

 「…… トカゲのシッポ切りにされちまったか。まあ、気の毒って言やあ、気の毒だが」

 惑星「バストーニュ」の臨時の事務室で慌ただしく勤務するシラネの言葉に、坊ちゃんも応じる。


 「でも、うっかり帰国したりしたら、それこそどんな目にあわされるか分かったもんじゃないよ」


 「まあそうだが。おっ、通信? え? 病院から?」

 シラネはあわてて通信を受ける。


 「あ、ああ、シラネは私だ。うん。坊っちゃんもいるよ」


 「私は『偵察局病院』の医師です。先に申し上げることはパウリーネ嬢の回復は極めて順調です。精神(メンタル)のダメージも皆無と言ってよい。後は静養して、体力を徐々に取り戻していけばいい。しかし、旦那(だん)さんの方は……」


 「旦那さん(兄貴)の方はどうだってんだっ?」


 「はっきり申し上げます。覚悟しておいて下さい。そのため、唯一の肉親であるシラネさんと肉親同然の坊っちゃんは一刻も早く病院(こちら)に来てください。それに、もう一つ心配ごとがあります」


 「何だ?」


 「旦那(だん)さんが死んだ時、ラティーファ嬢が後追い自殺するのではないかと心配なのです……」


 「! 分かったっ! 坊っちゃんと一緒にすぐ行くっ!」


 シラネは通信を切ると、坊っちゃんに声をかけた。

 「坊っちゃん。旦那さん(兄貴)が危ないそうだ。ここはアナベルちゃんとオキニィがいれば大丈夫だ。すぐに一緒に病院に行こうっ!」


 「旦那(だん)さんが……」

 さすがの坊っちゃんも次の声が出なかった。



 ◇◇◇



 惑星「バストーニュ」を発ち、「銀河帝国偵察局病院」のある首都星系に向かう特別便の乗客は、シラネと坊っちゃんの2人だけだった。


 坊っちゃんはシラネに背を向けて、横に座ったまま、小さく呟いた。

 「旦那(だん)さんが死ぬなんて…… 信じられないよ……」


 シラネは小さく頷いた。

 「あ、ああ、そうだな」


 シラネは思い出していた。


 旦那(だん)さんはあくまで愛称であり、ホタカ・スカイという立派な本名がある。


 だが、坊っちゃんは坊っちゃん以外に名前がない。


 それは坊っちゃんが8年前偵察局の前に捨てられていた捨て子だからだ。


 早くに妻を病で失った敏腕偵察局員ケサマル・スカイは2人の子どもホタカとシラネの兄妹と共に、実質、偵察局内に住み込みで生活していた。


 職務上、不在の時が多かったケサマル・スカイに代わり、偵察局員たちがホタカとシラネの兄妹を育てた。


 幼少時から並々ならぬ戦闘の才能を見せていた兄妹は、類稀な恵まれた環境下で最強の戦闘員に成長していった。


 そんな中、兄妹の生活空間にもう1人小さな捨て子が加わった。


 22歳だった青年ホタカ・スカイは不愛想な男だったが、この小さな捨て子を「坊っちゃん」と呼び、可愛がった。


 いつしかホタカ・スカイは「旦那(だん)さん」と呼ばれるようになった。由来は彼の見るからに分かるむさ苦しさから来るということは、誰の目にも明らかだったが、誰が最初に言いだしたのかは、今は誰にも分からない。


 はっきりしているのは、坊っちゃんはホタカ・スカイを「旦那(だん)さん」と呼んで慕い、それにつられて、偵察局員たちも「旦那(だん)さん」と呼ぶようになったということだけだ。


 「ふぅーっ」

 シラネは大きな溜息を吐いた。


 (おふくろはあたしがものごころつく前に死んでしまったとはいえ、親父、ケサマル・スカイはあたしが15になるまで生きていた。あたしには旦那さん(兄貴)以外にも肉親がいた)


 (だけど坊っちゃんが事実上『肉親』と呼べるのは、旦那さん(兄貴)だけだ。それが死んじまうというのは……)


 シラネは坊っちゃんの方を振り向いた。静かだった。


 (寝ちまったのか……)


 少しだけ近づいて、横顔をながめてみた。


 目じりに涙のあとがあった。


 シラネはその後はもう何も言わず、毛布を坊っちゃんにかけると、自分も毛布をかぶり、眠りについた。



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