21 そうだよ 殺す気だよ
「ぜえぜえ」
拠点の入り口付近まで戻って来た長老は仰向けに倒れた。
ラティーファも座り込んでしまった。
「私はもうすぐ70だぞ。それをこんなに走らせやがって、殺す気か?」
長老は嘆いた。
どこからか声がした。
「そうだよ。殺す気だよ」
「!」
二人が振り返る前に、黒い影は長老を襲った。
「おじいちゃんっ」
ラティーファが叫ぶ。
大きな悲鳴が上がった。長老は後ろに転がった。
黒い影は続けた。
「まだ、そんな体力が残っていたのか?すぐ、とどめを刺してやる」
黒い影は抜刀した。鈍い光を帯びたレーザーセイバーが姿を現した。
「えっ?」
ラティーファは言葉を失った。
(どうして、レーザーセイバーが?)
黒い影は大きく振りかぶると、長老に向けて、振り下ろした。
◇◇◇
長老に向けて、振り下ろされたレーザーセイバーは間一髪のところで、もう一本のレーザーセイバーに阻まれ、はね返された。
「何だ? おまえは?」
黒い影は問うた。
「ふん。テロリストの癖に、この『有能美人秘書』シラネさんを知らねぇとは、てめぇ、モグリだな」
「シラネさんっ!」
ラティーファは驚きやら、安堵やら、いろいろな感情がごちゃ混ぜになり、涙を流した。
更に騒ぎを聞きつけ、何人かの者が、拠点から飛び出して来た。
「シラネさん。おじいちゃんは、おじいちゃんは大丈夫なの?」
ラティーファの問いに、シラネは後方を指差した。
「議長ならそこだ」
そこには腰を抜かしたまま、立ち上がれない長老が座り込んでいた。
「ええっ? おじいちゃんはあそこ? じゃじゃ、今さっき刺された人は?」
シラネは倒れこんでいる男をチラリとながめると言った。
「こいつは第8拠点首長のシナンだよ。あたし一人でここへ来るとなると、間違いなく迷うんで道案内して貰ったんだ」
「えっ? 第8のシナンって、あたしと小さい頃、よく遊んだ、あのシナン君?」
「ラティーファちゃん。覚えていてくれたんだ」
シナンは立ち上がれないまま、微笑した。
「こいつは議長が刺されそうになった時に、思い切り突き飛ばして、代わりに刺されたんだよ。おいっ、誰かミッドラント駐在所に至急通信して、衛生隊に来て貰ってくれ」
シラネは指示を出し、一人の男が頷いて、拠点の通信室に向かった。
「シナン君。どうしてこんな無茶をしたの? 強くもないくせに」
ラティーファの問いに、シナンは微笑しながら答えた。
「下心だよ」
「したごころ?」
「君が好きなんだ。だが、議長からすると僕はまだまだ物足りないようだ。だから、いいところ見せたかったのさ」
「馬鹿っ! だからってこんな無茶する?」
「焦ってたのかもな」
シナンはそこまで話すと、目を閉じた。
「シラネさん。シナン君は、シナン君は助かるの?」
ラティーファの問いにシラネは頭を振った。
「普通じゃ助からねぇだろうな」
「そんな……」
「ごめんよ。ラティーファちゃん。あたしにはもう一つ仕事があるんだ。こいつをぶちのめすというな」
シラネは左手で黒い影を指差し、右手でレーザーセイバーを抜刀した。
それは煌々と輝いていた。
◇◇◇
黒い影もレーザーセイバーを中段に構え直した。
その光は鈍いままだった。
シラネは雄たけびと共に突進し、二つのレーザーセイバーは真正面からぶつかり合った。
シラネのレーザーセイバーの光で黒い影の正体が初めて見えた。
全身黒づくめの男である。
「ふんっ」
いったん間合いをとったシラネは再度突進した。
またも真正面からぶつかり合った。
シラネはぶつかり合ったままの力勝負は避け、間合いを取っての突進を繰り返した。
そして、その度にシラネのレーザーセイバーは光を増していった。
「来る」
ラティーファも予感した。
◇◇◇
「チャージオォォォォンッ!」
シラネはその言葉と共に黒づくめの男に向けて、最後の突撃をかけた。
黒づくめの男は真っ白い光に包まれ、その姿は見えなくなった。
白い光は中空にまで立ち昇り、辺りは真昼のような明るさになった。
「やった!」
ラティーファは叫んだ。
シラネが勝ったのだ。
◇◇◇
そのシラネはそのまま一面の砂漠が広がっている方向に突撃を続けた。
「あっあっ、シラネさん。逆方向だよ。みんな止めてっ! 五人ががりくらいじゃないと、あの人止まんないよ」
何人かの男が追いかけ始めた。
◇◇◇
「これで終わりだと思ったのかい?」
「!」
ラティーファが振り向くと、黒づくめの男はゆっくり立ち上がるところだった。
さすがにその体には数多くの切り傷がついているが、戦闘は十分できるようだ。
(そんなっ、シラネさんのチャージオンを受けて、倒れないなんて)
ラティーファは目の前が真っ暗になり、立ちすくんだ。
「安心しろっ、小娘。じじいも後で一緒にあの世に送ってやる」
黒づくめの男はレーザーセイバーを振り上げた。
◇◇◇
次の瞬間、黒づくめの男は、大きく後ろに飛びのいた。
足元がぶすぶすと焦げている。
「随分、待たせたけど、狂信的暗殺者全部片づけてきたよ」
更にレーザーブラスターを撃ちながら、坊っちゃんは言う。
黒づくめの男は更に射撃をかわした。
「俺たちゃなぁ」
旦那さんもいつになく、言葉に怒気が含まれている。
「強い奴と戦うのは大好きだが、弱い、しかも、洗脳されたような奴と戦うのは大嫌いなんだよ」
「……」
「この貸しはでかいぜぇ。きっちり相手して貰うからなぁ~」
旦那さんはレーザーセイバーを抜刀した。
光はみるみる輝きだした。
「おっ、おうっ、いい感じだねぇ。あ、おまえ、宙港で狙撃手を射殺した奴じゃないか?」
「あ、そうだね」
坊っちゃんも同意する。
「!」
黒づくめの男は明らかに動揺していた。
そして、後方へ逃走を開始した。
「あっ、この野郎。またかよ」
旦那さんも追跡を開始する。
黒づくめの男は、またしても、隠していたセグウェイに跨り、中空に飛び上がった。
「また、空飛ぶセグウェイかよ。坊っちゃん、構わねぇ。撃て撃て」
「うん」
旦那さんに促され、坊っちゃんはレーザーブラスターの連射を始めた。
しかし、黒づくめの男は、巧みに射撃を躱し、彼方に飛び去った。




