208 おじさん 野暮はいけないよ
その後も旦那さんは何度も倒されながらも立ち向って行った。
その度にパウリーネとの距離は縮まり、素人目にも近づいていることがはっきりしてきた。
アナベルは思わず叫んだ。
「旦那さんっ! 頑張れっ!」
次にはオキニィが唱和した。
「旦那さんっ! 頑張れっ!」と。
三度目には、シナンも唱和した。
「旦那さんっ! 頑張れっ!」と。
それは四度目には、20人の普通兵たちをも巻き込んだ大合唱になって行った。
「旦那さんっ! 頑張れっ!」「旦那さんっ! 頑張れっ!」と。
旦那さんはその声に押されるかのように、パウリーネとの距離を更に縮めた。
「ちぃっ!」
イワノフは密かに右手で持っていたレーザーセイバーを左手に持ち替えた。
右手で懐を探り、レーザーブラスターを取り出すと、パウリーネとの対決に集中している旦那さんの頭部を狙った。
◇◇◇
バシイィッ バシイィッ
狙撃音が二つ響いた。
「おじさん。野暮はいけないよ……」
そう呟いたのは坊っちゃん。
「驚きました。坊っちゃん。私より狙撃が早い人初めて見ました」
ルカイヤは驚愕の表情を見せる。
イワノフの右手はレーザーブラスターごと溶解し、壊死が進みつつあった。
イワノフは左手に持ったレーザーセイバーで自らの右手を切断した。
「さすが元工作員。それが正解ですね」
ルカイヤは冷たく言い放つ。
「貴様ぁ~。ルカイヤァ~」
イワノフは怨嗟の声を上げる。
「これで済むと思うなよっ! 今、他の軍団長と衛兵も呼ぶからなぁ~」
「それは好都合……」
ルカイヤの冷たい物言いは変わらない。
「パウリーネ様は旦那さんとの対決に集中している。残りの『洗脳機関』メンバーは私が全員撃ち殺してあげましょう」
(なんて迫力だ。ルカイヤちゃん)
シラネですら引く勢いだった。
「ちいっ」
イワノフは他の軍団長と衛兵を呼ぶことを断念した。




