207 シラネさんらしくもない
まるで台風の中で安い傘をさしているようだった。
パウリーネがレーザーセイバーを振り回すことで起こる圧力の中、旦那さんはレーザーセイバーは自分を守る盾のように縦に真っ直ぐ持ち、ゆっくりと前に歩いていった。
だが、ある程度のところまで近づくと、圧力に耐え切れず、真後ろに倒れて後方に転がった。
ルカイヤ同様、自然に受身をとり、また立ち上がり、ゆっくりとパウリーネに近づいて行く。
近づいては倒され、立ち上がり、また近づいては倒され、また、立ち上がり……
それを何度も何度も繰り返し、いつしか旦那さんの体は、擦り傷切り傷だらけになっていった。
シラネはとうとう大きな溜息を吐いた。
「駄目なのか? 今のパウリーネには、旦那さんでも……」
◇◇◇
ラティーファがクスリと笑った。
「何笑ってるんだ? ラティーファちゃん」
不審がるシラネにラティーファはなおもほほ笑む。
「シラネさんらしくもない。分かりませんか? 旦那さんが少しずつパウリーネさんに近づいていることを……」
「あっああ」
シラネは驚いた。こういう時いつも焦るのはラティーファで、シラネが冷静に諭す側だった。いつの間に、ラティーファは成長したんだろう?
「それに……」
ラティーファは笑顔のまま、ルカイヤの方を向いた。
「ルカイヤさんも気付いているんでしょう? パウリーネさんの変化を……」
「はっ、はい」
ルカイヤも頷く。
「パウリーネ様は、最初は蠅でも追い払うかのようにレーザーセイバーを振り、旦那さんを倒していました。だけど、だんだんレーザーセイバーを構えて、旦那さんの斬撃を待ち受ける形に変わってきています。それに……」
ラティーファは笑顔でルカイヤの次の発言を促す。
「洗脳されて目の色が真っ赤だったパウリーネ様ですが、その色が少し薄まって来たように見えます」
「まさか、洗脳が解けてきている?」
シラネの問いにルカイヤは少し考えてから答える。
「すぐにそれを期待するのは危険ですが、もともとパウリーネ様は自分と同等以上の戦闘力を持った人と戦うことが生きがいでした。旦那さんと相対することで、その時の気持ちを思い出して来ているのかもしれません」
「少しずつだが、希望も見えて来たか……」
シラネは前を向いた。




