188 狂気の沙汰だ
「分かった。オキニィ、『フランク』に通信してくれ。敵の対空砲を潰すように。ルカイヤちゃん、対空砲の沈黙が確認出来たら言ってくれ」
「了解しました。シラネ様」
上空から飛来した『フランク』3機は巧みに対空砲火を回避し、機銃掃射を浴びせる。
その度に、対空砲火の威力は弱まっていく。
「ようし、空挺降下行けそうか? ルカイヤちゃん」
「そうですね。あ、ちょっと待って下さい。10時方向敵機」
「何だと……」
◇◇◇
「『ヤークトリー』戦闘航宙機かい? それも3機だあ? 随分、奢ったじゃないか。ルカイヤちゃん、ぱっと見、敵の技量はどうだ?」
「見たところ、彼我の戦闘機の戦闘力の差はそうないものと思われます」
「ふん。そういうことなら……」
ルカイヤは全体を見回すと声をかける。
「みなさん、本機はこれから乱戦に入ります。シートベルトをしっかり着用し、何かにつかまっていて下さい」
「ひゅー」
シラネは口笛を吹いた。
「気が回るねぇ。ルカイヤちゃん。『偵察局』にくれてやるのが惜しくなったよ。『ミッドラント』に来ないかい?」
「パウリーネ様を知らなかったら、私はどこまでもシラネ様についていったでしょう。ただ、今の私にはパウリーネ様がいます。パウリーネ様のいるところに私は行きます」
「妬けるねぇ。ほいっと」
シラネは巧みな機動で、敵戦闘機の射撃を躱す。その隙に、味方戦闘機が敵戦闘機を射撃するが、撃墜には至らない。
「あたしが隙を作ってやってんだ。頼むぜ。お味方さん」
敵戦闘機の主要任務はシラネの操縦する輸送機の撃墜だ。味方戦闘機の主要任務は敵対空砲の破壊から敵戦闘機の撃墜に変わった。
シラネは自らおとりを引き受け、敵戦闘機の隙を作り、味方戦闘機に撃墜させようというのだ。
普通ではない。いや、狂気の沙汰だ。輸送専門に特化された輸送機で高度な機動を求められるおとりに自らなるとは。
それを平気でやるのがシラネであり、当たり前に見ているのが旦那さん、坊っちゃん、そして、ルカイヤである。
他の者は激しい機動に伴う酔いもあいまって、真っ青な顔をしている。




