184 飼い犬に手を嚙まれる
「あたしは、少し前の旦那さんならそうした。だが、今は駄目だ」
「何故だ?」
「今の旦那さんにはラティーファちゃんがいる」
「!」
「ラティーファちゃん、シナン、エウフェミアちゃん。この三人は自分で決断して『偵察局』や『星間警察』に入った訳じゃない。普通の世界に帰っていくべきなんだ」
「まさか、旦那さんも普通の世界に行かせるのか? 適応出来ないだろう。それに銀河最強のレーザーセイバー使いだぞ。それをむざむざ手放すのは……」
「普通の世界への適応については考えがある。銀河最強のレーザーセイバー使いを手放すのは悪いと思っている。だから、『パウリーネ』を獲得出来たらという条件付きだ」
「坊っちゃんはどうするんだ? エウフロシネ嬢に好意を寄せられているだろう」
「エウフロシネちゃんは、10歳とは思えないほど聡明で行動力もある。あの娘から坊っちゃんがいる『偵察局』に自分も入りたいと言われている」
「…… そうは言っても、旦那さんもいろいろ問題があるとは言え、手放すのは考えさせられる……」
「分かっている。これは完全にあたしのわがままだ。だが、今までの組織への貢献に免じて、認めてほしい」
「それを言われると弱い。考えさせてくれ」
「いい答えを期待しているよ」
◇◇◇
「今度は惑星『ウーファリーズ』と『クレルボー』の拠点が潰された。やってくれたのは名前も聞いたことがない『偵察局員』だ」
「それもルカイヤが養成した奴か?」
「なんて奴だ。飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのことだ」
「戦役で死者数が少ない方が偉いとか言っている奴だ。いかれてるんだ」
全く建設性のない議論に熱中しているのは「洗脳機関」の第二、第三、第四軍団長である。
そこにゆっくり歩きながら姿を現したのは第一軍団長のパブロワである。
「どうした? 不機嫌そうな顔をして?」
「ルカイヤのことで総裁に何か言われたのか?」
「ルカイヤはとんでもない奴だな」
パブロワはゆっくり椅子に腰を降ろすと言った。
「事態は最悪になった」
「何だ? 何を言われた?」