172 ひょっとして百合?
(うわあ。今まであたしの周りにいなかったタイプだ。ラティーファちゃんとも、エウフェミアちゃんとも、アナベルちゃんとも違う……)
「はっ、はい。取締役でいいです。ところで、ルカイヤちゃん。体調の回復具合はどう?」
「鋭意、早期の体調回復に尽力しています。多少、無理をすれば戦線復帰出来るレベルまで回復しています」
「いや、無理することないけどさあ。少し、サイボーグ化したし、リハビリもいるしね」
「サイボーグ化は大歓迎です。リハビリも順調に進んでいますし、早く戦線復帰したいのです」
「(真面目か?) まあ、無理しないでルカイヤちゃん。無理をして、また体調崩したら、元も子もないからね。ルカイヤちゃん」
「…… シラネ・スカイ取締役」
「(うわ、何だろ? 怖い顔しちゃって)な、何でしょう?」
「私のことをルカイヤ『ちゃん』と呼ぶのは命令ですか?」
「い、いや、命令ってんじゃないけど、あたしはこういう性質だから、同世代以下の女の子はみんな『ちゃん』で呼んでて……」
「出来たらやめてほしいのです。『ルカイヤちゃん』と呼ばれると、どうしても守れなかったある人のことを思い出してしまって……」
(あ…… そうか、パウリーネのことを……)
シラネは一度深呼吸すると、会話を再開した。
「まだ、『守れなかった』かどうか分かんないじゃん。旦那さんと張れるレーザーセイバー使いなんか他にいないしさ、殺すなんてもったいないことしないよ。そして、生きてるんなら取り戻せばいいんだよ。あたしら全力で協力するしさ」
(この人は!)
ルカイヤは下を向いた。涙が出てきそうなのを見られたくなかったのかもしれない。
(いた。この私がこの人の下で戦いたいと思う人が。パウリーネ様の他にもいた)
「いいです」
「え?」
「私のことを『ルカイヤちゃん』と呼んでいいです。そして、貴方様のことは『シラネ様』とお呼びしてよいですか?」
「(『様』! 『取締役』でないなら、『様』! この娘の思考回路は分からん)うん、まあ、いいけど」
「ありがとうございます。一刻も早く戦線復帰できるよう努力します」
「う、うん。まあ、あまり思いつめないようにね」
「お心遣い。感謝します」
(む~。他の娘たちはあたしを姉として慕う感じだったけど、この娘、ひょっとして『百合』? やばい世界に踏み込むことになったらどうしよ……)
シラネの思いをよそに、ルカイヤは熱い視線をシラネに浴びせていた。