171 もう少し自覚というものをおもちになっては
ただただ、病院の個室の寝台に横たわり天井のシミを数えることはルカイヤにとってとても苦痛だった。
考えてみれば「ビル・エル・ハルマート」を脱出したあの日から、ただ安静にしろと命じられたことなどなかった。
難民の子としての言われなき差別と戦って、戦って、ここまで来た。
そして、この人のために戦うと唯一心に決めたパウリーネを敵の手に奪われ……
(私は一体何をしているのでしょう? 何をして来たんでしょう?)
嫌でも自分と向き合わざるを得ない状況と直面している。
(いや、今後のことは考えないようにしましょう。今、いくら考えても、きっと答えは出ません)
(パウリーネ様はきっと生きています。『銀河帝国』最強のレーザーセイバー使い旦那さんに対抗できる人材はそうはいません。殺してしまうようなもったいないことをしないでしょう)
(今は一刻も早く体調を戻し、パウリーネ様を取り戻す。それだけです)
◇◇◇
「そんでさぁ、ルカイヤちゃん」
「ルカイヤ『ちゃん』?」
シラネの「ちゃん」つけに怪訝そうに対応したのは、ルカイヤが初めてだろう。
「私のことは『ルカイヤ』とお呼びください。シラネ・スカイ取締役」
「と、とりしまりやく?」
確かにシラネはミッドラントの「取締役」が正式な肩書である。
しかし、普段の呼ばれ方は、偵察局長のシラネ「君」、他の者のシラネ「さん」、いくら言ってもやめない旦那さんと坊っちゃんの「姐御」。「取締役」は初めてだ。
「何かさぁ、あたしにはそういう堅っ苦しいのは合わなくてさぁ、シラネ『さん』って言ってくんない。シラネでもいいけどさぁ」
「シラネ・スカイ取締役」
「はっ、はい」
ルカイヤの真剣な表情に、思わずシラネは後ずさる。
「失礼ながら、貴方様は銀河全土で何十万人もの従業員のいるミッドラント財閥の取締役です。ミッドラントは精鋭主義で、それだけ従業員がいるにも関わらず、会社役員は十五人しかいない。貴方様はその中のお一人です」
「はっ、はい。そうですね」
「もう少し自覚をいうものをお持ちになったら、いかがでしょう?」