表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チャージオン~光らせたい男と不器用な女のお話  作者: 水渕成分
第二章 砂の惑星Ⅱ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/230

15 記憶にありません 

 緊張感は急に解けた。


 シラネが急にレーザーセイバーを右手だけに持ち換え、下に向けたからである。


 もっとも煌々(こうこう)とした光は変わらない。


 まるで儀式(セレモニー)のように、旦那(だん)さんもレーザーセイバーを右手だけに持ち換え、下に向けた。


 先に口を開いたのはシラネだった。

 「やはりてめぇだったか。相変わらずむさい野郎だな」


 旦那(だん)さんも応じた。

 「初対面でなかったらゴメンね。なにしろ記憶がないもんで、でも、それ差し引いても、貴方、口が悪いね」


 シラネは激高した。

 「何言ってやがるっ。てめぇのその『記憶にございません』のおかげで、こっちはどれだけ迷惑したと思ってんだっ!」


 「ええーっ!」

 ラティーファは思わず叫び、前のめりになった。

 坊っちゃんはあわてて右手でラティーファの左肩を(つか)み、前に出ようとするのを制した。


 坊っちゃんに左肩を(つか)まれながら、ラティーファは思った。

 (この女の人の立場って、あたしと同じ~?)


 また別の疑惑が鎌首をもたげてきた。

 (この男、あちこちで記憶をなくして、女を振り回して来たんじゃあ?)


 各人の思惑を知ってか知らずか、いや、知らないのだろうが、旦那(だん)さんは火に油を注いだ。


 「貴方。口が悪いって言うか、がらっぱちなんだね。えーと、何だっけ? スケバンじゃなくて、あー、『姐御(あねご)』って感じ?」


 「この野郎ーっ。言うに事欠いて、あたしがてめぇの姐御(あねご)だぁ? 許さんっ! 今回は仁義切るだけのつもりだったが、てめぇの水分、全部水蒸気にしてやるっ!」


 シラネはレーザーセイバーを構え直し、大きく振りかぶった。


 「わっ、わっ、ひょっとして地雷踏んじゃった? 俺?」


 旦那(だん)さんはあわてて、レーザーセーバーを構えた。


 シラネは一度後ずさると、助走で勢いをつけて、叫び声を上げて、旦那(だん)さんに斬りかかった。


 「あたしの名前は『シラネ』だぁーっ、覚え直して、あの世に行きやがれーっ」


 旦那(だん)さんは両手でレーザーセーバーをしっかり握り、シラネの斬撃を受け止めた。


 シラネはそのまま力勝負に持ち込もうとせず、間合いを取った。


 「シラネ……」

 旦那さんは(つぶや)いた。


 「そうだっ! 何か思い出したか?」

 シラネは構え直しながら、問いかけた。


 「…… ゴメン。何も思い出せない。姐御(あねご)


 「この野郎ーっ」

 シラネは再度助走で勢いをつけ、旦那(だん)さんに斬撃を加えた。


 「むん」

 旦那(だん)さんは今度も両手でレーザーセーバーをしっかり握り、斬撃を受け止める。


 今度は力勝負になった。高揚したシラネと淡々とした旦那(だん)さんの表情は対照的である。


 いや、対照的なのはむしろ斬撃ごとに光を増すシラネのレーザーセイバーと鈍い光のままの旦那(だん)さんのそれの方だろう。


 斬撃を繰り返すうちに、シラネのレーザーセイバーは(まばゆ)いばかりの光を放つようになった。



 ◇◇◇



シラネはいったんぶつかり合っているレーザーセイバーを外し、大きく間合いを取った。


 「まずい」

 坊っちゃんは直感した。

 (このままじゃあ)


  「うおぉぉぉーっ」

 おたけびをあげたシラネはレーザーセイバーを大上段に構え、旦那(だん)さんに向けて突進した。


 「チャージオォォー」

 シラネの掛け声が終わる前に、坊っちゃんは行動に出た。


 「お姉ちゃん。ごめん」


 その声と共に、坊っちゃんはラティーファを前に突き飛ばした。


 「えっ? えええーっ」


 いきなり突き飛ばされたラティーファは旦那(だん)さんの前でシラネと相対する形となった。


 「…… えーと」

 シュンと音をたて、シラネのレーザーセイバーから光が消え、シラネも茫然(ぼうぜん)として、立っているだけになってしまった。


 ラティーファはようやく声を絞り出した。

 「どっ、どどど、どーも。初めまして。ラティーファ・ラフマーンと言います」


 「あ、ああ。こちらこそシラネ・スカイだよ。よろしくね」

 柄だけになってしまったレーザーセイバーを持っていた右手を下に下げ、シラネも受ける。


 ラティーファはおもむろに旦那(だん)さんを指差すと、

 「あっ、あああ、あのですね。こんなんでも一応うちの拠点で飼っている訳でして……」


 シラネも旦那(だん)さんを指差す。

 「あ、こっ、これ飼ってんの? それはそれは、ご愁傷(しゅうしょう)様じゃなかった。ご苦労様」

 

 「ふぅーっ」

 シラネは大きく息を吐くと、


 「何だか白けちまったな。いいよいいよ。今日のことは貸しにしといてやる」

 そう話すとゆっくり歩き出した。


 「あっ、あーっ」

 旦那(だん)さんが叫んだ。


 「姐御(あねご)-っ。そっちはー」


 「うるせぇな。姐御(あねご)って呼ぶんじゃねぇって、言ったろうがっ!」

 シラネは早足で去って行った。


 「あっちは一面の砂漠で何も無いのに。大丈夫かな? あの人」

 旦那さんは呆れるように(つぶや)いた。



 ◇◇◇



 シラネが去った後、


 「さあて、寝直すか」

 と言った旦那(だん)さんの左肩を右手でがっちり(つか)んだのは、果たしてラティーファだった。


 「あ・ん・た・た・ち、まさかこれで終わりにするつもりじゃないでしょうね?」


 ラティーファの剣幕に、旦那(だん)さんは恐る恐る口を開いた。

 「あのもしかして、怒っていらっしゃいますか?」


 「当たり前でしょう!」


 旦那(だん)さんは小さく溜息をついた。

 「ああ、やっぱり」


 「お姉ちゃん。ごめんなさいっ」

 坊っちゃんは直立不動で頭を下げた。


 「ああでもしないと、姐御(あねご)は絶対チャージオンしていたんだ。ここでチャージオンされたら、周りにどんな影響があるかわからないし、旦那(だん)さんもそうだけど、姐御(あねご)もどんな副作用が出るか……」


 ラティーファは下を見て、一瞬、溜息をつくと、続けた。

 「それはわかったけど、何であそこであたしを突き飛ばす訳?」


 「それはその……」

 坊っちゃんはいったん口を濁したが、意を決したように、続けた。


 「つまり、姐御(あねご)から見て、旦那(だん)さんは倒し甲斐のある強敵だから、チャージオンする訳。そこにあんまり強くない人を挟むと……」


 「チャージオンしなくなるって訳ね。全くぅ」

 ラティーファは不機嫌そうに(うなず)いた。



 しばしの沈黙の後、旦那(だん)さんが口を開いた。


 「えー。納得していただいたようですし、帰りますか?」


 「待った」

 ラティーファは旦那(だん)さんの提案を一刀両断にした。


 「あんたには別に聞きたいことがあるんだぁ」


 「ななな、何でしょう?」

 緊張する旦那(だん)さんにラティーファは淡々と続けた。


 「あんたとあのシラネさんの関係は何なのかな~って、あちらはあんたのこと、よっくご存知のようだったけど?」


 「記憶にありません」


 「あんたね~っ。それでさっきシラネさんを怒らせたばっかでしょうっ!」

 ラティーファは旦那(だん)さんの胸倉を(つか)んだ。


 「だっ、だってホントに憶えてないんだもん」


 「あんたね~。前から思ってたけど、あんた、本当に記憶喪失っ? 都合の悪いことだけ、忘れてない~?」


 「そっ、そのようなことは。本当に憶えてないんです~」



 坊っちゃんは大きなあくびをした。


 「旦那(だん)さん。お姉ちゃん。僕、もう眠いから寝るね」


 「うん。おやすみ。坊っちゃん。あたしはもう少しこの男を締め上げるから」


 「そ、そんな~。勘弁してくださいよ~」



 砂漠の惑星(ほし)の夜は更けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >レーザーセイバーを右手だけに持ち換え、下に向けた 素敵な表現ですね (`・ω・´)ゞ~♪ [一言] >砂漠の惑星の夜は更けていった。 続きが気になりますが、続きは今度読みますね (*…
[良い点] > (この女の人の立場って、あたしと同じ~?) > 「チャージオンしなくなるって訳ね。全くぅ」 ラティーファの扱いに笑いました。坊っちゃんきちく! [一言] 脱稿お疲れさまです。投稿ペ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ