118 手加減って何? おいしいの?
「剣術訓練コース」はようやく機能した。
「ビル・エル・ハルマート」への行程は長く、新教官シラネは先に送付した動画で基礎の繰り返しを強調した。
訓練生は不安を抱きながらも、基礎を繰り返し、シラネの指導に臨んだが、不安は瞬く間に雲散霧消した。
誰もが充実を感じていた。
だが、問題はこれをいつまでも続けられないことにある。
◇◇◇
「どうだ?」
偵察局長の問いに、シラネは淡々と答える。
「悪くはないね。さすが、選抜されて来ただけのことはある」
「問題はこの後か……」
「そうだね。あたしが訓練生の動画を送って貰ったのを見ての通信教育にするにしても、どうしても実戦は必要になる」
「何か考えはあるか?」
「なくはないが、今後の状況による。また、相談するよ」
「そうか」
◇◇◇
「ね~えぇ~、ルカイヤちゃ~んっ、たいくつっ~」
パウリーネはルカイヤにしなだれかかる。
「だから、『指揮官』候補生に実戦指導して下さいって言ってるでしょう」
「つまんないっ! つまんないっ! 『指揮官』候補生、ちょっと力入れると、すぐ音を上げるし」
「そこは上手に『手加減』して下さい」
「『手加減』って何? おいしいの?」
ルカイヤはおもむろに作業していたウィンドウを閉じ、文書検索をかけた。
「何してんの? ルカイヤちゃん」
「ええ。『退職願』。どこのフォルダにしまったか忘れてしまって。すぐに作って、提出しますので」
「ルカイヤちゃ~んっ」
パウリーネはルカイヤに抱きついた。
「いやっ! いやっ! 辞めないでっ! あたしを捨てないで~っ!」
「だったら、真面目に仕事して下さい」
「ブーブー。仕事つまんない。こないだの旦那さんみたいなとの戦うのないの?」
「ああいうのはめったにないです。今ある仕事をして下さい」
「もぅ~っ、ルカイヤちゃん。仕事なんかやめて、あたしとあそぼ」
「えーと、『退職願』入れたフォルダは……」
「分かった。分かりました。仕事します。その代わり、仕事終わったら、ルカイヤちゃん。あそんでね」
パウリーネは渋々訓練場に向かった。ルカイヤは溜息をつくと、事務作業を再開した。
 




