103 大体 飲みが足りないんだよ
(おかえり、エウフェミア。うん、これだな。精一杯の笑顔を見せて)
万全の準備を整えるティモンの眼に映ったのは、シナンに寄り添うように歩くエウフェミアの姿であった。
(うっ)
衝撃を受け、硬直するティモンを尻目に、エウフロシネはエウフェミアのもとに駈け寄る。
「お姉ちゃん、おかえり」
精一杯の笑顔を見せたのはエウフロシネだった。
「ただいま、エウフロシネちゃん、元気にしてた?」
「うん、あたしね。毎日、お弁当作って、『人材育成機関』の坊っちゃんのところに届けてるんだ」
「そうなんだ。偉いね~。そして、よかったね。かっこいいボーイフレンドが出来て」
「えへへ」
エウフロシネは、はにかむ。
その陰で、大打撃を受け、立ち上がれないでいるティモンの姿があった。
「島長、どうしたんですかい? すっかり、たそがれて」
見かねた荒くれ海の男が声をかける。
「なに、子どもというものは、知らぬ間に親の手を離れて行くもんだなと感慨に耽っていただけだよ」
「何言ってるんだか、よく分かんねぇけど、飲みます?」
「なんか最近、飲んでばっかりいる気もするけど、そうする」
◇◇◇
一行は、今日一晩は、この島で歓待を受け、一泊した後、明朝、『人材育成機関』の島に行くことになった。
かつて、エウフロシネが坊っちゃんを誘って、宴会を中座したように、エウフェミアは勇気を振り絞り、シナンを島の散策に誘った。
「あれ? エウフェミアはどこ行った?」
ティモンはやはり気付いた。
「お父さんっ!」
エウフロシネの厳しい声が飛ぶ。
「野暮は言いっこなし!」
「ええっ?」
思わず声を上げるティモンに、荒くれ海の女たちのツッコミの追撃が入る。
「そうそう。エウフロシネちゃんの言うとおり」
「野暮は言いっこなし」
「大体、島長、飲みが足りないんだよ」
「飲ませろっ! 飲ませろっ! 潰しちまえっ!」
「んぐぐぐ」
ティモンはそれ以上の追及を出来ない状況に追い込まれた。




