深夜のファッションショー
それそれが帰路に就き、自宅に帰る。
きっとみんな今日と言う日を忘れないだろう。
杏里と一緒に自宅に帰り、いつもの様に一緒にご飯の準備をする。
向かい合って普通のご飯を食べるだけなのに、幸せを感じるってとても素晴らしい事だと思う。
「そうだ、お父さんが持ってきてくれた紙袋、夕飯の後に食べようか」
そういえばそんなもの貰っていたな。
要冷蔵ではないので、置きっぱなしだった。
「中身なんだろう? フルーツ缶とかかな?」
「クッキーとかじゃない? 後で紅茶入れようか」
杏里の準備した紅茶はいつでもいい香りがする。
「司君、開けるよ」
「甘いものだといいな」
「きっと甘い物。お父さんは私の欲しいものを知っているから」
ガサガサしながら杏里が箱を開ける。
出てきたのは予想外の品物。
「食べられないね……」
「あぁ、でも胸はいっぱいになるな」
そこには俺が直したカップと似たようなティーカップ。
二客入っており、ソーサーもついている。
そして、小さな手紙が添えられていた。
『忙しい中作ったんだ。二人で使ってくれ、もう壊すなよ』
杏里と俺はカップを手に取り、しばらく微笑み合う。
茶菓子は無かったけど、それ以上の物を貰ってしまった。
雄三さん、ありがとう。
杏里もきっとよろこんでいますよ。
「お父さん、わざわざ準備してくれたんだ」
「カップが割れた時、同じものを手に入れようと、一度雄三さんに聞いた事があったんだ。多分その時から準備していたんじゃないかな」
微笑み合う俺達。
新しいカップを見ながら、杏里と一緒に紅茶を飲む。
なんとなく雄三さんと杏里のお母さんが俺達の側で微笑んでくれている気がした。
――
「で、いつ行く?」
『今度の休み! 駅前で待ち合わせでいいよね、ちゃんと良君と杉本さんにも伝えておいてよ!』
電話越しなのに声がでかい。
もっと静かに話せよ、耳が痛いじゃないか。
「はいはい。詳細決まったらメッセするなー」
以前手に入れた動物園のチケット。
色々と忙しく、いつ行くか全くの未定だったが、真奈の要望もあり日程が決まる。
「杏里、週末行けそうか?」
「大丈夫じゃないかな? 彩音に連絡しておくね」
杏里経由で杉本姉弟に連絡。
むこうの日程も大丈夫なようだ。
チケットは五枚。
俺と杏里、杉本とその弟。そして真奈。
残念だが高山の分はない。すまんな。
「司君と動物園かー、楽しみだね」
「あんまり遠出しないからな」
文化祭も終わり、イベントとしては良い評価を貰えた。
最後の最後で問題はあったが、来年度の課題にもなる。
交際宣言をした遠藤カップルもお昼を二人で食べたり、登校や下校を一緒にしているのを何度か目撃した。
あいつら、本当に走って通っているのか?
体力あるんだなー。デートとかどんな所に行っているんだろう?
ジムとかかな?
動物園に行く前の最後の登校日。
放課後杉本と時間の最終確認をする。
「彩音、明日駅前で九時ね。良君にもよろしく伝えておいてね」
「うん、みんなで動物園か。楽しみっ」
笑顔で杉本は杏里と話しているが、その隣で暗黒オーラを出している人物が一人。
「なんでだよ、なんで俺のチケットないんだよ!」
「だから、五枚しかないんだって。しょうがないだろ?」
「俺だって彩音と動物園に行きたいのに!」
「残念だったな。また今度行こうぜ」
「……。彩音悪い、今日は先に帰る」
ふてくされたのか、高山は先に帰ってしまった。
まったく子供なんだから。
「高山君、機嫌悪くしたかな?」
「今回はしょうがない。チケットは五枚しかないからな」
「そうだけど」
「ほら、明日は朝早いんだ、みんなも帰って明日の準備しよう」
「そ、そうだね。お弁当いっぱい作らなきゃっ」
杏里の手造りお弁当。
杉本のお弁当もおいしいのを知っている。
明日は楽しい一日になりそうだ。
――
「どっちがいいと思う?」
これで何度目だ。
さっきから似たような服を着たり脱いだり。
「あー、こっちがいいかな?」
「そう……。じゃぁ、こっちは?」
あ、それさっき一度着てるよ?
時計の針は十二時を回ろうとしている。
早く寝ないと……。
「聞いてる?」
「聞いてます! しっかりと聞いてますよ! うん、杏里。杏里にはこれが似合う、これが一番だよ」
杏里は何を着ても似合います。
嘘じゃないよ、本音だよ。
「そ、そうかな? じゃぁ、コレにしようかな……」
「おう、それが良い。ばっちし! 可愛いよ!」
「可愛い……。えへっ、じゃぁこれにしよう!」
やっと決まった明日の服。
長い戦いだったぜ。
「じゃぁ、バッグはどっちが合うかな?」
父さん、母さん女の子って大変なんだね。
男とは違うんだね。
「そうだな、その服にだったら――」
明日みんなで動物園に行く。
俺もまだ行った事の無い動物園。
杏里と手を繋いで回って、お弁当食べて、お土産買って。
楽しみだな。
「よし、バッグはこれにしよう。司君、指輪つけていく?」
学校には着けていかないリング。
校則で禁止だからな
「そうだな、つけていこうか」
こうして深夜のファッションショーが終わり動物園に向けて装備品が決まっていく。
――
「起きて! 司君、朝っ!」
「ふぁぁぁ! 今何時?」
「まだ、間に合うよっ! 早くおにぎり握って!」
「……俺が?」
「そうだよ、司君のおにぎり美味しいから」
そう言われたらしょうがない。
「よし、握るか!」
早朝。
下宿に響き渡る声。
今日は快晴、絶好の動物園日和。




