愛のささやき
「さて、諸君」
俺は交換所を出て、歩きながらみんなに話しかけた。
「どした? 何かあったのか?」
「いやいや、何かじゃないだろ? スタンプラリーが始まる前に何か言っていなかったか?」
「ん? 何か言ったっけ?」
高山はすっとぼけた顔つきで俺の方を見ている。
え? 本気で覚えていないんですか?
「あれ? 杉本さんは覚えていますよね?」
「えっと、一応覚えているかな?」
ちょっと怪しい顔つきになっている。
「あー、杏里は覚えているよね?」
さすが杏里。
笑顔で俺に答えてくれる。
「もちろんです。かき氷のチケット二組です!」
違う! それは杏里の願望だろ!
「えっと、俺の記憶が確かなら『負けた方は、勝った方の言う事を一個聞く』とか、高山が言っていた気が……」
はっと思いだしたかのように高山は頭の後ろをかきはじめる。
「あー、思いだした。そういえばそんな事言ったかも」
「で、俺達の言う事何か一つ聞いてくれるんだろ?」
「しょうがないな。彩音に変な願い事するなよ?」
誰がするか! さて、何にしようかなー!
「私から一ついいですか?」
お、先攻は杏里か。
杏里は一体二人に何をさせるんだ?
「私から彩音に。そうね、心のこもった恋文を原稿用紙十枚書いて高山さんに渡す、ってのはどう?」
「恋文? 高山君宛に書くの?」
杉本の頬が少し赤くなる。
枚数は問題じゃないのか? 十枚って結構な量だぞ?
「そう、心を込めて愛の言葉を」
「わ、わかったよ。えっと、夏休み中にレポート提出するね」
いや、レポートとかじゃないから。
ラブレターだよ?
「じゃ、俺は高山にだな……」
うーん、何にしようかな。
何か面白いものがいいな……。あ、あれにしよう。
「じゃ、高山には愛を叫んでもらおうか」
「叫ぶ?」
「スタンプラリーで言った岬があるだろ? 岬から海に向かって『彩音、大好きだぁー! 愛してるぅぅ!』とか、何か杉本さんに向けて、愛を十回ほど叫んでくれ」
「で、出来るかぁ!」
「ほぅ、出来ないのか。高山の想いはそんなもんなのか? もちろん俺達はいない。二人っきりでしてくれ」
「ぐぬぬぬ……」
悔しいか? 悔しいだろ?
でもな、その想いを言葉にして叫ぶと、良い事あるんだぜ!
多分。
「期限は明日までだな。さて、杏里。俺達は宿に戻ろうか? 課題の話もしたいしさ」
「そうだねー。戻ろうか? あ、最後にあそこで写真撮らない?」
毎度お馴染みの写真撮影機。
どこに行っても見かけますね。
「そうだな、せっかくリゾートに来たんだし、記念に撮っておくか」
四人揃って写真を撮影する。
ゲームセンター以来だな、みんなで撮るのは。
「準備はいいか? コイン入れるぞ」
こうして俺達のリゾートバイトは半分くらい遊びながら十分に楽しんだ。
明日俺達は普段の生活に戻る。バイトも最終日だ。
出来上がった写真を切って、それぞれが手に持つ。
「二枚目だな」
「俺の事か?」
高山がスマイルを俺に向けてくる。
「違う、四人で撮ったのが二枚目だってことだ」
「何だ、俺の事じゃないのか?」
「三枚目だったら、高山かもな」
「いや、三枚目だったら天童だろ?」
くだらない話で盛り上がる。
俺達は、このまま大人になっていくのだろうか?
いつの日か、バラバラになってしまうのか?
「なぁ高山」
「ん?」
「さっきの願い事キャンセル」
「なんだ、やめるのか? せっかく覚悟したのに」
「悪いな。新しいお願い事いいか?」
「さっきより難しいのか?」
「どうだろう。俺の願い事は、大人になっても、年とってもお前と友達でいたい。今日みたいに同じ時間を過ごして、お前と一緒に……」
「天童!」
話している途中で切られてしまった。
「な、何だよ……」
「その願いはすでに叶っている! 俺とお前は死ぬまで親友だぜ!」
「……そっか、叶っているのか。ありがとう」
「ま、長い人生一緒に楽しく過ごそうぜ!」
肩を組んでくる高山の腕は重く、でもそれが心地よいと感じている。
このまま、みんなでずっといる事ができるといいな。
「じゃ、やっぱりさっきの願い事よろしく。しっかりと叫んでくれ」
「え? そうなるの?」
「だって、もう叶っているんだろ? だったら初めの願いでよろしく」
「は、恥ずかしー」
両手で顔を隠しながら小走りで去っていく高山。
その、向かう先は岬方面であり、高山の後を杉本も小走りで追いかけていく。
「高山君! ちょっと待ってよ! ごめん、杏里。私、先に行くね」
二人を見送る俺と杏里は、手を繋ぎ、寄り添うように杏里の肩が俺に触れる。
「司君も、私に愛を叫んでくれる?」
杏里が微笑みながら俺に話しかけてくる。
「だったら俺にラブレターを原稿用紙十枚書いてくれるか?」
「ふふ、司君が欲しいって言うのであれば、二十枚でも百枚でも書くよ」
何だか照れますね。
「そっか、だったら俺も杏里の耳元で愛を囁やいてやるよ」
杏里は頬を赤くしながら俺の手を握り返してくる。
俺は杏里の耳元で、そっと言葉を伝える。
「杏里、好きだよ。失うのが怖い位、俺は杏里の事が好きだ」
遠くに光る星を眺めながら、俺達は歩き始めた。
「今度、手紙書くね」
「おう、待ってるぞ」
遠くの方から声が聞こえてくる。
誰かが何かを叫んでいるようだ。
何となく聞いた事のあるような声だけど、聞かなかったことにしよう。




