決死の覚悟
俺は出迎えに来た神の卷属に対し、無礼極まりない態度で応じてしまった。直音がいたから多少穏便に事が運んだけど、この先、どうなることやら。
◇◆◇◆
(我が姿、目にするが良い)
姿を表した卷属に俺は本気で死を覚悟した。
年は俺と同じくらいに思えたけど、髪の毛は銀色に輝き、背中には白く美しい羽根があった。天空の神に連なる神々だけが不死であり決して滅びることはないと言われている。
「あ、あ、あなた様の御名前、お聞かせ頂けますでしょーか?」
まさか神様が登場するなど思いもしなかったから、オドオドしてしまい言葉使いがおかしな事になっていた。
(我はカナタ・ニーク・アクセル)
「や、や、や、やはり、神様であらせられますか。数々のご無礼、この命で償わせていただきます。ですが彼女の命だけはどうか奪わないで頂けませんでしょうか?どうか、ご慈悲を!」
俺は土下座をして本気で謝罪した。この際、言葉使いなどにかまけていられなかった。
(お前の命など欲しくない。人間が無礼なのも知っておる)
俺は恐怖に震えていると、何だか背筋がゾクゾクし始めてきた。
(お兄様、こちらでしたか)
「お兄様?と言うことは、ま、ま、まさか・・・ミライ・ニーク・アクセル様?」
俺は死を免れた事に安堵し失念していたが、このミライ様の方が慈悲の心が全くないだけに恐ろしいことを思い出していた。
(この虫けらは何?どうやって侵入したのかしら)
(ミライ、落ち着け。我が連れてきたのだ)
(お兄様、この人間で何かの実験でも?)
(この人間、些か面白そうでな)
(わたくしも実験とやらのお手伝いを致しますわ)
話が勝手に進んでしまい、危うく人体実験されるところであった。
「神様、私など面白くも何ともないただの人間です。ご再考を」
(お黙り、人間。それよりも、お父様のもとへ行きなさい。生きて帰れと思わないことね)
「えーと、父上と言うことは、あわっあわっあわっ、あの最高神・天空の神様??
俺、今度こそ確実に殺される。人間ごときが神の領域を侵すこと事態、万死に値すると言うのに・・・よりによって天空の神様の御前に行くとは」
(人間。我らの事をよく知っておるな)
「はい、俺、いや私は神様を崇拝し楽園に憧れて育ってきました。ですから普通の人間より神々の事情に精通していると思います」
(ミライ。父上のところに案内せよ)
(えー、いくらお兄様の頼みでも人間といるのは嫌ですわ)
(そうか、では我が行こう)
神は奇跡を起こし、俺たちを別の空間に転移させた。
◇◆◇◆
「直音、短い付き合いだったな。今度こそ俺は死んでしまうでしょう。ありがとう」
「大丈夫ですよ、大将さん。神様は慈悲深いですから」
直音は知らなかったのだ。天空の神様は人間嫌いなことを。
俺はずっと楽園に憧れていたけど、こんなに緊張し、こんなに恐ろしいところだとは思いもしなかった。
◇◆◇◆
(父上、人間を連れて参りました)
(ひったてろ)
「やはり、俺の生涯はここまでだったのか。でも、憧れの楽園で死ねるなら本望だ」
(父上、我に考えがあります。この人間を預からせてはくれませんか?)
(どうするつもりだ?お前がそうしたいなら構わん。好きにするが良い)
(ありがとうございます。では、これにて)
どうやら命だけは助かったようだが、冷や汗と足腰の震えは未だに止まらなかった。
寿命が10年、縮んだ気がした。