神様、帝国崩壊と新たな世界!
皇太子と話していても時間の無駄と気付いた俺は神の力に頼ることにした。
「小山野とやら、何をしようとも世の勝利は変わらぬぞ」
「彼方、こいつら皇族を一ヶ所に集められるか?」
「おい、大将!どうする気だ?」「若様、お待たせしました」
(どこに集める気だ?)
「そうだな、川に中洲でも作ってそこに集めよう」
(中洲だな、すぐに用意する)
みるみるうちに小島のような中洲が出来上がった。川幅は50メートル程、深く流れの速い大河であり、人間が自力で渡ることは厳しいだろう。流されたら最後、確実にヴァルハラ行きだ。
(良し、皇族とやらを中洲に終結させるぞ)
「アリシア以外は全て中洲に置き去りだ!」
皇帝を含む皇族たちは自身に起きていることが理解できないでいた。中洲でキョロキョロと辺りを見回し、互いに目を白黒させていた。
「皇帝陛下ならびに皇族の方々、初めまして。私は小山野 大将と申す。今から貴殿らに神罰を下す。多くの命を踏みにじった罪、無に帰して悔い改めよ」
「若様、無に帰したら悔い改められませんよ」
「もう悔い改めなくても良いんだ。ユミも奴等に一言かましてやれ」
「帝国の方々よ、私は故郷も家族も友人さえも貴様らによって奪われた。これで少しは民に優しい世界となるだろう。安心して召されよ」
「俺からの最後の手向けだ。人の世に仇なす俗物たちよ。貴様たちはヴァルハラでも生温い。彼方、いっちょ派手にブチかましてくれ!」
(了解、派手にやって良いのだな?どうなっても知らんぞ)
「マーズの大将とやら、ちょっと待たれ。一体世に何をしたのだ?このままではただでは済まさんぞ」
皇太子の合図によって、どうやら時間稼ぎの弁明が始まったようだ。
「兄上、あの銀色の髪・・・まさか、そんなはずはあるまい」
「息子どもよ、惑わされるでないぞ。神など存在せん、兵はどうした!なぜ奴等に攻撃せんのだ!」
これ以上、聞くに耐えかねたアリシアが会話に割りこんできた。
「父上、帝国はもうおしまいです。神は存在しないのかも知れませんが慈悲の心は存在するのです。お別れです、これで私は辛さから少し解放されます」
「アリシア。お前は父を失っても辛くないと言うのか?お前にとって何を失うことが辛いのだ?」
「慈悲深い心、理不尽なまでの格差です。兄上たちも父上同様、頭の中には自身の欲望しかありませんでしたね。それがとても辛かったのです」
「クソッ、アリシアめ!妹の分際でこの兄たちを欺くか?お前こそ神罰が下ると言うものよ(笑)」
「帝国皇帝として最後に問う。そこの銀髪の者、そなたは何が望みだ?」
(今更、望みなどない)
「我ら皇族を慈悲の心とやらで逃がしてはくれぬか?」
「お兄様やそこの虫・・大将が許しても私は決して許しませんわ。人間ごときが他者を従えるなどおこがましい限りね」
「我ら皇族はかつて神をも越えた英雄の末裔、こんなところで無駄死にはせんわ!」
「彼方、いい加減うんざりだ。神罰を与えてくれ」
彼方が天空に舞い上がる。その背中に美しい羽根が現れ、そこから光の柱が中洲に注がれた。
皇族たちは光に包まれ、その光景は陸に輝く星座のようだった。光が強まると激痛なのだろう、皇族たちから狂喜にも似た断末魔の叫び声があがった。
「皇族たちはあとどれくらい耐えられるんだ?」
(もってあと30秒と言ったところだ)
「彼方、少し弱めてくれ。今まで苦しめられてきた民たちの嘆き、最後に味わうと良い!」
「お兄様、結界で閉鎖空間を作り、永遠に苦しめ続けるなんてのはどうかしら?」
やっぱりミライは恐ろしいと思った。女神とはいえ絶対に逆鱗に触れないよう気を付けよう。
(大将、このまま閉鎖空間に幽閉する。永遠にな!)
「構わない、やってくれ」
青空にはブラックホールのような穴が広がり始めた。彼方と中洲を繋ぐ光の柱はそこへ向かって吸い込まれて行く。
俺が次に空を見た時には穴は消えていて、皇族たちは永遠の闇の中で、絶望と苦痛を受け続けることだろう。
◇◆◇◆
「帝国軍よ聞け、戦争は終わった。勝者も敗者もない。皆、国に帰るが良い」
俺はアリシアを呼んだ。
「アリシア、悪しき皇族は断絶した。これからは、お前が皇帝として民を導かなければならない」
「はい、不安ですが良い帝国にして見せます。ですが、大将殿とは今後も親しくお付き合いがしたく存じます」
「もちろん、俺だってこれっきりだなんて思ってないぜ(笑)」
「アリシア様、どうか過ちを繰り返さぬようお頼み申し上げます」
「アリシアさん、帝国に遊びに行った際は宜しくお願いします!」
「アリシア、私も直音と同じだ。帝都名物も食べてないしな(笑)」
「あっ、あのぅ。初めまして、私はロクサーヌと言います。アリシア皇帝陛下、同じ女性として尊敬してます。帝国のバラと称されたあなたのお噂はマーズにも轟いておりました。いつか私にもご助言頂けますようお願い申し上げます」
「ところでロクサーヌ、実際に見てどうだった?腹は決まったか?」
「はい、決めました。やっぱり私は女神になります!」
「では、早速おやっさんに知らせなくちゃな(笑)」
「彼方、瞬間移動でおやっさんの所まで運んでくれないか?そしてミライはアリシアを帝国まで連れていってくれ。俺はもうダメだぁ」
こうして俺たちは帝国を退けることに一応成功したわけだが、これから俺たちはどうなるのだろうか。
「とりあえず、俺は何か食べて宿で寝たい!彼方とミライ、後は宜しく!」
◇◆◇◆
帝国に戻ったアリシアは皇帝として即位、民からは大変歓迎されたそうだ。
マーズ国のロクサーヌは女神として民に崇められ、またおやっさんの店は女神のご加護があるとかないとかで大繁盛。国名もロクサーヌ公国として生まれ変わった。
一方、俺は帝国に戻ったあとアリシアから旧ヒノモト国を返還してもらい、大君となった。サガミノはユミと直音が南北の国主となり毎日が大忙しだそうだ。
帝国歴97年、神世紀3007年。
ちなみにこの年はヒノモトの国の返還と初代大君として俺、小山野 大将の名が歴史に刻まれた。恐らく歴史的重要な年として後世では試験に出ることだろう・・・多分、きっと。
なぁ、彼方、ミライ。やっぱりこの世界って良いな。それもこれもあなた方、神々の加護のおかげなんだよな。
ありがとう、楽園を見せてくれて。
ありがとう、短い間だったけど共に過ごせて。
ありがとう、世界平和。
ありがとう、神様。
やっぱり、俺と関わったことで神様も後悔してるのかな?
そして、あれから50年。俺たち仲間が笑顔で会った最後の年となった。
最後の日記、遺言と共に綴っておこう。




