表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

生存競争


新世帝国しんせいていこく。かつて神々との大戦に勝利した英雄が築いたと言われる世界最大の国。英雄王と讃えられた初代皇帝の遺言により、強者のみが生存することを許された呪われた場所でもあった。


皇族は赤い髪を持ち、貴族、平民、奴隷からなる身分制度によって支配されていた。


◇◆◇◆


そんな俺、小山野大将おやまのたいしょうは帝国で育ち楽園に憧れる18歳。両親は幼い頃に盗賊に殺されており、この地には未練などなかった。ある程度学問を学んだおかげで読み書きなどに不安はなく、知識に関しては博学な方だ。


「それにしても楽園かぁ・・・どんな世界なのだろう、いつか行ってみたいなぁ」


楽園、その存在は誰にも分からない。


初代皇帝の時代、勅命により国中の学者が世界を探索した。結果として楽園はおろか、この大陸以外に世界など存在しないことが分かったのだ。


◇◆◇◆


何やら後ろの方で少女の声がする。


「ねぇ、早くしてよ!」

平民にしては裕福そうな少女たちが、倒れている奴隷に話しかけていた。


「・・・・」

奴隷に近い身なりの少女はすでに暴行を受けたようで、話すことも出来ないほど傷だらけだった。


どうやら、何かを盗ませる算段か、宝石商の露店の前にいるあたりそう言う事なのだろう。


倒れている奴隷のような少女は、高そうなペンダントを握りしめると、足を引き摺りながら走り出した。


「待て!この泥棒!」

店主が大声をあげる。周りから家来らしき悪人面の男が数人、泥棒少女を追い始めた。


俺は男たちの前に割って入ると、ペンダントの代金を支払った。


「これで、あの子はもう泥棒じゃない」



人の話を無視して、男たちは飛び出して行くと泥棒少女は呆気なく取り押さえられていた。



「盗みは重罪だ。金はそいつから受け取ったが、ペンダントは返してもらう(笑)」

宝石商はペンダントを取り返すと、裕福そうな少女に渡した。


「これはご褒美だ」

「ありがとう、父さん!」


「父さん・・・だって?お前たちグルだったのか?手口が汚いぞ!」

俺は憤り、店主とその娘たちを罵った。


騒ぎを聞きつけた兵士は、盗みを働いた奴隷のような少女に暴行を始めた。その様子に俺は堪らず助けに入った。


「脅されて盗みをしたとは言え、無抵抗の少女に乱暴するなんて酷くないかい?」


カッコつけてはみたものの、俺はすぐさま兵士に取り囲まれ、無様にも剣で斬りつけられた。


嬉しい事に、俺が助けようとした少女はなんとお礼を言ってくれたのだ。

しかし衝撃的だったのはその後で、少女は俺の有り金を全て巻き上げたのだ。


「さっきの礼は巻き上げた金にかい?」


「そうよ、もしかして勘違いでもした?(笑)

あんた、そんな甘い性格じゃ、どのみち長生き出来ないよ。早く死んだ方が幸せかもね」


少女は大した傷など負ってなく、端から演技であった。俺はまんまと泥棒一味に騙され、挙げ句、斬りつけられて負傷までしたのだ。


俺は傷の痛みより、自分の不甲斐なさに意識が薄れてしまった。


◇◆◇◆


「あのぉ、大丈夫ですか?」

女性の声に、俺は目を覚ました。


「うぅ、痛てぇー。流石に傷口がズキズキする」


「これ、君がしてくれたのかい?」

拙いまでも応急処置がしてあった。


「はい、ご迷惑でしたか?でも本当に無事で良かったです」

見知らぬ美人が心配そうにこちらを見ている。


「手当て、ありがとう。でもゴメン、先に謝っておく。有り金を全部取られてしまい、お礼出来るものは何もないんだ」


「ちぇ、ハズレか!」

チンピラが表れた隙に、美人は俺の傷口に巻いてある手拭いを外すと、逃げるように去って行った。


俺の足元には、チンピラが落としたのであろう数週間分の暮らしができるお金が落ちていた。


「神様、ありがとう」


こんな醜い人間の世界に俺はうんざりしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ