神様、開戦の幕開け!
「父上、父上?」
皇帝を父上と呼ぶ赤毛の青年が血相を変えて城内を駆けずり回っていた。
「お前か。相変わらず騒々しい奴め!世も戦地へ赴くまでよ。さすれば兵士たちの士気も上がると言うもの。我が帝国に従わぬ愚か者どもがどうなるか知らしめてくれるわ(笑)」
「父上。今度の戦いには私も出陣致します」
「おお、そうか!よくぞ言った!それでこそわが息子よ。他は誰が参戦するのだ?」
「はい、姉上はもとより皆出陣致します!」
「はっはっは!息子よ、実に楽しみである」
皇帝直々の出陣宣言に帝都は騒然とした。さらにはその息子である太子たちが大軍を率いるとあっては、多くの貴族もそれに付き従い、平民や奴隷などはもはや道具扱いだ。
◇◆◇◆
「お父ちゃん、どこ行くの?」
小さな女の子が出陣する父を案じていた。
「父は戦争にいかなくてはならんのだ。今度こそ、お前たちに苦労をさせぬようにするから、母さんの言い付けをよく聞いておとなしく待つのだぞ」
「うん、お父ちゃんが帰ったらみんなで美味しいものを食べようね!」
城下の至るところで目につく光景だった。平民や奴隷にとって、戦争で武功をあげる以外、まとまった金を稼ぐ術はなかった。局所的な小競り合いばかり続いたこの時代、久々の大戦とあって下級階層の意気込みようは尋常ではなかった。
◇◆◇◆
「此度の戦いは皇帝、そして皇太子である世自ら参戦する。もはや帝国の勝利に疑いの余地はない。一兵残らず殲滅するまで、お前たちに帰る故郷など無いと知れ!」
立派な軍服に身を包んだ皇太子が、早くも勝利宣言をしてからと言うもの、帝都は歓喜に満ちていた。
その頃、とある場所では平民と奴隷の即席兵士らが集められ、下級貴族の訓練と称した憂さ晴らしが行われていた。多くの人々が無惨にも切り殺され、そのなかには先程の父親と娘の姿もあった。
「お父ちゃん!お父ちゃん!ねぇ兵隊さん、お父ちゃんを苛めないで!」
少女は兵隊に嘆願したが、無情にも父親は少女の目の前で切り捨てられてしまった。少女は泣き崩れ、母親が夫の身を案じて駆けつけた頃には、隊長らしき男の一言で最悪の事態へ向かっていた。
「ええい、そこのガキと母親を黙らせろ!そうだ、あそこからこいつらを射抜けたものには褒美をやろう(笑)」
指示された場所から親子の元までは30メートルもあった。だが、褒美に目が眩んだ下級貴族たちはこぞって弓を放ち始める。
矢はかすりはするものの、致命傷には程遠かった。死の恐怖に震えながら抱き合う親子の姿は、まるで野獣に狩られる小動物のようであった。
「殺ったぞ!褒美は独り占めだ(笑)」
親子を射抜いたのは、これまた悪人面の男であった。罪悪感など微塵も感じてないだろうその男は、仲間たちと褒美の話でもちきりだった。
さらにたちの悪いことに、街の人々はどの兵士が仕留めるのか賭けて楽しんでいたのだ。
勝敗が決すると、次の標的にされては堪らんと、一斉に逃げ出して行く。人間の心とはとても醜いものである。
◇◆◇◆
一方、ミライの瞬間移動でマーズ国に転移した俺たちが目にした物は・・・。