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神様、帝都の闇を知る!

ようやく帝都に着いた俺たちは、胸踊るような展開を期待してか少し興奮気味だ。


昔も今もあまり代わり映えのしない帝都は、皇族たちの居城が山頂にそびえ、中央貴族たちの住む居住区が山の手に広がる。麓の城下町には裕福な平民、そして没落した貴族が住んでいる。


訳ありの人々や平民の多くは城下の北側に、奴隷に至っては高い塀で隔離された貧民小屋と呼ばれる城下の西側に追いやられていた。


◇◆◇◆


「大将さん!私、帝都に来るのは初めてです。建物、大きいですね!人も沢山います!お店がいっぱいです!なんだかドキドキしてきました!」


直音とユミは初めての帝都に興奮覚めやまぬはしゃぎっぷり。

土産物屋に服屋、アクセサリー店と忙しく駆けずり回る。そのあたりはさすが女の子と言ったところか。

お洒落な物やカワイイ物を見つけては、キョロキョロしながらも人混みを避けつつ足早に歩いて行く。


「あっ、ステキな服がたくさん!ユミさん、アレ、凄く可愛いですよ」


直音は、ユミを手招きしながらお目当ての商品めがけて走り出す。同じく前方から追っ手を気にしながら走って来た少年と激突してしまった。まさにマンガでお馴染みのワンシーンである。


「痛っ!」


少年はうめき声と共に地面に突っ伏すと、苛立ちを隠そうともせずにゆっくりと立ち上がった。

そして周囲を見渡すとなぜか攻撃態勢をとったのだ。


「誰だ?今、俺をブッ飛ばしたのは?」


街行く人が次々に足を止め、たちまち見世物となった直音と謎の少年。

周りからは少年目がけて石が飛んできたり、罵声を浴びせたりしている。


中でもエプロン姿の男と護衛を引き連れた青年が我が物顔で近づいて来る。

しかし、青年の方は人々から嫌悪感を抱かれているようだった。


「おい、そこの女!これは、あんたの物か?実に不愉快だ!西に引っ込めておけ、西に!」


青年は凄い見幕で直音と少年を罵り始めた。


「おい、お前!物とは俺のことか?」

「そうだ、それ以外に物など無いではないか(笑) 誰か、今すぐこの汚物を処分しろ!」

「誰が汚物だ!許せねぇ!」


少年はいきなり飛び掛かり、青年の顔面を殴り付けた。

鼻血を流しながら倒れこむと今度は足蹴にしようとした。


「物の分際で!お前たち、貴族に逆らうとどうなるか教えてやれ!」

青年の合図で柄の悪そうな護衛が数人、刃物を手に躍り出た。


「また、この展開かよ!いい加減ウンザリだな」


俺は落胆したが、二本の小太刀を抜くとゆっくり前に進んだ。

すると驚いたことに護衛は主である青年を見捨てて逃げ出したのだ。


「お、お前ら!何処へ行く!私を・・・この私を誰だと思っているのだ?」


青年は情けない声でわめき散らしたが、虚しくも救いの手は差しのべられなかった。

俺は小太刀を交差したまま青年の喉元に近づけた。男は腰が抜けたまま慌てて逃げて行った。


「ごめんなさい、怪我はないですか?」

「気を付けろ、このバカ女!」


喧嘩腰のこの少年は鋭い眼差しで直音を睨み付けている。

少年は物と形容される通り、みすぼらしい身なりから奴隷の類いだろう。


「少年。こちらは否を謝っている上にお前の身を案じてるのだぞ。その態度はどうなのだ?」


ユミも少年の態度には我慢ならず説教を始めていた。


「おや、この泥棒は君たちが取り押さえてくれたのかね?」

エプロン姿の男が近づいてきた。


「あなたは?」

「私はパン屋を営んでおりますオリバと申します。これにパンを盗まれましてね、困ってたのです」


「あのぉオリバさん、パンの代金はお幾らですかぁ?」

文無しの直音が代金を払える訳は無いがパンの値段を聞いている。


「15GLDです」

帝国の通貨単位はグラドである。平民の年収が100GLDほど、従ってこの15GLDは決して安くはない。


簡単な食べ物や菓子などは1つ1GLDである。宿は相場で1泊10GLD。

ちなみに馬1頭で5万GLD、馬車になると10万GLDにもなる。

一般的な服は一式セットで5GLDほどだ。


「では、俺が払おう」

俺はこの場で15GLDを支払った。だが、オリバは少年に対して執拗な暴行を加え始めた。


「オリバさん、金は払いました・・・あんた、いつまでも何してるんだ」

「コレには前々から散々盗まれてたんだ。15GLD程度じゃ納得出来ないね!」


次第にあちこちから店主と思しき男どもが集まりだしては少年に暴行を加えた。


「おい、お前達、もうヤメないか!聞こえないなら俺が相手だ!」


確かに悪いのは盗みを働いた少年である。

とは言え、生きるには盗むしか無いのだろう。

店主たちは俺と事を構える気はなさそうで、不服そうにこの場を立ち去って行った。


「誰が助けろと頼んだ?俺なんかほっといてくれ!」


少年は捨て台詞と悔し涙でこの場を逃げ去った。

これが俺たちが帝都の闇を垣間見た瞬間だった。


俺はこれまでの出来事を日記に綴った。


その後、俺たちは城下の西にある貧民街、いわゆる貧民小屋を尋ねる事にした。


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