表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/156

第47話 先輩達の真意

大改稿中に文字数が多くなりましたので分割しました。

 

「またかよ……」


 俺は先程流れた校内放送にポツリとそう零した。


 あの後、流石にあの距離から学園までは俺やコーイチは兎も角、女性陣にはきつかった為、途中から歩く事にする。

 春と言えどもあれだけの全速力で皆汗だくだ。

 お姉さんに教わった学校の裏情報をみんなに話ながら教室を目指していると校内放送が流れてきた。



 ピンポンパンポーン


『学園長より連絡します。本日昼休みに1-Aの牧野光一は学園長室に絶対に来ること。繰り返します―』


『絶対』とか言っちゃてるよ。

 昨日『また来てね』とか言って自分で呼び出してるし。

 これで3日連続学園長室に行く事になるんだけど、多分入学早々呼び出し三連発って学園史上俺くらいじゃないのか?

 まだ俺の事知らない人からしたらかなり問題児って思われてるかもな。

 ただ初日よりは気は軽いし、それに昨日のお姉さんの話で幾つか確認したい事も有ったから丁度良かった。


「いっちゃん、学園長に好かれ過ぎやろ」


 おそらくね、俺もそう思う。

 俺に親父を重ねてるんだろう。


「まぁさすがにもう取って食われる事は無いと思うから一昨日よりは怖くないよ」

「……別の意味で取って食われそうなんで心配だけどね」


 宮之阪、何だよ別の意味って。


 キーンコーンカーンコーン


「はいはーい、みんな席について~。HR始めるわよ~」


 本鈴が鳴り響き、昨日と同じセリフで教室に入ってくる元生徒会長でお姉さんの後輩、そして現俺の担任で現文教師の野江 水流(のえ みずる)先生だ。


「先生~。大和田さんに先生の事話したら会いたいって言ってました。今日放課後学園に来るみたいですよ」


「え? そうなの? ありがとう牧野くん! 楽しみだわ~」


 野江先生は嬉しそうだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 相変わらず課題提出と小テスト尽くしの午前の授業は終わり昼休みの時間となった。

 今日は気が楽なので買っておいたパンを急いで胃にジュースと共に流し込む。


「こーちゃん、パンは飲み物じゃないよの? もっとよく噛んで食べなくちゃ」


 宮之阪がまるで母さんかのような口調でそう言ってくる。

 そりゃごもっとも。


「そうなんだけど、学園長の事だから午後の授業に間に合うか心配だからね。すぐ行かなきゃ」


 呆れたと言う顔で見てくる宮之阪だけど俺の言葉に納得してくれたようだ。


「それじゃあ気を付けてね」

「頑張って来いよ~」

「骨は拾ったるさかいな~」


 八幡不吉な事を言うなよ。

 その他クラスメートの声援も受け俺は学園長室を目指した。


 昨日の今日で、少しビビりながら廊下を歩くけど特に襲われたり絡まれたりと言う事も無く安心した。

 学園長室に向かう階段の踊り場に差し掛かった時、突然後ろから誰かが話しかけてくる。


「牧野くん、待ってたよ。少し話したいことが有るんだけど良いかな?」


 その声の方に顔を向けると、そこには乙女先輩と桃やん先輩が立っていた。

 なんだろう話って? あまり学園長待たせると怒られそうなんだけど。


「どうしたんです? 改まって?」


 二人は少し神妙な面持ちで俺を見てくる。

 どうやら真剣な話の様なので学園長には後で謝っておこう。


「まず最初に君に謝らせて欲しい。本当にごめんなさい」


 そう言って二人が俺に頭を下げた。

 急に何を謝ってるんだこの二人は?


「牧野くんはもう気付いてるでしょ? 私達、いや美佐都を抜いたこの二人が本当は創始者の説得にやる気が無かった事」


 桃やん先輩の言葉にずっと疑問だったこの問題の確証を得た。

 しかし、新たな疑問が湧いてくる。

 なぜ、やる気が無いのにやろうとしているのか。


「美佐都さんは違うけどね。彼女は本気で曾御婆様を助けようとしているんだけど、私はあんなのを助ける必要なんてないと思ってるよ。伝統を変えるだけなら死んでからなら幾らでも変えようが有るしね」


 乙女先輩の言葉に頭が真っ白になる。


「先輩……? 何を言って?」


 この人は創始者が死んだ方が良いと思っているのか?

 何でそんなに憎んでいるんだ?

 ギャプ娘先…美佐都さんがあれだけ解放してあげたいと願っている人を死んだ方が良いと思っているなんて。

 心の中がチリチリと音を立てる。

 俺は怒っているのか? だけど何故だか分からない。

 美佐都さんの創始者を解放してあげたいと言う決意を込めた顔が浮かんでくる。


「牧野くん、藤森の事を怒らないであげて。あたしも創始者が学園長にした事の話を聞いてそう思っているの」


 創始者が学園長にした事?

 俺はその言葉でまた思考が飛んでしまう。


「美佐都さんはその事を何も知らない。逆にその事を知ると彼女の存在が否定されてしまうので、わたし達は彼女の前ではその事を秘密にしているし、協力している態度を取っているんですよ」


 美佐都さんの存在が否定される?

 やっぱり意味が解らない。


「おそらく今日美都乃さんが牧野くんを呼んだのは部活紹介写真の事でしょう。そして美都乃さんは真実を語らず、ただ頑張れと応援するだろうし、君はその言葉通り頑張って、もしかすると……、いや君の事だから本当に曾御婆様の心さえ解放するんじゃないかな」


 何もかもが繋がらない。

 どこからが美佐都さんの思いで、どこからが乙女先輩の思惑なんだろうか?


「あたし達は去年もだけど今年も美佐都の応援をする振りをして、何もせず失敗させるつもりだったのよ。でも牧野くんが現れた。そして他の人に心を閉ざしていた美佐都をあっと言う間に開放し次々と周りの人を変えて行くのを見て凄く驚いたわ」


 また俺が変えたと言っているけど俺は何も特別な事をしていていない。

 親父のネームバリューや事故による偶然が重なっただけで俺じゃなくてもいつかはそうなった筈だ。


「去年失敗したのは美都乃さんからのお願いで、少なくとも去年までの美都乃さんは私達と同じ事を考えていたと思います」


 思考が収束しようとするとまた別の情報で攪拌される。

 学園長が同じ事を考えていた?

 学園長も創始者を憎んでと言うのか……?

 でも……。


「ならなんで今年は俺を応援しようなんて思っているんでしょうか?」


 また俺が変えたとか言うのだろうか?

 正直自覚の無い話はやめて欲しい。


「勿論君が現れたからだよ。君が美佐都さんを変え、それを見た美都乃さんも変わった。君の報告を聞いた時の美都乃さんの顔は忘れようがないよ。美都乃さんはすぐに君を生徒会に入れるように仕向け、この写真の件を何も言わず任せてみて欲しいと頼んできたんだよ。いつも通りの写真ならそれまで、もしそうじゃないのなら……」


 やはり俺が人を変えたと言う話か。

 本当に俺にそんな力が有るのだろうか?

 ただ単に今までの経験からその場で有効そうな言葉を並べ行動しているだけだ。

 それが俺の本心かどうか自分でさえ分からなくなっている。

 そんな不確かなものに人を変える力なんて有るものなのか?


「そして君はわたし達が何も言わなくても、まるで亡くなった曾御爺様の想いその物の写真やインタビューを持ち帰って来た。本当に背筋が寒くなった。まるで怪談ですよ。そしてここで本当に謝らなくてはいけないんです」


 そこでもう一度二人して頭を下げる。


「実はわたし達はね、本当は君をもっと目立たなくて美都乃さんの御眼鏡に適わない一生徒に仕立て上げようと思ってたんだよ。昨日演説や大叔母様の説得もそうですが、あんな事は想定外もいいところだった」


「なん……だって?」


 演説の後に言っていた計画って、俺の事を思っての事じゃなかったのか?

 先輩達は俺を応援しようとしてくれてたんじゃないのか?

 俺を陥れようとしていたのか?

 あの優しい言葉もあの笑顔も全部嘘だったのか?

 俺はその言葉に愕然とした。


「あっ、一つ訂正しておくわ。別に牧野くんの事を嫌いだとかそう言う訳じゃないのよ? あの機械みたいで可哀想な美佐都を普通の女の子にしてくれた恩人だもの。感謝の気持ちこそ有れど嫌いになる筈が無いわ」


 え? 先輩達の話が分からない。

 俺をどうしたいんだよこの人達は!


「私達は君を守ろうとしたんです。曾御婆様の手からね。美都乃さんだって最初はそうです。君が入学するのを知ってたけど会わずに居ようとした。でも美佐都さんが変わったのを見て心の押さえが無くなったみたいでね」


「心の押さえ?」


「えぇ、そして君を引っ張り上げた。だからこれ以上、君が目立たぬように、普通の生徒であるように、美都乃さんが君に期待しないように色々と計画したんですよ。ただ美佐都さんと仲が良いだけの生徒にね」


 創始者の手から守るってどう言う事なんだ?

 今先輩達が俺に向けているこの優しげな目は本当の気持ちなのか?

 それともまた俺を欺こうとしているのか?


「それなのに君と来たら、どんどんどんどんわたし達の思惑から飛び出して勝手に目立って、皆に認められてしまった。美都乃さんの編集したDVDを見ましたが、あれは酷い……。もうあなたへの信頼度は修正が効かなくなるレベルになってしまった」


 昨日の演説のDVDの事か……確かにね! あれは酷い。

 でも、昨日の演説が成功したのは、結局先輩達が助けてくれたお陰じゃないか。

 あの拍手が無かったら、逆に袋叩きにあってもおかしくないくらい生意気な暴言でもあったんだし。


「最後のチャンスにと大叔母様への面会を促した。私の想定では、牧野くんなんて大伯母様の迫力に負けて縮こまるだろうと思ってたんです。そこに颯爽と現れて『美佐都さんが変わったのはわたし達の長年の努力の結果で、牧野くんはただの駒だったんですよ』と宣言して、大叔母様から美都乃さんに過剰評価するなと釘を刺してもらおうと思っていました」


 あの悪い笑顔はそう言う事だったのか。

 しかしなぜそこまで俺を目立たせないように画策するんだ?


「ところが牧野くんは縮こまるどころか、反対に大伯母様に説教までして更に信頼まで勝ち取ってしまうんですから……。なんなんですかあなたは! 大伯母様を叱り付ける人なんて曾御婆様の他に見た事有りませんよ。本当に前代未聞です。これだけの事をたった一日で! 信じられますか? たった一日でですよ? もうこんなのどうすれば良いんですか!」


 その逆ギレに何か理不尽な感じがしないでもないですが、なんかすみません。

 意図は分からないが俺の為にと言う気持ちは感じる。


「……声を荒げてごめんなさい。元々黙ってたわたし達が悪いんですよ。最初は美佐都さんを変えたのだって偶々で運が良かっただけとそう思っていました。ただ美佐都さんが変わったのは事実だし、牧野くんの事を気に入ってもいるから美佐都さんを社会に出ても大丈夫な様に鍛えるためにとあなたを迎えるのに賛成しました」


 俺は今でもあれは偶然の事故だと思っている。

 その後の言葉もその通りなのだろう。

 あんなヘニャヘニャな美佐都さんを世の中に放つのは不安しかないし、ある程度異性耐性鍛えるのに俺は打ってつけだったと思う。


「でもそれは間違いでした。あなたはそれだけでは留まらず、ドンドンドンドン皆を……。千林姉弟だけじゃなく萱島先輩や問題児の千花さえも変えてしまった……、それどころかわたしさえ……。本当にあなたは、もう!」


 乙女先輩がどんどん乙女の顔になっていく。

 この顔は……純粋な俺への好意と思いたい。

 本当に俺を守ろうとしてくれているのだろうか?


「いや~本当に、あたしも牧野くんを侮っていたんだよ」


「侮っていたって? それはどう言う事ですか?」


「言葉通りだよ~。ちょっと口が上手いちゃらちゃらした奴で、女ッタラシな男と思っていたんだよ」


 ちゃらちゃらの女ッタラシ? えらい言われようだな……。


「でもね、昨日の演説や泣いた美佐都に熱く語った牧野くんを見てね。凄く見直した。いや~あれはただのチャラ男じゃ無理だね。うん」


「あ、ありがとうございます」


「だからね、つい牧野くんが何処まで行くのか純粋に見てみたくなったんだ。創始者とか学園長の事情は置いておいてね。だからあえて君を見送る時に何も言わなかったし、凄く期待していたんだ」


 桃やん先輩は俺の事をべた褒めしながら、本当に嬉しそうな顔をしている。

 この顔も俺への好意と思いたい、もしそうじゃないなら俺は人間不信になってしまうかもしれない。


「偶然ではないと気付いた時にはもう遅かったです。それにあなたの幼馴染みを入れたのも、本当は最初から予定してました。いや二人の事は知らなかったけど誰か仲の良い女子生徒を入れて美佐都さんを鍛える役目ともう一つ、曾御婆様の目を美佐都さんと牧野くんの関係を疑わない様にするデコイとしてね」


 そこまで守らないといけない理由とはなんなのだろうか?

 そんなに大変な事ならそれこそ俺達を離れさせたら良いんじゃないのか?


「あの、そこまでして創始者から守るとはどう言う事なんですか? それに学園長にした事と言う言葉も気になります」


 先輩達の真意が知りたい。

 創始者を憎む理由は?

 何故俺が目立つとダメなんだろうか?

 守らなければいけない理由とは?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ