第34話 所有権
34話です。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
通算40話になりました。
こらからも頑張ります。
「お、俺様が、つ、付いて行ってやるから安心しな」
疾風のように突然現れたドキ先輩の理不尽なまでの暴力に一瞬記憶が飛ぶ。
俺何してたんだっけ? 実習棟に行く為に廊下を歩いてて? 何か悪夢を見て……?
いや屈強な男達に囲まれて、それを小さい何かが薙倒していって?
あぁ小さい何かはドキ先輩だったのか……って、ん? ドキ先輩?
え? 何故あなたが目の前に居るのですか?
昨日ポックル先輩は付きまとわないように言っとくっていっていたと思うんですが…?
そう言えば朝にポックル先輩が助っ人を呼ぶって言っていたなぁ。
よりによってドキ先輩とは。
再度ドヤ顔で見上げてくるドキ先輩を見て朝の件を改めて思い出す。
そう言えばこの踏まれているリーダーの顔は知らないけど周りの何人かは見た記憶が有るな。
確か会計先輩が俺がお姉さんの息子って言った時に伝説を連呼して驚いていた人達だった。
制服のネクタイの色は二年生の先輩と言う事か。
リーダーは三年かな? ちょっとおっさんぽいし、顔が。
と言う事は、生徒会云々じゃなくて会計先輩のあの発言、あぁ ――
「朝の件が引き金だろうなぁ」
何が目的だったんだろうか?
………モシモーシ
朝の時は怒ってる感じはしなかったんだけど?
………アノ~キイテル?
それにさっきも自分が牧野だって認めた途端急に空気が穏やかになってたし。
……………
もしかして俺に危害を加えようとかじゃなかったのか?
「お前わざとやってるだろ!」
うわっ怒った!
「違いますよ。今先輩がぶっ飛ばした人達の顔に見覚えがあったから考えてたんです。 ほらそこをどいてください」
ドキ先輩の両脇に手を掛けて高い高いする要領でリーダーの上から下ろす。
持ち上げた時は『何をする!』みたいな顔をしたくせに下ろす時に『もう終わりなの?』って顔しないで下さい。
顔が同じだからついポックル先輩やウニ先輩と同じように扱ってしまったが、思った以上に中身まで一緒だった。
「千花先輩、助けてくれてありがとうございました」
とは言え、ぷに事件で恨まれている身なので丁寧にお礼を言っておこう。
願わくばポックル先輩が上手く説得してくれてたらいいんだけど……。
おや? ドキ先輩の顔を見るとどうやら恨みの感情はなくなっているようだ。
抱きしめてたのを解放した時みたいになにやら顔を赤くしてもじもじしている。
一応ポックル先輩の説得は効いているみたいでちょっと安心。
しかし、改めて思うとこの体躯でなぜあんな芸当が出来るのか本当に不思議だ。
しゃがんで目線を合わす。
目が泳いではわはわしているな。
頭を撫でてみる。
あっなんか気持ちよさそうにしている。
ほっぺをぷにぷに突っついてみる。
柔らかい……別に金属で出来ている訳ではないよな。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに
あっなんか凄く楽しい。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに……
「お、お、お、俺様に気安く触るなよーーーー!」
あっ怒った。
これくらいにしておこう。
また恨まれたら流石にやばい。
「う、う~ん……」
おや? 今の声で倒れていたリーダーの意識が戻ったみたい。
最後の感じ的には俺を襲おうとした訳じゃ無さそうだったんで声を掛けたほうがよさそうだな。
「先輩、大丈夫ですか?」
思いっきりドキ先輩に顔を蹴られ靴跡が付いている顔をハンカチで拭く。
触れたら痛いのかリーダーはビクンと体を震わせる。
「っつつ、すまねぇな。しかしなぜレッドキャップが……?」
えぇ俺もドキ先輩がなんであそこまで理不尽な暴力を振るったのか分りませんがどうも俺の助っ人みたいですみません。
なんて心で思うけど正直に言うとやぶ蛇っぽいな。
「いてて…」
「うっごほごほ」
「……いい」
「ぐぅ、いったー」
あっ他の先輩達も意識が戻ったみたいだ。
なんか1人怪しい人がいたけどほっとこう。
ドキ先輩は起きて来た先輩達を前にまた悪魔みたいな笑みをして腕を組んで仁王立ちをして大きく息を吸い込む。
「てめえら! 光一は俺の物だ! 手出しは許さねぇからな!」
辺りに響かんほどの大声でよりにもよって物凄い事を宣言した。
えぇーーーー!? 何それーーーーーー!?
俺のみならず周りの先輩達も同じ顔で同じ事を思ってるみたいだ。
何故か俺勝手に所有権を主張されているんですがどう言う事でしょうか?
あれですか? ぷに事件での責任取れという事ですか? ポックル先輩どんな説得したんですか?
「ちが、違う! 俺達はただ牧野、いや伝説の総番の息子と話をしたかっただけだ! 手出しなんかするものか」
「嵐をもたらす者の息子になんか手を出したら俺達が殺される……」
「そうだそうだ!」
あっやっぱり会計先輩の発言が引き金か。
お姉さん相変わらず恥ずかしい通り名で呼ばれてますね。
でもあれは無いよなぁ。
周りを大勢で取り囲むんだから傍から見たらドキ先輩じゃなくても勘違いするわ。
ドキ先輩は勘違いに気付いたようでちょっと気まずそうに顔を赤くしてる。
まぁ勘違いでの暴力はまずいですけど助けてくれた事は感謝してますよ。
あなたの所有物ではないですけどね?
「あれはてめえらが悪い! 嫌がる光一を大勢で取り囲んでいたら勘違いして当たり前だろ!」
恥ずかしさに耐え切れなくなったのかドキ先輩が逆切れした。
いや言ってる事は俺が思ったとおり正論なんだけどね。
言われた先輩方も自分達の先程の行動を顧みて間違えられてもおかしくないと気付いたようだ。
「す、すまん! 牧野! お前の母親が憧れの人だったのでつい逸る気持ちが押さえられずに……」
リーダー先輩が俺に謝って来た。
周りの武道先輩達も一緒になって謝ってくる。
あちゃ~どうしたものか。
会計先輩恨みますよ、本当に。
「それにてめえら運が良かったぞ! 光一はぱっと見はひょろいもやしみたいな奴だがこの俺様に一瞬で勝つ程の猛者だ。もしあのまま光一を怒らせてたらお前らの二~三人は死んでたかもな」
周りからどよめきが上がる。
なんか『さすが』とか『伝説再び』とか聞こえてくる。
変に煽るのはマジでやめてください。
泣いてしまいます。
それに俺のこと『ひょろいもやし』って……。
そう言うあなたこそファンシーショップのぬいぐるみコーナーで並んでいてもおかしくないじゃないですか。
勝ったのは母さん(心の悪魔)の仕業です。
なんかどんどん話が拗れていくんだけど。
まずリーダー先輩の件だな。
「え~と、先輩誤解してるようですが、俺は大和田さんの子供では有りませんよ」
ここだけははっきりさせないと。
先輩達は「え?」って顔をしてるな。
そりゃ間違えた結果、理由無き暴力にさらされたんだもの頭真っ白になるよ。
流石に可哀想なので一応フォローはしておこう。
「子供ではないですが小さい時にずっと面倒を見て貰ってたんで育ての親と言うことですよ」
それを聞いて先輩達は「おぉ! 直弟子なのか!」って喜んでくれてる。
いや弟子じゃないですよ。
まぁ良いか納得してくれてるようだし。
「でもそんなにお姉……、大和田さんの事を憧れてるんでしたら直接会いにとか行かないんですか?」
学園内で有名人って話なのに小さい頃もそうだけど最近も一緒にいてもそんな風な事を感じなかったよ。
「いや、これは我が空手部に代々伝わる口伝で大和田さんのプライベートに不用意に近付くなってのが有ってな。昔それを破った者が半殺しに有ったらしい。今では街で見かけても目も合わせない様にしている」
みなさん空手部の方々だったんですね。
口伝とか何やら怪しい単語が出ましたが、そう言えばあの当時の事は封印してるみたいな事を言ってたしお姉さんって私生活を他の人に乱されるのは嫌いそうだしな。
自分は乱してくるくせに。
「あと先輩、俺に話ってのは何なんでしょうか?」
元々話をしたくて呼び止めたって事だしなんの用事が有ったんだろうか?
「あぁ、これも口伝なんだが、もし大和田さんの子供がこの学園に入学したら空手部部員は全力で守るべしと言うものが有ってな、それを伝える為に来たんだ」
なんと! そんなのが言い伝わっているのか、でも……。
「それ俺は適用されるんですかね?」
俺は子供じゃないしね。
どうなんだろうと思っているとリーダー先輩はあっけらかんとこう言ってきた。
「う~ん、大和田さんが育ての親って事だしまぁOKじゃないか? それにお前自身が朝に俺達に力を貸してくれと言ってたと言うしな」
なんか軽いな!
そんなんで良いのか? 代々伝わってきた口伝!
「そうなんですか? まぁ本人は俺にママと呼べとか、事有る毎に俺を自分の子供にしようとしてきますが」
この発言にまたもや周囲からどよめきが上がる。
「うらやま……い、いや、それなら全く問題無いだろう。それじゃあ牧野! これから何か有った時は俺達空手部を頼れ! 」
リーダー先輩は俺の肩をバンッと叩くと白い歯をキラッと光らせて良い笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとうございます!! 先輩! それと後で部室に部活紹介の取材に行きますのでよろしくお願いします!」
先輩はまた良い笑顔で俺に手を上げて答えて去っていった。
皆俺に自分を頼れと言ってくれる。
俺は幸福者なんだろうか?
全部親達のコネの様な気もするがそれも巡り合わせなんだろう。
そう言えばお姉さんはこれから皆を頼れと言ってたな。
正直以前ならそんな状況願い下げだったんだが今朝の件からそうも言ってられない。
これから幾らでも頼らせてもらう機会は増えるはずだ。
俺の力では届かないことでも皆の力なら届くはずだ。
クイックイッ
ん? 何かがズボンを引っ張っている。
犬でも居るのかと下を向くと少し涙目なドキ先輩と目が合った。
「なぁ~、さっきから俺様の事忘れてない?」
あっドキ先輩の事すっかり忘れてた!
「いや、そんな事ないですよ! 先程は勘違いとはいえ助けてくれようとしてくれた事は凄く嬉しいです!」
「ぐぅっ」
ドキ先輩は痛いところ突かれたと言う顔をして怯んでる。
まぁいじめるのはこれくらいにしておこうかな?
「えーっと、千花先輩が千夏先輩の言っていた助っ人なんですね」
俺は再び目線を合わせるためにしゃがみドキ先輩の頭に手を当てた。
「頼りにしてますよ」
こう言ってニッコリ笑う。
それを受けてドキ先輩はこれ以上無い程顔を真っ赤にしてはうはう言い出した。
「先輩? 大丈夫ですか?」
なんか凄いのぼせてるけどどうしたんだ?
俺は様子を見ようと顔を覗きこんだ。
「ーーーーーーーーーーーーーー!!」
トテトテトテトテトテ
サッ
チラッ
モジモジ
あ~なんか昨日に戻っちゃったよ。
「千花先輩? 怖くないから出て来て下さいよ~」
怯えた小動物みたいになったドキ先輩の警戒を解こうと優しい声をかける。
「はわわ、はわわ、わ、私、はわ」
なんかもうあまりの可愛さに腰が抜けそうなる。
『ヒソヒソ』
ん?なんか周りが騒がしいな?
俺は顔を上げて周りを見てみた。
『あのレッドキャップをあそこまでビビらせるなんて何者だ?』
『え? 姉の方じゃないのか?』
『バカッ! お前それはタブーだぞ!』
『あいつは確か朝掲示板の前で騒ぎを起こしてた奴じゃないか?』
『あぁそうだ。確か牧野とか言ってたな』
うわっ! いつの間にか人が集まってる。
それになんか遠巻きに俺達の事を見て色々噂してるぞ?
う~ん、なんか凄い気不味い……。
俺は困ってしまいドキ先輩の方に目を向ける。
チラッ
「キャッ」
サッ
あぁ、その仕草で余計に周りが驚いちゃってるよ。
『うわっあいつ何をしたんだ?』
『もしかして口には言えない事をしたんじゃないか?』
『あんな顔して鬼畜なのか?』
『え? 鬼畜王?』
うわぁぁぁ! 更になんか酷い方向に噂が育ってってる~。
凄くいたたまれない感じになってきたこの場の空気に冷や汗が流れるのを感じる。
これ以上ここに居るのはヤバイよな。
俺は意を決して隠れてるドキ先輩を、ひょいと小脇に抱えると写真部に向かって逃げ出した。
後ろから『逃げた!』とか『未成年略取!!』とか『児ポ? 児ポなのか?』とか聞こえてきた。
「違いますーーー! みなさん、それ誤解ですからーーーーー!!」
書き上がり次第投稿します。
皆さんのご意見ご要望をお待ちしております。




