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10年ぶりに帰って来た街で色々大変です。 ~わりとヒドインだらけな俺の学園青春記~  作者: やすピこ
第二部 第一章 日常だろうと大変です
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第125話 何もない土曜日

いつも読んで下さってありがとうございます。

今回から第二部新章開始です。


「『じゃあ、今回はそう言う事でよろしく』、これでよしっと。んじゃ送信、ポチっとな」


 俺は、SNSアプリで八幡宛にメッセージを送った。


◇――――――――――――――――――――


るみるみ:任せとき~

     今んとこ気付いてる様子はない

     みたいや


――――――――――――――――――――◇


 八幡からのその返信に少し複雑な気分になる。

 どうしようかと寸前まで迷ったんだが、まぁ、仕方無いよね。

 今回は怪我の事も有るし、正直()()は俺の三大トラウマの一つだし。

 あぁ宗兄の件は、忘れていたから正確には四大か、いやそれは解決したからやっぱり三大……、どっちでも良いか。


 実際一番別れの悲しみと言う物を自覚したのは、あの瞬間だった。

『……置いてどこかに行くなんて! 絶対ゆるさない! 絶交だ! 』

 俺が心を閉ざして、広く浅くな人間関係を築いて行く事を決定付けたあの言葉。


 うん、今回はこれで良かったんだ。

 入学してから昨日までの二週間、創始者一族の問題で大忙しだった毎日。

 それがやっと解決したんだから、暫くはゆっくり普通の学園生活を満喫したいよね。

 だけど、折角八幡と再会した事で縁がまた繋がったんだ。

 いつかはまた笑って話せる時が来ると良いな。


 今日は土曜日だ。

 昨日はあの後、生徒会室で打ち上げ会が有り、楽しい時間を過ごした。

 その際、生徒集会時の桃やん先輩の行為に触発されて、皆からの良い子良い子合戦が始まったんだ。

 最初の頃こそ皆優しく撫でてくれたんだけど、途中から何故か夢中になりだして力入れてゴシゴシと撫でられるので、その摩擦熱で髪の毛が燃え上がるかと思ったよ。

 ……禿げてないよね?


 本当に久し振りの何もない土曜日だ。

 いや、本当は一週間入院してたんで、各教科から山の様な課題を出されているから、現実逃避しているだけなんだけどね。

 う~ん、やっぱり皆からの勉強見てあげるって言葉に甘えた方が良かったかな?

 俺はベッドの上から机の上に山の様に積まれている課題の山を見ながら、軽い絶望のため息をついた。


 断ったのはアレだよ。女の子を部屋に呼ぶって凄くドキドキするじゃん。

 なんか恥ずかしくって思わず断ってしまった。

 お姉さんは保護者枠だし、涼子さんや黄檗さんはもう俺の中で居て当たり前の存在だ。

 咲さん達は……あれは交通事故みたいな物だからノーカンかな。


 同年代の女の子を部屋に呼ぶってのはやっぱり別物だよ。

 唯一ポックル先輩を部屋に入れた事は有るけど、あの時はお姉さん達が居たし、そもそも俺目的で来た訳じゃないから、これもノーカンだろう。

 いや、別の意味でドキドキしたけどね。

 あの可愛さは反則だったよ。恐るべし千ばや…、いや、恐るべしなのは森小路一族だったっけ?


 そう言えば、涼子さんは今日から暫く咲さんの所へお手伝いしに行くって言ってたな。

 帰って来るのは月曜日らしいけど、お手伝いって『漫画の』かな?

 自分の締め切りは大丈夫なんだろうか?

 そろそろやばいと思うんだけど、また先月みたいに缶詰め状態になったりしないだろうか?

 まぁ今回は俺が最初から料理面でサポートさせられる事になるだろうから、腹ペコモンスター化は抑えられるとは思うけど。


 何度も言うが、本当に久し振りに何もない土曜となる。

 いや、これも何度も言うけど課題は有るんだけどね。

 晩飯に関してはお姉さんが作りに来てくれるとの事なので、これは甘えさせてもらった。

 

「ふぅ、さて、いつまでも何もない何もないと現実逃避してても仕方が無いな。朝飯食って勉強を始めるか」


 俺がいつまで経っても湧き起こらないやる気を強制的に出そうと、敢えて決意を声にして気合いを入れ立ち上がる。

 足の調子もだいぶ良く、痛みも鎮痛剤を飲む程ではなくなっていた。

 そう言えば、入院中紅葉さんの前で下手に痛がると、ごめんなさいと謝りながら泣き出してしまうので痛みを表に出さない演技が上手くなったと思う。


 もう、その演技もあまり必要無くなって来たな。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ひ~、進学校になんて入るんじゃなかった!!」


 なんか根本から俺自身を全否定する台詞を吐きながら、山と積まれた課題を、片付け様としているのか散らかしているのか分からない有様で取り掛かっていた。

 

「時間を掛けたら何とかなるのを、先にやっておいた方が良いか? いや、やっぱり数学の問題集から先か? ええと、参考書参考書!」


 現在課題の難しさに嘆いている俺なのだが、中学校時代の成績は引っ越し塗れの生活をしていたにしては中の上以上、上の中以下と言ったそれなりに勉強出来るランクに居たんだよ。

 まぁ、無趣味だったんで暇な時は勉強をしていたりしたからね。

 しかし、偏差値70近辺レベルのこの学園へは、その程度の俺なんかが来ていい所じゃなかったんじゃなかろうか?

 しかも、数年前からとんでもない優秀な生徒が入学するようになって更にレベルが底上したって噂も流れてたし、嫌な予感はしていたんだよね。


 それって、恐らくドキ先輩の事だよね。

 それに乙女先輩や他の千林一族も成績上位らしいし。

 三年には宗兄も居るし、ギャプ娘先輩も多分勉強出来るだろう。

 あっ、芸人先輩は新生物を創造するレベルなので優秀って言葉を突き抜けてそうだよな。

 なんか、俺の周りの人達が勉学エリートばかりな件……。


 う~ん、親父の忠告に従っていれば……、いや、そんな事は無い!

 あの二週間に比べたら、これくらいの困難なんか朝飯……いや三時のおやつ前だ!

 先輩達との約束や、ギャプ娘先輩を不埒な輩から守ると言う誓いを果たす為にも頑張らないとな。


 俺は既に何回も心が折れているが、更にポキポキと無理矢理折って、もうそれ以上折れる所がないくらいまで折り進めながら課題に取り掛かった。

 弱音の在庫が完売御礼品切れ状態になった頃、ある種悟りと言うか、無の境地と言うか、そんな感じのまるで自動書記の様な状態で課題を進めていた。

 え? そんな事で回答がちゃんと合っているのかって?


 ふふっ、そんな心配は二時間くらい前に捨てて来たよ。


 ぐぅぅぅ~~。


 自虐的な笑いで気が抜けた途端、腹の虫が鳴り出す。

 時計を見ると既に昼の一時を回っているのに気付いて驚いた。

 え~と、確か朝の八時頃から始めていたから、もう五時間も経っているのか。

 そりゃあ、お腹も鳴る筈だ。


「ん~! 少し休憩するか~」


 腹が減っては戦が出来ずって言うしね。

 俺は椅子から固まった身体を伸ばしながら立ち上がり、何を食べようかと台所へと足を向けた。


 ピンポーン


 冷蔵庫の中を見て、何か腹の足しになりそうなめぼしい物を漁っていると、急にインターホンが鳴り響いた。


 あれ? これマンション玄関の方の呼び鈴だよな?

 今日来客予定って有ったっけ?

 お姉さんなら、合鍵を……、そう言えば、結局涼子さんに返して貰ったんだろうか?


 そんな事を思いながらインターホンのモニターを覗き込む。

 そこには黒髪長髪の白いワンピース姿の女の子が少しそわそわしながら立っているのが映っていた。

 この服は……、思い出の……。


「え? みゃーちゃん?」


 言葉の通り、見間違いじゃなく本当にみゃ―ちゃんなのだが、今日来るなんて約束してたっけ?

 何か忘れ物でも届けに来たんだろうか?

 水流ちゃんに頼まれたんだろうか?

 いや、あの人なら自分で来るよな。


「みゃ……、()()()? どうしたんだ?」


 俺はインターホンでみゃ―ちゃんに声を掛けた。

 言い直したのは、アレだよ。

 思い出のワンピースで、二人切りの時に昔のあだ名で呼んじゃうと、なんか変な気分になっちゃったりしそうだし……。それにちょっと恥ずかしい。


『あっ、こーちゃん! え? むぅ、戻ってる……』


 みゃーちゃんは、俺が宮之阪呼びした事にちょっと拗ねているみたいで、少し口を尖らせているみたいだ。


「ど、どうしたんだ? 急に家に来たりして」


『え? あっ、あの、それは……』


 名前の事に触れると泥沼になりそうだったので、あえてスルーして話を変えた。

 みゃーちゃんはまだ少し不服そうだったけど、来た理由を聞かれた事で少しドギマギしながら焦っているようだ。


『ちゅーーー!!』


 急に丸い何かが画面の下の方から、みゃ―ちゃんの服を駆け上り肩に乗ってこちらに向かって手を振り出した。


 え? 涼子さん?


 ってのは三度目だよね。でも本当に似てるんだよなぁ~。

 勿論、肩で手を振っている丸い生き物はモグだ。

 そう言えば、俺が居ない間モグの事をみゃーちゃん一人で面倒見てくれていたんだよな。

 金曜日も俺の傷が癒えるまで預かると言ってくれていたっけ。

 モグも少し前まで人間に懐かなくて、お飾り部長が嘆いていた程気性が荒かったのに本当に変わったよな。

 モニター越しの様子からも二人共? とても仲良しに見えるし、下手するとこのままナントカマスターを目指して二人で旅に出そうな風格さえ漂っているよ。

 

「モグ! 遊びに来たのか! 宮之阪連れて来てくれてありがとう!」


『ちゅーー!』

『どういたしまして』


「しかし、すっかり仲良しだな。本当に良かったよ」


 最初に会った時みたいに凶暴なままならどうしようかと思っていたけど、そんな心配は無用だったみたいだ。


『そうよ~、もう一緒にお布団で寝る仲だもん。ねぇ~モグ~? と言っても一緒に住み出したのは一昨日からだけどね』

『ちゅっちゅ~』


 みゃーちゃんとモグはうれしそうに顔を見合わせてる。

 なんか思った以上に凄く仲が良いな。

 ちょっと微笑ましくもあり、ちょっと悔しくもある……。

 これって嫉妬? どっちに対してだろうか? いやいやそんな事。


「ごめんな、宮之阪。この一週間生き物係の仕事を全部任せっきりで」


『ううん、そんな事無いよ! モグって、餌が無くなれば、自分で餌袋から取り出してきたり、水入れを換えたり、ゲージの掃除まで細目にするんだから、……私の部屋までね。……逆に世話されているみたいな気になるし、本当にそんな事無いのよ』


 おおう、モグの奴凄いな。

 生物部で凶暴なモグの世話を誰がやっていたのか気になっていたけど、自分でやっていたのか……。

 最後少し気まずそうな顔をしているのは、俺のありがとうって言葉に罪悪感を覚えたからかな。

 まぁ、どちらにせよモグを連れて来てくれたんだ。

 いつまでも外に立たせておくのもなんだし、入ってもらうか。


「今開けるから、上がってよ」


『え? う、うん!』

『ちゅー』



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ちゅーーー!!」

「モグーー!! 良い子にしていたかーーー!!」


 二人が部屋に入ってきた途端、モグが俺の顔に飛び付いてきた。

 モグは俺の頬に、顔と言うか全身を擦り付けて身体全体で愛情表現を表してくれている。

 しかし、このもこもこのふにふにのぷくぷくの身体を顔に擦り付けられると、もうこの世の天国かと思う程の幸福感に包まれるな。


 御陵邸で警備員達が油断して気絶させられたのが分かる気がする。

 この気持ち良さに抗える奴は居るのだろうか?

 これはアレだな、先週の日曜日に涼子さん率いる漫画家集団とスマホ争奪戦を繰り広げた時レベルに匹敵するよ。

 あの時は咲さんや祥子さん、勿論涼子さんも結構な《《モノ》》をお持ちなのに、俺からスマホを奪おうとして、皆寝巻きと言うゆるい格好のまま布団の上で抱き付いて来られたりしたもんだから、そりゃあもう色々大変だった。

 ……何人かノーブラだったし……。

 あの時、乙女先輩からのSNSの着信が無ければ本当にヤバかったよ。


 18禁だったよ。


 その前の生徒会室のギャプ娘先輩の暴走による全員からのハグ合戦と言うのも有ったんだけど、あれはどちらかと言うと恐怖の方が先に来てたし、最後の方はまるでベルトコンベアーの上のタンポポ乗せられるのを待っている刺身パックみたいな気分になっていたしなぁ~。

 いや、本当にそんな作業が有るかは知らないんだけど。

 それにやっぱり、咲さん筆頭に、祥子さん、涼子さんの巨にゅ……。


 ゾクリ―――。


 ハッ! 今なんか桂さんと鈴さんの怒りにも似た鋭い気配を感じた!!

 そ、そう言えばあの場には御二人も居ましたね。

 ちょっと御三方に比べて印象が薄かったんで忘れていました。


 ゾクリ―――。


 い、いや、薄いって言うのは胸板の事じゃ有りませんよ、と言うか離れた所から俺の思考を読んで殺気を送ってくるのは止めて下さい。


「こーちゃん? どうしたの?」


「え? あぁ。ちょっとモグのスリスリが気持ち良くて……。って、この匂いは?」


 組んず解れつの情事を誤魔化そうとしていると、俺の鼻孔を甘く香ばしい匂いがくすぐる。

 この匂いは遠い過去の記憶を喚起させた。

 これは俺が昔好きだった商店街の焼きたてパン屋の匂いだ!

 もしかしてと、みゃーちゃんの手元を見ると、そのパン屋の袋を持っていた。

 そして、間違いなくこの匂いはその袋から漂って来ている!


「うん、差し入れよ。勉強頑張ってると思ってモグと一緒に応援しに来たの!」


 みゃーちゃんは、袋を顔の横まで持ち上げ、もう片方の手で袋を指差しながら、うれしそうに笑ってウインクした。

 その仕草がとても可愛くて、心臓がトクンと跳ねる。


「こーちゃん? どうしたの?」


「い、いや何でもないよ。差し入れありがとう。嬉しいよ。そんな事より、ほら上がって上がって」


 みゃーちゃんの仕草の可愛さに、急に恥ずかしさが込み上げてきて、火照る顔を誤魔化す為に慌てて顔を部屋の方を向けて上がるように促した。


 う~、平常心平常心。


書き上がり次第投稿します。


皆様のご意見ご要望をお待ちしております。

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