第121話 男の話
完全新規追加です。
語らなければならない人達が書けていませんでしたので追加しました。
「やぁ! 身体の調子はどうだね」
まだ面会時間前なのに、誰かがそう言いながら病室に入って来る。
お姉さんは昨日の夜に商店街の会合があったので、今日は泊り込みをしておらず、俺は一人病室のテレビを見ていた所だった。
誰だろう? あっ!
「郡津く……さん。じゃないや、学長って言えば良いのかな? まだ大学に行ってないですけど」
「はははははっ。好きなように呼んで良いぞ。お前は儂の、いや、御陵家、そして御陵先生の恩人なのだからな」
そう、病室に入って来たのは刻乃坂学園の10周年の時に生徒会長を務めていた郡津 郡衙さん。
夢の中で幸一さんが今際の際に自分の死後の学園の事を託し、そして60年間その言葉を守り通し、美都勢さんの側で学園を支えて来た人物だ。
しかし、恩人って言葉はまだまだ重い言葉だな。
実感が湧かないや。
「そんな…恩人だなんて」
「謙遜しなくても良いぞ。それに君がどう思っていようと儂達はそう思っている。人の想いとはそう言うものだ。負い目を感じる必要は無いのだよ」
そう言って学長は嬉しそうに笑った。
その言葉に少し胸が軽くなった気がする。
「ありがとうございます。え~と、お見舞いに来てくれたって事でしょうか? まだ面会時間じゃないんですが」
「ん? あぁ無理言って通して貰った。これは土産だ。後で食べるが良い。まぁ、用事とはちょっとばかし二人で話したかったものでな」
「話……ですか?」
「あぁ、そうだ。良いかね?」
「はい。俺も色々聞きたかった事が有るんですよ」
俺の言葉にうんうんと何度か頷いた学長はベッドの側まで歩いて来て、お見舞いの御菓子の箱を備え付けの台の上に置いた。
その御菓子の包みには見覚えが有る。
俺の記憶ともう一つ、幸一さんの夢の中。
それは戦後復興の折りに街が開発されていく最中の事だ。
店が一つ建ち、二つ建ち、それがやがて商店街となった。
幸一さんはその中のとある洋菓子店が大のお気に入りだったんだ。
当時まだ珍しかったケーキも美味しかったけど、一番は琥珀色した丸い焼き菓子。
夢の中で幸一さんは良くそれを美味しい美味しいと食べていた。
そして、その洋菓子屋は当時からは改装されているけど、今も商店街の同じ場所に建っている。
現在はケーキ一本に絞ってはいるけど、幸一さんの大好きだった焼き菓子だけは今も創業当時の味を謳い文句で売られていた。
……そうか、俺が小さい頃から好きだった焼き菓子は、幸一さんも好きだったんだ。
「どうしたのかね?」
「いえ、ありがとうございます」
『どうしたのか』と言っておきながら嬉しそうな顔をしている学長にお礼を言った。
多分全部分かっているんだろうな。
いや、俺が生まれ変わりってのだけは勘違いですよ?
「では何から話そうか。いっぱい有ってな。正直迷うわい」
「そうですね。でも最初からお願いします。今日は時間が足りなくなっても、これからも時間は有るんですから」
「そうだな。うん、今度は沢山時間が有る。いや、儂の時間が残り少ないかもしれないがな。ガハハハハ」
そう言って、学長は最初から……そう幸一さんの最後のあの時からの話を語ってくれた。
幸一さんが亡くなった後、美都勢さんは悲しみによって塞ぎ込んでしまうかと思っていたけど、次の日から今まで以上に精力的に経営活動を開始したとの事だ。
悲しみに耐える為と言う意味も有っただろうけど、それ以上に幸一さんとの約束、『羨むぐらい学園を大きくする』を実現する為だったんだろう。
その健気な美都勢さんの姿に惹かれた学長は、自身との幸一さんの約束を実現する為に身を粉にして美都勢さんの下で学園の為に働いたと言う。
そんな日々が学生時代から合わせて十余年程経った頃、隣にはいつも美呼都……理事長が居る事に気付いたそうだ。
そこで初めて理事長を女性として意識しだし恋に落ちて結婚したらしい。
あくまでそれまでは妹の様にしか思っていなかったとの事で、自分でも驚いたと当時の事を語っていた。
……本当かなぁ~? 俺の事を幸一さんの生まれ変わりと思って、娘に手を出した言い訳と事後了承を貰おうって思ってるんじゃないの~?
いやいや、俺はあくまで夢で見ただけの部外者なんだから二人の事に文句なんて言えないよ。
でも……、うん、それはとても素敵な話だな。
多分そこに辿り着くまで美都勢さんと幸一さんの物語と同じくらい素敵な物語が紡がれたはずだ。
それを知る事が出来てとても良かったと思う。
それからの事も話してくれた。
山を更に開拓して大学も出来た事。
一族が増えて来るにつれて手狭になった麓の家から隣県に移った事。
そして、そこで幼稚舎、小学校そして中学校と建てて、幼小中高大の一大一貫校『刻乃坂学園グループ』が誕生した事。
だけどそれは順風満帆ではなく、とても険しい道のりだったようだ。
高校生になったばかりの俺では想像も出来ない。
けど、幸一さんが夢の先に描いていた未来予想図が形になって行く話の数々に胸が躍る。
中には悲しい話も沢山有った。
例えば俺が知る俺の親父と学園長の事。
それにギャプ子先輩の悲劇。
その自分の娘と孫に降りかかった災難に、とても心を痛めていたようだ。
「ふぅ、今日はここまでにしておこうか。まだまだ話したい事は沢山有るがね。……光一君。一つ聞かせてくれないか?」
一通り駆け足で今までの『刻乃坂学園』の成り立ちを話してくれた学長は、一旦話を打ち切り俺にそう言って来た。
何を聞きたいのだろうか?
俺が幸一さんの生まれ変わりかって確かめたいんだろうか。
「儂は、御陵先生の期待に応える事が出来たのだろうか?」
不安げな顔で俺にそう尋ねて来る。
俺はその問いに自信を持って『はい』と言える。
けど、俺にその言葉を言う資格は有るのだろうか?
俺はただ自分の不注意から美都勢さんを怒らせてしまっただけ。
それを見かねた幸一さんが俺に手助けをする為にあの夢を見せてくれたんだと思っている。
そう、俺は幸一さんな訳じゃ無い。
幸一さんの言葉を求めている学長に俺なんかが偉そうに言えたもんじゃないんじゃないのか?
俺が想いを言葉に出す事を戸惑っていると、学長は優しく笑い掛けて来た。
「君が御陵先生の生まれ代わりじゃないと言う事は分かっているよ」
「あっ、分かってくれてたんですか、てっきり勘違いされているものかと。いえ、俺が御陵邸で喋った事は、それはそれで不思議な事なんですが……」
「はははは。そうだな。とても不思議な事だ。だからと言って、君はこれ以上、我が家の事で心痛めなくてもいいのだ」
「学長……ありがとうございます」
「いやいや、何度も言う様にこちらこそありがとう。……で、改めて聞くが、光一君としてはどう思うのだろうか? いや、あの世に行ってから御陵先生に直接聞けばいいのだろうがどうしてもね」
多分学長は自分の不甲斐無さで幸一さんが怒って俺を遣わしたと思っている様だ。
その表情は歳を刻んだ老人の顔としてではなく、それはまるで幸一さんの記憶の夢で見た生徒会長時代の郡津 郡衙くんの面影が見て取れた。
「そう言う事でしたら。……期待に応えるどころの話じゃ無いですよ。幸一さんの期待なんてとっくの昔に越えています。幸一さんの夢の先のまたその先の姿。多分幸一さんは天国から爪を噛みながら羨んでいると思いますよ。『あ~死ぬんじゃなかった』ってね」
想像だけど多分そう思っているに違いない。
俺の言葉に二人してその様を想像して笑い合う。
そして、その後学長は大粒の涙を流しながら「ありがとう、ありがとう」と何度も呟いていた。
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「やぁやぁ、光一! 元気かい? おや? 学長? もう来ていらしたか。 えらくお早いお着きじゃないですか。一番乗りかと思ったのに」
あの後も他愛の無い世間話を学長としていると、扉が勢いよく開くと同時に、大きな声を上げながら芸人先輩のお父さんである光善寺 御堂さんが病室に踊り込んで来た。
勿論、すぐに看護師さんに『病院で騒ぐな』と注意されてしょぼんと身を縮めたけども。
「御堂さん来てくださったんですね。お忙しいでしょうから無理されなくても良いですよ」
「ぐはっ! 一見、俺の事を労ってくれている様で、その実、来なくていいぞと言うその言葉! さすが光也の息子だ!」
ダメージを受けた振りして顔は満面の笑みの御堂さん。
本当にこの一族は……。
「やぁ牧野くん。今回はお手柄だったねぇ」
御堂さんの後ろからそう声を掛けて来たのはなんと校長だった。
この二人が一緒に来るなんて、一体どう言う組み合わせなんだろうか?
まぁ、御堂さんが生徒会長をしていた頃から刻乃坂学園で教師をしていたみたいだし古い付き合いと言う事なのかな。
校長の話だと親父とも仲が良いみたいな感じだったし。
「ガハハハハ、良く来たな御堂。それに男山。待っていたぞ。あとは……?」
え? 『待っていた』?
どう言う事?
もしかしてこの病室を待ち合わせ場所にでもしてたのかな?
渋谷のハチ公前みたいに。
まぁ、良いけど。
それより、学長が二人の後ろを覗く形で首を伸ばしてみているけど何してるんだろう。
まだ誰か来るのかな?
「『あとは』って、なんですか? 他にも誰か来るんですか?」
「それは僕の事だよ」
俺が学長に事情を聞こうと話しかけたら、それに答えるように二人の後ろから男の人が現れた。
「やぁ、牧野くんと呼んだらいいかな? 先日以来だけど身体は大丈夫かい?」
「え……っと、あなたは確か……? あぁ! 藤森先輩のお父さん……で良いんですよね?」
そう、その人は決戦の場である大広間に居た乙女先輩のお父さん(仮)だ。
(仮)なのは状況証拠的に間違いないと思うんだけど、ちゃんと確かめていないから。
ドキ先輩程じゃないにしても、色々有って乙女先輩の真乙女モードを発動させてしまった手前、一度お詫びをしなきゃいけないなとは思っていたんだよな。
それに大広間では乙女先輩側の親族で唯一俺の事を心配する素振りを見せてくれたり、節々で優しく見守るような目で見てくれていた。
その真意も知りたかったんだ。
「あぁ、そうだよ。橙子がいつも世話になっているね」
やっぱりこの人は乙女先輩のお父さんで良かったんだな。
にっこりと微笑む姿からすると怒っていないように見えるけど、もじもじキャラから俺様キャラに大変身したドキ先輩に比べ、クール毒舌と言う壊滅的に人畜有害なキャラより、純情乙女なキャラになった乙女先輩は外見的にもプラス方向になったからかな?
言葉によるダメージは以前よりパワーアップしているのが玉に瑕だけど。
「いえ、こちらの方こそ藤森先輩にはいつも助けて頂いています。あの~、この度は色々なごたごたが有りまして少し先輩の性格に変化を与えてしまったみたいで申し訳有りません」
この人が病室にやって来た意味が真乙女モードに関してだろうとしか思えないので先手を打って謝った。
こう言うのは出鼻を挫く形で先に謝ってしまった方が良いんだよね。
「はははは、いや、その事は感謝しているよ。娘はずっと心に傷を持っていたのは親の目からも分かっていたんだ。でも彼女は意地っ張りだからね。妻にもその事は言わなかった。あの後にね、娘から何が有ったのか全て話してくれたよ。幼い頃に美佐都ちゃんに言った言葉、御婆様を憎んでいた事、生徒会での計画や、ふふっ君の事もね」
「そ、そうですか」
俺の事って、何を言ったんだろうか?
何か怖いな。
「娘は変った。君の影響でね」
「うっ、ご、ごめんなさい」
やっぱり怒ってる?
父親的には他の男の影響で娘が変わるってやっぱり許せないのかな?
いや、許せないかも……、幸一さんの過去を見た所為で美呼都が郡衙くんと結婚したと知った時、ちょっとそこら辺の想いを体感しちゃったしすごく分かる。
「いや、謝る必要は無いよ。前の橙子は妻の若い頃にそっくりで……あぁ外見じゃ無く、性格がって事だけどね」
「はぁ」
あぁ、乙女先輩のお母さんって目付きとか雰囲気が確かにそっくりかも。
と言う事はクール毒舌キャラって事?
しかし、よく結婚しようと思ったよね。
橙子さんのお父さん
かなり忍耐強い人なのだろうか?
「今の橙子は、そう、言うなれば英式庭園に咲き乱れる可憐な白いバラとでも言おうか……」
「え?」
な、なんかポエムみたいな事を言い出したぞ?
一応今の乙女先輩の事を気に入っているっって事かな?
しかし、目もうっとりしているし、娘好き過ぎじゃないか?
「それなのに、触れようものなら容赦無く突き刺してくるその棘は、まるでゴルゴダの丘で磔にされている救世主の脇腹を刺し貫いた聖ロンギヌスの槍のように僕の心を打ち砕く……」
「んん?」
お~い、帰って来て下さ~い。
なんだか近くに居る筈の橙子さんのお父さんが遥か彼方遠くにいる様に錯覚しちゃうよ。
100万光年くらいかな。
なんかそんな感じ。
他の皆も……あれ?
学長も御堂さんも校長も引いてる様子は無く苦笑しているだけだな。
この人がこう言う人って事を知っているみたいだ。
しかし、よく結婚しようと思ったよね。
橙子さんのお母さん。
「わっはっはっは~! こいつの言っている事は気にしなくても良いぞ、昔から好きな者の事を語る時はこうなのだ」
「はぁ、なるほど」
本当によく結婚しようと思ったよね。
橙子さんのお母さん。
大事な事だから二回言ってしまったよ。
「公衆の面前だろうがこうだからな。学生時代もよく皆が居る学園の中庭や廊下で幸子の事を今の様にポエムで褒め称えては、その幸子に激しくなじられていたのだ」
「幸子?」
「あぁ、こいつ藤森 駆馬の妻で、現生徒会庶務である橙子の母親だよ」
「あぁなるほど~」
いやいや、本当によく結婚しようと思ったよね。
橙子さんのお母さん。
この人なんか大概な困ったさんだな。
まだ滔々と乙女先輩の事を語っているし。
その幸子さんって人も大変だっただろうな。
「まぁ、こいつはちょっと精神的マゾヒストなんで、なじられればなじられる程喜ぶもんだから、ある意味幸子と相性ピッタリなのだ」
「精神的マゾヒスト……。それに相性ぴったりって、藤森先輩のお母さんてどんな人なんですか! ……いや大体分かります」
あなたも相当な精神的マゾヒストですけどね。
乙女先輩のお母さんに性格が似ているって乙女先輩のお父さんが言ってたもんね。
そう言う事なんだろう。
「あぁ、それはそれは苛烈だったぞ。橙子以上のある意味美都勢さんと肩を並ぶ程だ。方向性は真逆だったけどな」
それもなんとなく分かる。
なんだかんだ言って美都勢さんはどこかに愛が有るからね。
一見分かり難いけど、その厳しい言葉の裏には相手の事を思いやる気持ちが隠れている。
けど、乙女先輩の毒舌はどっちかと言うと自己快楽的な所が有るよね。
御堂さんの言葉を借りると精神的サディストって感じ。
その乙女先輩以上って事は、真乙女モードレベルの破壊力を持ったクール毒舌だったと言う事か。
まるで災害だ。
「あぁ幸子さんは僕の天使なんだ! あのコキュートスより凍て付く目で見詰められると……あぁっ! ルチフェルに噛み砕かれているユダの様に僕の心を締め上げる」
すごく良い笑顔で俺に自分の妻の素晴らしさを語って来てくれるのだけど、俺には全然その素晴らしさが分からない。
天使と言っておきながら例えに悪魔を持ってくるなんてこの人やべぇ。
大広間の時は唯一のまともな人かと思っていたら、ある意味一番やばい人なんじゃないだろうか?
そう言えば、大広間の時もお姉さんの殺気や美都勢さんの圧力に対して、学長除く他の男勢二人が悲鳴上げてたのに、この人だけはあまり動じていなかった気がする。
肝っ玉が据わった人かと思っていたら、実は喜びを感じていたとは……。
まぁ、本人が幸せそうなので、これで良いのかな?
なんだか、乙女先輩のお父さんとお母さんがなんで結婚したかすごく分かった気がする。
けど、大人の愛って複雑だな。
そこは分かりたくないや。
「で、この組み合わせはどんな意味が有るんですか? 先程学長はこのメンバーが集まる事を待っていたと言っていましたが」
なんだか被虐体質スキル保持者の集会みたいな感じでアレだな。
駆馬さんと御堂さんは言わずもがな、学長も長年美都勢さんの側に長年仕えてるって事自体その気は十分有ると思う。
それに理事長も美都勢さんと同じくらい怖い人だしね。
校長は……、良くは知らないけど多分そうだと思う。
「ガッハッハッ。本当は光也も来て欲しかったんだがな」
「え? 親父もですか?」
俺の親父もって、どう言う組み合わせだろう?
いや、親父も学園長や母さんと言ったちょっとアレな人と付き合ったり結婚したりしているので十分被虐体質スキル保持者素質有るけど。
「あぁ、ここに居る者は皆元刻乃坂学園高等部生徒会長且つ、儂を除く他の者達は部活紹介写真を変えようと活動した者達なのだよ」
「えぇっ!」
俺は思わず声を上げて驚いた。
皆の顔を見ると全員優しげな顔で俺を見ている。
まるで良くやったと褒めてくれている様に。
「あぁ、僕だけは生徒会長の任期中じゃなく、君のお父さんである牧野会長の下で広報としてだけどね」
駆馬さんが少し苦笑しながらそう言って来た。
もう一度マジマジと駆馬さんの顔を見る。
そして、思い出した。
確か親父の生徒会写真のメンバーの中にこの人の顔が有ったと思う。
更に思い出したのが、その中に目付きが乙女先輩そっくりな無表情の女生徒が居た事。
あれが幸子さんなんだろう。
「あなたは親父の後輩だったんですか」
「あぁ、伝説の黄金時代最後のメンバーって所かな」
そうだったのか。
この人は何で俺の事を気遣ってくれたのかがやっと分かった。
自分が、そして親父が成し遂げられなかった事をその息子である俺がやろうとしている。
それを応援してくれていたんだな。
校長も何で親父や俺の味方をしてくれていたのかと思ったら、自分が歩んで来た道だったからなのか。
このメンバーは言葉だけじゃない、俺の真の先輩達なんだ。
「牧野くん、改めてここに居る全員から礼を言わせてくれ。俺達の悲願! 良くぞ果たしてくれた」
校長が代表する形で俺に礼を言って頭を下げてきた。
他の皆もにこやかに笑って見守ってくれている。
「そ、そんな……、いえ、ありがとうございます」
皆の感謝の言葉はすんなりと受け取る事が出来た。
それは多分、同じ道を歩んで同じ様に悩んで同じ未来を目指した仲間からの言葉だったからだと思う。
本当に色々と大変な目に遭ったけどやり遂げる事が出来て本当に良かった。
そう思う。
俺達は暫くの間、この病室で楽しく歓談し親交を深めた。