切口化、生誕。
その後僕は車の助手席に乗っていた。運転しているのは黒ワンピ男だ。その車は大きな川の上にかかっている大きな橋を駆けている。黒色の国産普通車という無難なチョイスのこの車の中で彼(僕としては彼女と呼びたいが)から色々と聞いた。まず、彼自身について。彼に名前はないらしい。代わりに彼女、つまり女装した彼には名前がある。名前といってもそこまで大層なものじゃなく便宜上つけた呼び名だが、彼女は「囮」と言うらしい。次に、なぜ彼は女装をしているのか。彼は傭兵の様なものをしているらしい。その関係上顔を覚えられたら厄介だ、という事で人を殺す時だけ女装するらしい。そしてあの屋敷。彼は前述した通り傭兵だが基本的にソロプレイ、しかし一応形だけでも仲間が必要だったらしく、仲間を集める場所を作った。それがあの屋敷で、あの屋敷に近づくものは理由をつけて引き込んで戦えるかチェックしろ、と躾けてあるらしい。実際なかの奴らを皆殺しにした挙句脳を食い散らかしたのは僕が初らしいが。ああ言う屋敷は他にもあるらしく彼曰く
「あれくらい一つや二つ減ったって変わらない」
らしいが罪悪感もあるため僕は彼についていく事にした。それでこの車に乗っている。といったところでそういえば男の方はどう呼べば良いか分からない事に気付く。
「あの、あなたの囮じゃない方はどう呼べば良いんですかね。毎回「囮じゃない方」なんて長いんですけど。」
「あぁ...ないからお前がつけていいよ。どうせ俺の名前なんて呼ぶやつあんまいないし。」
「随分適当ですね。じゃあ女は囮だから...そうだなあ、「きりくちばける」ってのはどうですね。漢字にすると切口化です。ほら、僕の両頬に切口作ったじゃないですか。それと囮って字を分解して、これです。」
「ああ、いいんじゃない?んじゃそれで」
僕なりにかなり考えた力作なんだが、こうも適当にされるとくるものがある。しかし、他にも聞きたいことはあるためここは話を広げない様にする。じゃあ次だ。「化さん、女装するときメイクとかします?」と聞こうとした時。橋が崩れ落ちた。