方法を隠し、性を隠し、悪心を隠さない
「ふーん。結構ひどい有様だな。これ全部お前がやったのか?」黒ワンピースの女は僕に聞いてくる。さっき蹴られた腹が痛くて声が出ないけどとりあえず頷くだけ頷く。
「おい!聞いてんのか!」
すると黒ワンピース女はまた僕の腹に蹴りを入れる。こいつ本気で関わっちゃいけない奴だ、と本能が告げるのが分かる。結局この繰り返しが何回かあったが落ち着いた頃にようやく説明ができた。その後死体に脳がない事に気付いて黒ワンピ女は聞いてきた。
「うわ、こいつら脳ないじゃん。お前どこにやったんだよ?」
「...食べましたけども」
「おいお前本気かよ...まあいいや、さっきは悪かったよ、両頬切っちゃって」
蹴ったことも謝れ、と言いたかったがまた蹴られたくないのでとりあえず許す。
「ああ..別に良いですよ、これくらい。それより何を使ってこんな傷作ったんですか?あとシャンデリア割ったのもあなたですよね?」
流石にこれは聞いておかなきゃスッキリしない。
すると黒ワンピは「ナイフを投げて切ったんだよ...ほら、あそこ見てみ?」そう言って一番奥の壁を指差す。すると小さなナイフが2本刺さっていた。「ほら、これ使ったんだよ」そう言ってタクティカルベストの中から1本ナイフを取り出す。なるほど、これを2本投げたのか、あんな暗闇で良くできたな、と思うし僕をビビらすには暗闇にするだけで十分なのだが。
「ほら、これで納得しただろ?んで、こっからお前どうすんの?これだけ派手にやっといてさ、まさか逃げんの?死体の処理は?俺についてけばなかった事にできるけど?」
..ん?今聞いてはならない事が聞こえた気がする。
「まさか。あんたについてくなら野垂死んだほうがまだマシですよ。」これは本音。こんな奴についていくなんて飛んで火にいる夏の虫以下だ。
すると、黒ワンピ女は
「ああん?良いからくるんだよ!足つかない様にしてやっからさ!」
「何?もしかして俺に惚れてんの?」
こんな奴に惚れられるなんて死んでも御免被りたいがこうやって煽るしか逃げ道がない気がするから言ってみる。するとこの女はさも当然の様に爆弾発言をした。
「は?なんで俺がホモみたいになったんだよ。俺はバッチリノンケだが」
「...は?えっちょっマジ?あんた男?おいマジ?冗談だろ?マジかよ...」
するとこいつは何か思い出したのかビックリした様な顔をしたが、すぐに笑い出した。
「そうだったよ、忘れてた!いま俺女装してたわ!いや悪かったよ!ほらこのとーりだ!」
そう言うと頭を下げる代わりに黒髪を取り外した。そして現れた本物の髪の毛は金色で縦に上に5センチくらい伸びている。その姿に驚嘆し、本日何度目かわからない硬直をしているとついさっきまで美女だった人間からは聞きたくないセリフが僕の鼓膜を揺らす。
「俺は男だ。天にむけて伸びる髪は向上心を表してるんだぜ。」見事硬直タイムを延長させたこいつはニヤリと笑い、「ちなみに、この髪をどうやってズラで隠したかは企業秘密だ。」とどうでも良いことを言い放った。