食人鬼の蝕脳
やってしまった。
いや、またやってしまった、と言うべきなのかもしれない。
自分が着ている背広は袖が真っ赤に染まっている。
返り血なんてものじゃない。そんな高尚なものじゃない。ましてや、自分から出た血なんて持ってのほかだ。これは、食べこぼし。今、僕がいる荘厳たる風格を持つこの屋敷の食堂で人間が倒れている。死んでいる。色々な死に方で死んでいる。僕がつかった凶器は斧だけだったのに何人かは銃創ができている。僕を殺しに、そしてこの屋敷の持ち主を守りに来たボディーガードは銃を持っていたはずだから同士撃ちでもあったんだろうか。悲惨という言葉すら言えないような状況だが一つだけ共通点がある。遺体の顔の、上半分がない。あるにはあるが、別々に、ばらばらになって本来あるべき場所とはかけ離れている。そして同じくその中にあるはずのもの、脳がない。これはもうどこにも存在しない。強いていうなら僕が持っている。脳は
僕が食べた。これは仕方がなかった。だが、それでも思う。思えなくとも、無理矢理にでも思う。きっとこんなことをしても、思っても何の罪滅ぼしにもならないだろうし、罪を滅ぼせる訳でもないが、それでも思い続ける。
やってしまった、と。