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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
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5話「あんたは優しいよ」

「おおい、大丈夫だったかよぉおお~。どこか殴られてないだろうなあ?」


 教室に戻ってきて開口一番、僕の無二の友人秋田タイシは、どうやら僕のことを心配してくれているようである。僕が机に座ろうとするところを邪魔するかのように僕の顔などを確認する彼を僕は右手で払いのけた。


「大丈夫だよ。普通に話しただけ。むしろケイジくんは良い人だったよ」

「お前なあ……。人間ってのは思った以上に腹の黒いやつなんだよ」


 たかだか16歳がなにを悟り開いたかのように言っているのだか。僕はそんなタイシの冗談を笑い流して机に座る。


 しかし、あの門谷圭司くんが一学期の頃に空井さんのことを好きになっていたとは――。そしてそんな彼が諦めるほど、彼女が僕のことを気になっていたということも、初めて知ったことだった。

 少し歪んでいると感じたけど、不本意ながらに嬉しかった――空井さんの言葉に嘘はなかったのだから。


『ずっとあなたのこと見てたの……』


 まあでも……あの空井さんがストーカー気質の持ち主だったとは……。なぜ僕なのか、という疑問は相変わらず消えないが……。


「おーい、ユウヤちょっと来て!」


 遠くから僕を呼ぶ声。声のする方を向くと、中山カホと水野サヨが僕に手招きをしていた。


 僕がそこに向かうと、彼女ら二人は、とある一枚の紙をじっと見つめている。


「美男美女コンテスト?」


 明らかにフォントが一か所だけ違った場所を読み上げた僕に、彼女らはにこやかにうなずいた。中山が僕に紙をしっかり見せてきた。


「そう。文化祭の美男美女コンテスト。通称ビビコン。うちのクラス、2年B組からは男子はケイジを。女子はミキを出そうって話になってるんだけど、いいかな?」

「何で僕に聞くのさ」


 僕が怪訝な顔をしたのを、水野が不機嫌そうな顔をして返した。


「わかってないなあ! 美男美女コンテストに出たら、恋人役をして2分以上の寸劇をやらなきゃいけないんだよ! ユウヤくんの彼女のミキちゃんが、ケイジくんの彼女役としてイチャイチャするかもしれないけどいいですか、って了承を取ってるの!」


 三末高校の文化祭の中でも、三大イベントと言われるのが、『男装女装コンテスト』『出し物発表』そして、『美男美女コンテスト』。これらのイベントをきっかけにモテ始めるやつもいるくらいに学校中が注目するイベントだ。


「ユウヤくんがあまりに冴えないから、ミキちゃんがこのイベントをきっかけにほかの男に取られちゃうかもしれないんだよ? いいの?」


 どうして水野は人のことにこんなにも真剣になるのか、そこが良い所で好きなところでもあったのだが、僕は苦笑いで返してしまった。


「空井さんに任せるよ。僕がとやかく言える立場じゃないし、何より、彼氏じゃないからね」

「……ほんとあんたってば冴えないのね」


 中山は呆れ笑いをしていた。そのまま申し込みの欄に、ケイジくんと空井さんの名前を書いて、空井さんの元へと向かった。



「いいの? 本当に」


 少し不貞腐れた様子で、水野サヨは僕に言った。


「うん。だって、僕が決めることじゃない」


 僕は改めて言い切る。しかし、彼女が言いたいことはそんなことじゃなかったらしい。


「違うよ。このまま、ミキちゃんと簡単に付き合う流れになってもいいの? って聞いてるの」

「えっ」


 クラスの中で、誰もそんなことをいう奴はいなかった。むしろみんな面白がってイケイケムードを作っていたのに――彼女、水野サヨだけは違った。


「……ミキちゃんかわいいから、ユウヤくんでも正直告白されて嬉しかったと思う。でも、私はユウヤくんの方がちょっと無理してるような気がしてさ。おせっかいだってわかってるけどね。ユウヤくんが、釣り合いだとかそんなくだらないこと気にしちゃう人だからさ。余計に」

「……」


 僕は何も答えられなかった。図星な部分もある。無理をしているとまでは言わないけれど、肩身の狭さはどことなく感じていたのかもしれない。


「って、今のは関係ないか。わかりやすく言うとね……私は、ミキちゃんもユウヤくんのこともよく知ってるから、付き合って幸せになってくれたら、凄くうれしい。だからこそ、お互いのこと、ちゃんとわかってから付き合おうとしたユウヤくんは凄いと思う。だから、文化祭の押せ押せムードでその気持ちまで軽くしちゃったらダメだよってこと」

「……」


 水野はちゃんと考えていたんだ。僕のことも、空井さんのことも。


「ありがとう。確かに、文化祭でのイベントをきっかけに付き合ったカップルってすぐ別れるってよく聞くからね」

「うん……」

「……大丈夫。僕のことは気にしないでいいから。ゆっくり、空井さんのことを知っていって、まだ空井さんが知らない僕のことも知ってもらって、それでも空井さんが僕のことを好きって言ってくれるなら、僕はそのとき、改めて告白しようと思ってるから……」


 少し嘘をついてしまった。でも、水野サヨは満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。多分、空井さんと付き合うことになったら、水野のことも諦めなくちゃいけない。でも、この子なら、友達として、いつまでも僕らと関わり続けてくれるだろう。そんな安心感のある笑顔だった。そして、せっかく僕のことを好きになってくれた空井さんのためにも、僕は彼女のことを、もっと知っていこう――


 後ろから妙な視線を感じたが、僕は気にせず、そのまま自分の席へと戻っていった。




 翌日、いつも通りの文化祭の準備に励む。そろそろ本番も近いので、教室内の模擬店の準備を始めていかなくてはならない。


「……はぁ。うちは無難にカフェか。何の面白みもないなあ」

「仕方ないでしょ! うちのおじいちゃんがコーヒー豆たくさんくれたんだから!!」


 カフェの店内の舗装を手伝うタイシと僕。悪態をつくタイシに強く当たるのは、中山カホだ。彼女の祖父が喫茶店を経営しており、それが起因してカフェを行おうと言うことになった。彼女の祖父の協力の元、材料費等を大幅にコストダウンできたのは確かに大きかった。


「まあでもうちはビビコン優勝候補の二人が接客に入ってくれるんだし、大きなアドバンテージでしょ。材料費浮いた分、衣装に費用がかけられる」

「それもそうか」


 クラスメイトたちとも会話をしながら、僕はせっせとカーテンをつけかえていた。しかし、隣のタイシはふらーっとどこかへ行っており、僕は結局一人で作業を続ける羽目になった。


「はあ……つかれた」


 休み時間になり、僕は教室内を寝転がる。そんな僕の元に女子が一人やってきた。


「何寝転がってんだ」


 冷たいジュースを僕の額へと投げ込む彼女、中山カホ。僕がジュースを左手でキャッチすると、すぐさま俺の横に座り、自分の持っていた缶ジュースのプルタブを開けた。


「あんたは凄いよ。一人ででも作業ずっとやってくれるんだから」


 突然僕を褒めだした中山の言葉に、僕は寝ていた体を起こした。


「ど、どうしたんだよいきなり……」

「いや、あんたは優しいよって話……。多分ミキも、あんたのそういうところ、陰で見てたんじゃないかな。あの子、ちゃんとした子だから……そういうところしっかり評価できるんよ」

「……優しい、か」


 確かに、卒業文集では必ずと言っていいほど『優しい』って言葉が使われたっけ? あんなの、褒めるところがない人に対する便宜上の褒め言葉だと思っていた僕は、そんなにうれしいとは感じなかった。


「サヨから聞いた」

「ああ、サy……水野から? 昨日のことね」

「……別にサヨって呼んでも誰も気にしないよ? 私のこともカホって呼んでくれて構わないし」


 そういうものなのか。変なところを気にしていた僕だったようだ。


「……でさ。私サヨから聞いて思ったんだ。あんたはやっぱ変だわって」

「はは、なにそれ」

「んー、何ていうか、今までに見てきた奴と違うっていうか。ただ優しいやつとは違うなあって思ったってだけのこと」


 カホの言葉は、全く考えられていないような適当な言葉にも思えたが、僕にはかえって、しっかり考えているからこそ、明確な言葉が出てこないと言った風にも取れた。


「……そうかな」


 そう、僕は優しいなんてものからはかけ離れたやつなんだ――――刹那、頭痛がして、視界がぐらんと揺れた。





――――私を殺して。



 いつかの夢の中に出てきたフレーズが反復していた。カホの僕を呼ぶ声が、凄く遠く感じていた――

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