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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
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4話「俺は見てしまったんだ」

 やはり、昨日、おとといからどうしても調子があがらない。今朝なんか、変な夢まで見てしまったのだから。


「ふああ」


やっと出た欠伸になんだか安心している僕、千田ユウヤは、今日も登校のため、バス停に向かっていた。このバス停は、普段登校時に利用しているスクールバスがやってくるので、結構三末生が乗っていることが多い。もちろん、空井ミキも――


「おはよ」


可憐な笑顔を向ける空井ミキ。やはり吸い込まれるような美少女である――


「元気ないね? どうしたの?」

「ううん、そんなことないよ。眠いだけ」


 君のことを考えていたから、だとは到底言えない。しかも、彼女の好意を僕は疑ってすらいる。


「そういえばさ。ライン交換してなかったよね? 交換しよ」


 突然の彼女の提案に、僕は思わずスマートフォンをポケットから取り出す。


「そうだっけ、えっと……って、別にグループから追加してくれればいいのに」

「それはダメ。せっかく友達になったんだから、直接お願いしたいんだ」


 彼女なりのこだわりだろう。僕は了承して、彼女にQRコードを見せた。とそのとき、一見の着信が僕のケータイに入っているのがわかった。


「あっ、これは……」


『昼休みに話があるから、屋上前の踊り場まで来てくれ』というメッセージ。送り主はクラスメイトの男子――顔も名前も知っている奴だったが、話したことはないやつだ。



「はあ? 昼休みに呼び出し?」

「うん……しかも、あの門谷くんから」

「門谷つったら、あのクソイケメンの……」

「そうだね。でもクソは余計――」


僕が呼び出しを受けたことをタイシに説明したら、タイシは何だか不機嫌そう。腕を組んで右のつまさきを床にとんとんしていた。


「あいつ、勉強も運動も何でもできる長身イケメン野郎だが、性格だけはマジで悪いからな。気を付けろよ。きっと空井さんがお前に取られたことに嫉妬してる可能性――」

「ないよそんなこと」


 タイシの言葉を僕は否定した。何故なら、僕を呼び出したイケメンこと、門谷圭司かどたに けいじくんは、僕とは違ってすべてを完璧に持っている人間。空井さんとたかだか『友達』でしかない僕を敵視せずとも、その気になれば空井さんを落とすことだって可能なのだろう。もっとも、門谷くんの方が彼女とお似合いなのだ。


「……お前は他人を好意的に解釈しがちだからなあ」


 いつになく心配してくれているみたいなタイシ。

 やはり門谷くんはイケメンなので、当然のごとく女子にモテることに対する嫉妬も含まれているのかもしれない、と僕は苦笑いで流した。


 そもそも、僕の気になる人は、空井さん以外にいる……でも、あの時点できっぱりと彼女からの告白を断ち切り切れなかったのは、彼女の思いを、行動を無下にできないという想いからだろうか。



 昼休みになり、僕は屋上への階段を上っていく。屋上は締まっているので、屋上前の踊り場は、絶好のプライベートスポットなのであり、そうそう人が立ち入ることはない。まあたまにカップルがあんなことやこんなことをしているという噂は聞くが――


「来たか。ユウヤ」


 低く渋い声。背の高い一人の男子生徒が踊り場にただ一人立っていた。


「やあ、門谷くん」

圭司ケイジでいい」

「うん。んで、ケイジくん。呼び出しって何の用?」

「……それはだな」


 突然詰め寄ってくるケイジくん。僕との体同士の距離は縮まっているが、いかんせん身長差というものがあり、どうしても僕が彼を見上げる形となった。


「お前は、空井ミキについて、どこまで知ってる?」


 ケイジくんは、その鋭くて切れ長の目を細めて僕に言ってきた。思い出すのはタイシの言葉。


――きっと空井さんがお前に取られたことに嫉妬してる可能性――――


「ど、どこまでって、どういうこと?」


 思わず目を泳がせてしまう。そんな僕に対し、目を一切そらさずにじっとこちらを見ているケイジくん。そんなわけないと思いながらも、どことなく怖い。


「……そうか、何も知らないのか」

「何も……?」


 疑問符を浮かべた僕に対し、ケイジくんは僕の顔から距離を置いて話し始めた。


「……俺は一学期の頃、空井ミキのことが好きだった」

「!?」


 突然の発言に思わず驚く僕。しかし、僕の反応になんか目もくれずに、話を続けるケイジくん。


「……でもあいつは俺のことになんか目もくれねえ。というか、他人に興味すら持たないやつだった。けど、俺は見てしまったんだ……。あいつのやべえ所を……」


 イケメンの彼も恋愛に苦悩するんだなあと、僕がぼんやりしているうちに、ケイジくんは何やら険しい顔になっていた。


「あいつ、顔はめちゃくちゃかわいいし、真面目で優秀で、非の付け所がない女だとは思うけど……本当に……あれを見ちまったせいで俺はあいつと関われなくなってしまった……」


 言葉を詰まらせながら一字一句紡ぎ出すように話すケイジくんの様子がだんだん怖くなってきた。


「ちょっと待って……どうしたんだよ一体? ケイジくんが何でそんなに取り乱してるんだよ!?」

「ああ、すまん……」


 息を整え、彼はもう一度言った。


「お前は本当に何も知らないんだな?」

「何のこと? 教えてくれよ」


 ここまで真剣な表情なケイジくんは初めて見る。そして、だんだんと話の核心が気になりだした僕に、彼はさらに釘を刺しに来た。


「……お前がこれを知って、空井ミキと付き合いたいと思えなくなるかもしれない。ましてや純粋に友達になりたいって思いで見られなくなるかもしれない。それでもいいか?」

「うん。気になるよ」

「わかった……」



 そう、僕は彼女のことを本当に何もしらない。だからケイジくんがこうして彼女の秘密だろうと何だろうと話してくれるのはとてもうれしかった。たとえそれがどんな内容であろうとも――


「あいつは、ずっと……ずっと前からお前のことを知ってる。このクラスになる前から、この学校に転校してくる前から……。何なら、お前が中学生のころも、あいつは知ってる。住所だって、生い立ちだって、今まで何やって過ごしてきたかだって……同じ高校で二年目も同じクラスの俺だって知らないようなことを……あいつは知ってるんだよ」


 えっ? さすがに耳を疑った。あまりに話が突拍子すぎる。


「見てしまったんだよ。あいつが携帯の画像フォルダをお前で埋め尽くしているところを……。こう言っちゃあお前に悪いが、一度も目立ったこと無いお前を……」


 そうだ。ケイジくんの言いたいことはとてもよくわかる。僕はケイジくんのように学年の幅を超えて噂になるようなイケメンでもない。どこかの部活に入って活躍した経験も無い。なんならほかの人よりも秀でたものを持っている自信もない。笑いものにされがちないじめられっこ気質でもないし、僕には、他人の興味を特別惹くようなものはないのだ。


「あっ、わりぃ……これから仲良くしようと思ってたかもしれないところに、変な横槍入れる形になっちまって……」


 言葉を詰まらせる僕を気遣ったのか、ケイジくんは謝ってきた。


「いや、いいよ。僕が聞きたいって言ったんだし」


 やっとわかった。彼女がどうして僕に興味を示している様子がないのか。僕からの話を聞き出そうとしないのか。……ケイジくんの話が本当なら、彼女は僕のことをほとんど知っている。だから聞く必要がないという結論に至れる。

 僕はこの話を聞いたことを後悔はしていない。僕の頭の中でもやもやが解決できたから、というのもある。でもそれよりも、全く知らなかった、『空井ミキ』という女の子の一面を知れたのだから――――

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