22話「僕は未来に見られてる」
時間が止まったかのような感覚だった。それは、非現実的な出来事が立て続けに起こった僕の脳内を落ち着かせる一方で、何よりも非現実的な出来事に脳細胞を総動員して対処に当たっているかのよう……
「い、一体お前らは何を……」
顔色一つ変えずに、ケイジくんは今起きている現状を見下していた。
「ったく……」
ケイジくんは目を逸らした。
「ちょっ……!!」
やっと僕の頭の中が落ち着いたところで発せられた第一声がこれだった。
「嘘じゃないの。今も昔も、ミキもミライも……千田ユウヤくんのことが、好きです」
改まって言われた言葉――ずっと言われ続けていた言葉だけど、改めて言われると、本当に照れくさい。
「……だからって……ここまでしなくていいのに」
「こうでもしないと、また何か適当なこと言ってユウヤくん誤魔化すんだもん……。あっ……もしかして、嫌だった?」
少し寂しそうに僕の方を見る空井さん。でも僕は、すぐさまそれを否定した。
「いやいやっ! 嫌じゃない! でも、どうして僕のことを?」
これも、僕のずっと思っていた疑問だった。
「ふふっ……今更そこまで気にする?」
また空井さんは笑った。本当に吸い込まれるような笑顔だった。
「そうやって真面目で、誰よりもまっすぐ、ただ誰かのために動こうとするところとか。最初は冴えない人だって思ってたけど、誰よりも思いやりがあって、芯があって……何より、困ってる人を放っておけない人ってことは……私しか知らないから」
「空井さん……」
さっき、バカみたいに人の気持ちを弄ぶなとか言ってた自分をぶん殴りたい。目頭の熱さが、呼吸を乱していた。達成感のせいかな……。
「ユウヤくん……私と、付き合ってくれませんか?」
改めて言った彼女の言葉に、僕は息を整え、返す言葉を決めた。
「うん……。ごめん」
「!?」
しばらく気を利かせてこちらを見ていなかったケイジくんも驚いていた様子だった。目の前の彼女も……でも、僕はそんな二人の様子を見て笑っている。
「僕から言わせてよ。空井ミキさん……僕と、付き合ってください」
「……はい」
これで、空井さん……空井ミキさんも、空井ミライさんも、将来を安泰に過ごせるのかな――
あれ? と一つ僕はここで疑問が生じた。
「タイム……パラドックス」
「あっ、気づいた? そう、だから、私やレイジとはここでお別れ。過去が変わっちゃったら、未来も変わるんだもの」
ってことは……僕が告白したこの事実も、何もかも全てなくなるんじゃ――
「大丈夫! ミキちゃんは、元々ユウヤくんのことが好きなんだから。それに、私と過ごしたこの日々も、ミキちゃんの記憶の中に入ってるから安心して。明日になったら――多分元のミキちゃんに戻ってる。でも私は忘れないよ……ずっと……」
「……うん。ずっと……」
多分、ほかの人からみたら普通の別れの場面。自習室の扉をゆっくりと開いて、もう真っ暗になった廊下へと出て行く。でも、明日になったら……空井未来という女子はもう学校に来ない。
でも、僕は絶対に空井さんを大切にする。ずっと……ずっと……
だってきっと……未来でみんなが僕のことを見てるだろうから。
「ずっと、見守ってるから」
「わかってる。僕は未来に見られてる。そう想って……頑張るよ」
最後に空井さんが見せた笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも明るくて、素敵で、眩しかった。暗い廊下に、ぱっと一つの灯が点ったような、そんな笑顔だった。
次の日――先日の僕らの頑張りをなんとも思わない太陽は、平常通り街を明るく照らす。タイシがなかなか学校に来ないことを、僕は不思議に思いながら……ただ不思議に思いながらサヨやカホに挨拶をする。
「よう」
「あっ、ケイジおはよー」
どことなく昨日のことを思い出して気恥ずかしいらしいケイジは、すぐに僕の元から去っていった。……これじゃあこれまでとあまり変わらないな。今日の太陽みたいに……
そんな眩しい陽光にも負けない笑顔を振りまいて、彼女は今日もやってきた。
「おはよーっ」
中身は少し変わっていても、こういうところは変わらない。明るい表情ですぐにみんなに囲まれていく。
「ミキちゃん元気になったね!」
「何かあった?」
クラスメイトに問われ、空井さんは恥ずかしそうに笑った。
「うん……」
そう言って空井さんは、また僕の前にたち、その綺麗な顔を僕に向けてきた。
「私、ユウヤくんのことが好きなの。付き合ってください」
――もし、かわいい女の子から、こんなことを言われたらどんなに幸せだろうか。幸せを通り越して壊れてしまうかもしれないくらいの衝撃でさえも、僕は今なら乗り越えられる。
「うん。付き合ってください」
僕の即答に、クラス全体が沸く。
だって、僕は未来に見守られてるから――
――にしても、こんなときにタイシは何をやってるんだ?
「能ある鷹は爪を隠すって言うもんな。俺の暗躍っぷり、どうだったよ?」
記憶転移を終えた空井ミライを、未来で待っていたのは、秋田タイシ――ユウヤの唯一無二の親友だった男だ。
「私が自分で空井ミキを動かし、あなたは外から千田ユウヤをその気にさせる。あなた、ずっと思っていたけど……いっちばん畏いわ……」
「まあ、親友のために真剣になれないやつはクズだから……。前世の人がタイムマシンを作ったのは同じなのに、お前だけ追い詰められるのはおかしいもんな」
飄々とした様子でミライの元から去ろうとするタイシ。
「きゃはは……末永くお幸せに……俺の親友たち」
タイシは無邪気に笑って去っていく。
「……大したことしてないくせに」
ミライは記憶も肉体も転移して手伝ってくれた親友に感謝しながらも、苦笑いするのだった。




