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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
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21話「嘘じゃないの」

 前世の自分の死を防ぐためのターニングポイントが、現在にある。だから、空井さんは、僕らのいる、この時代にやってきた。


「そのターニングポイントって……具体的に、何なの?」


 僕の問いに、空井さんは照れ笑いしつつ、小さく声を出した。


「ほんとに……ユウヤくんって、鈍感。私が今まで何しようとしてた?」

「何って……」


 あ……


 そうか……


「そういうことなんだね」

「そういうこと。空井ミキと、千田ユウヤが付き合うこと。それが、私たちがしなければいけなかったこと……。そう、私たちが過去に来てまで果たしたかった、目的なの」


 三人写った写真を両手に力強く握っていた空井さん。僕は頭の中がすっきりしたようで、暗い靄がかかっていた。


「そりゃ……そうか。空井さんみたいな可愛い子が……僕のことを好きになるわけなんて、無かったもんな。そりゃ……最初こそ……僕は君からの好意を疑ってばかりだったけど、嬉しかったんだよ。単純に……自分に自信が持てて変われた気がしたんだよ」


 言葉が、滝のように流れ出てくる。自然と目尻に熱く何かが込み上げていた。


「……そんな自分の生死に関わるようなことだったなら、僕だって、変に意固地になる必要もなかったんだよ。利用されてるって知ってたら、変に悩むことだって無かったんだよっ! 人の気持ち弄んでんじゃ――――」


 僕の感情は、思った以上に昂ぶっていた。視野が狭くなりつつある中で、空井さんが何かを必死に訴えている。――訴えている。


「ごめん、待って! 嘘じゃないの!」


 嘘じゃないの――と訴えている。――訴えている。訴えている、訴えている――訴えている……


「落ち着けっ」


 ケイジくんが僕の背中を少々強めに蹴った。彼の力強い蹴りに、なされるがままに倒れる僕。


「いってぇな」


 僕が強く彼を睨んだところではっとした。


「やっと気づいたか」

「ああ、うん」


 僕は、取り乱したことを恥じた。


「嘘じゃないって訴えてんだろ。話ぐらい聞いてやれよ。お前だって荒ぶる俺を無理やり止めただろ。おあいこだ」

「……」


 少し、僕に対して俄に恐怖心を抱いているのかもしれない。それを強く恥じ、謝った。


「ごめん……嘘じゃないって、どういうこと?」

「うん、信じて欲しいのは、むしろこの先の話なの」




 彼女は、再びいつもの明るい表情で、尚且つ少し照れたように、話し始めた。


「今から話すのは、タイムマシンができる経緯――――」



 空井さんは高校1年生のときに、本当にココ、三末高校に転校してきていた。

 彼女は僕らの知っているとおり、明るくて、可愛くて、優等生で、運動も出来て、周りにいつも人がいるようなクラスの中心――でも、そんな彼女は、いつもある男に片思いしていた。


 それが、僕、千田ユウヤだったのだ。


 これを聞いた瞬間に僕は言葉をぐっと堪えた。来世から来た空井ミライ――目の前の話し手も、最初はその理由がわからなかったらしい。


 しかし、彼女は結局、僕に告白できないまま高校生活を終えてしまったのだ。


「なるほどな」


 ここまで話し終えた時点で、ケイジくんは答えにたどり着いたらしい。


「それで、告白できないまま終わってしまった高校生活を変えるために、タイムマシンが作られたってところか」

「びっくりするくらいにスペック高いのねケイジくん」


 空井さんが思わず笑うほどに、ケイジくんの予想は的中していた。しかし、納得が行かない。幾人もの科学者が、発想すらしても企画の段階にさえ持ち込めなかったものを、なぜ普通の高校生だった空井さんが作り上げることができたのだろうか。


「空井ミキは、バカな女だった。それだけよ」


 一生分――いや、それ以上の財と、一生分に匹敵する活動時間を費やして、それを完成させたのだ。つまり、文字通りの『寝る間も惜しんで』というやつである。元々勉強ができたとは言え、ここまで成し遂げるのもさすがに現実と乖離している気がしたが――


「まあ、彼女にはとある天才の協力者がいたってのもあるわね……」

「天才の協力者?」

「まあそれはいいの。普段はほんとにバカなやつだから。私もびっくりするぐらいに、バカで賢くてかしこくてかしこいの」


 どうやら『天才の協力者』と言う点には触れて欲しくないらしい。僕も敢えてこれ以上は聞かずに話を続けてもらった。


「空井ミキは、タイムマシンの作成に成功した。でも、世間全体100%の人々が、それを人類の進歩だ、世紀の発明だ、と祝福したわけではなかった――――」


 合法ギリギリの臨床実験を繰り返していた空井さんは、政府からのタイムマシンの使用認可をもらえるわけもなく、世間も、そんな実験を繰り返した彼女を『マッドサイエンティスト』とわらった。


 世間からひどいバッシングを受けた彼女は、住んでいた場所も追い出され、家族からは記者や周囲からの追求に耐え切れないからと絶縁宣言され、文字通り追い込まれていた。


 そんな悲劇の発明家、空井ミキに助けの手を伸ばしたのは――高校二年生、三年生とクラスが一緒だった一人の青年だったのだ。


「それがあなた――千田ユウヤくん。あなただったの」


「な、なんでそんな世間から追い込まれていた彼女を……僕が?」


 空井さんの回想に突然登場してきた僕という場違いな人物に、僕自身が誰よりも困惑した。


「それは、あなたにしかわからないのよ」


 微かな笑いで僕を見た空井さん。儚くて、とても魅力的に見えた。僕はもしかしたら、こんなに知り合いが苦しんでいたら、頼まれていなくとも断れないのかも……


「でも、所詮はいわゆるところのわら。すがったものはあまりにも脆かったの。見る見るうちに、自分以上にやつれていくユウヤくんを見た空井ミキは――彼に『私を殺して』とお願いしたのでした」


 そういえば、夢の中で見た空井さんにそっくりな大人っぽい女性――かなり儚くて、悲しげで、美しい顔をしていたっけ……。大人っぽいってのも、こういうことだったのか。


 僕の中で、靄が取れていく。わからなかったところが明るみにでてわかっていくように。


「そして、私は……こんな悲しい事実の末に生まれてきた空井ミキの来世。私たちの時代にはね、タイムマシンの実用化に成功していて、過去には自由に行き来できるようになったの。でも、タイムマシンが発明されていない時代に転移することは、本当は禁止されているんだけどね」

「おかしくねえか? なんでお前らの時代での禁忌を破ってまで、たかが自分の前世の未来を変えるためにここにいるんだよ?」


 ケイジくんが空井さんに問う。僕も同じ疑問を抱いたので、ケイジくんと同じように空井さんの目を強く見た。


「現代ってさ、割と心理学とか遺伝子学で割と人間性決められがちじゃない? 私たちの時代は……前世相学ってのが、それらに代わって台頭してくるようになったの」


「ああ、空井ミライの前世は、マッドサイエンティストと世間から嘲笑された悲劇の発明家、空井ミキってわけか」

「それで……人間性を決められれば良い未来は訪れない。だから――こんな昔まで遡って未来を変えるために過去を変えにきた……と」


 僕とケイジくんの言葉に、空井さんは明るい顔で笑った。


「そういうこと」


 その顔は、答えを導いた子を褒める親のような――包まれるような優しい笑顔だった。

 でも、僕はここで思い出す。


「あっ、あのさ……ってことはさ……嘘じゃないのってどういうこと……?」


 僕の声は図らずとも震えていた。顔が朱に染まるのがすぐにわかった。胸の鼓動。背中とかから溢れてくる気持ちの悪い汗――それら全てを包むように目の前の彼女、空井さんは笑った。


「ふふっ……ユウヤくんってやっぱり鈍感」


 鈍感……ではない、と思う。なんか非現実的すぎて、どこかで認めたくない自分がいるんだろうなあ――なんて考えているうちに、視界が急に真っ暗になった。


「わっ!」

「口閉じて!」


 視界が真っ暗になったのは急に距離を詰めてきた空井さんの仕業だと気づいた。


「どういうことだってば!」

「こういうこと!!」


 まだ動揺の残る僕の口を、彼女は強引に自らの唇で塞ぐのだった――


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