20話「わからない?」
僕の追及に、空井さんはただただ僕を見ることしかできなかったと思う。多分、ケイジくんも……
「ドッキリだとか、騙してたとか、からかってただけだとかだったら、今のうちに言ってくれ……」
僕が絞り出した声にさえも、空井さんは視線しか返していない。
「……ユウヤくん。そこまでして私のこと知ろうとしてくれたのね」
「えっ」
話題を逸らされた気がして少し腑に落ちない空井さんの発言。しかし、僕が言葉を返そうとする前に、彼女は続けた。
「ご名答よ。私は未来から来たの。『未来』というと、語弊が生まれそうだから『空井ミキの来世が生きている時代』から来た、と言った方が良さそうね」
「未来……? しかも、空井さんの来世から?」
あまりにも現実とは乖離した言葉の響きに、僕は語尾に疑問符をつけてでしか言葉を返せない。ケイジくんに至っては、言葉を失っている。おそらく、思っている以上にスケールの大きな話を突きつけられて戸惑っているのだろう。
僕が割と平静を保っていられるのは、やっぱり僕が他人の話にそこまでリアリティだとか、起伏性だとか、面白さとか、興味がそそられるか否かとか、そういったことを求めていないからだと改めて気づかされた。
いつの日にか文化祭で撮った、僕と空井さんが2ショット――ではなく、真ん中にタイシも居座っている写真をさすりながら、彼女は微笑んでいる。
「うん……言っても簡単に信じないだろうけど……。『私たち』が住んでいた時代って、もうタイムマシンが完成されてるの」
「そのタイムマシンを応用し、“記憶だけ”を前世の自分に転送して私――空井ミライは、空井ミキとして、この時代に来たの」
「はは……何言ってんだお前――わけわかんねえよ」
ケイジくんは狂ったように笑っている。
「それじゃあ、空井ミキという女子の感情は……存在しないってことか? こんなことして何がしたかったんだよ!!」
「違う、空井ミキという女の子は、現にこの時代を生きているの。ただ、去年、私がこの高校に転校してきたときから、今日の今までは、空井ミキの記憶に、空井ミライの記憶と思考を上乗せしているの」
ケイジくんの推論はあたっていた。尚且つ頭が良いので即座に内容を理解するが、理解できていなかった。
「空井ミライの脳に、去年までの空井ミキの記憶を書き足して違和感なくしてるだけだろ。はあ……ここまでして俺っつうか……ユウヤに告白したりとかは……全部どういう目的があってやったことなんだよ!?」
ケイジくんは空井さんの胸ぐらに掴みかかろうとする。僕はそれを止めた。
「待って……」
僕の力じゃ踏ん切りが付かない。僕自身倒れることで、なし崩し的にケイジくんも床に突っ伏した。
「……なんだよユウヤ……」
「もしかして、空井さん……。あの夢が関係してるんじゃないの?」
空井さんの動揺した様子が止まった。ケイジくんもおとなしくなった。
「……ああ。レイジが言ってたのはこういうことだったのね」
レイジくんのことを呼び捨てしているということは、もう隠すつもりもないのだろう。僕はさらに尋ねようとした。
「あの夢は、一体何だったんだよ!?」
僕がずっと知りたかったこと。それは、空井さんを知ろうとする上で、どうしてもつっかかることだった。
「あれは、多分、未来のあなたの見ている映像よ」
「えっ」
「実際に未来のあなたが、その夢の内容を目の当たりにしてるのよ。多分、ケイジくんの夢もそう」
「そ、そうなのか……」
僕だけじゃない。事実を伝えられたケイジくんも同様に愕然としていた。僕の場合は、とてもじゃないが、女性が目の前で飛び降りていくところなんて見ていられない。しかも……『殺して』なんて言ってる女性が。
ケイジくんだって……確か、友達が狂っていくところだっけ……そんなものを、未来の自分が経験しているなんて知ったら――
「……記憶転移者と親しい人の前世が、転移先である前世の自分と親しい時、親しい人の記憶に、未来の出来事が介入してしまうの。これが……レイジの言ってた記憶だけの転移の与える悪影響。そして、記憶だけじゃなく、肉体も転移してきた者は、親しい人への影響力はぐんと低くなる代わりに、もし前世の自分が近くにいたら前世の自分は同じような悪影響を及ぼされるの。当然私はこのリスクを承知でこの時代にやってきたんだけどね」
呼吸をおかずにしゃべり続ける空井さんと、その様子に言葉も出ない僕ら二人……。
「桐谷レイジも……俺がこうなるって言うリスクを把握した上で来たってことか」
「そういうことになるわ」
ケイジくんは歯を食いしばっていた。
「んのくせ説明もせずにトンズラかよ……」
「まあまあ」
ケイジくんの怒りはごもっともだな……と昔の公害問題の被害者の声……みたいなやつを思い出した。しかし、僕はまだ腑に落ちない。
――ちょっと待て――現実に目の当たりにしているということは……未来の空井さんは死んでいる……? ってことは、来世の空井さんが存在し、尚且つ過去にやってくる理由が……
「ここまで言って、わからない? 私たちの目的」
「……目的」
空井さんの言葉を反芻し、自らの記憶を遡り、答えを探す。
現世の空井さんは、多分、十数年後ぐらいに死ぬんだろう。
「もしかして、前世の自分の死を防ぐためのターニングポイントが、”現在”にあるってこと?」
僕の脳内のジグソーパズルの完成は近そうだ。




