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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
19/22

19話「教えてくれないか」

 僕はケイジくんが尋ねてきた内容に該当するであろう内容――僕が見たあの夢の話について、ケイジくんに全て説明した。冷静に考えると、考えすぎとも思える夢の内容だが、やけにリアリティのある夢を見る経験というのは、ケイジくんもしていた。


「なるほど。そりゃ、話しづらいわな」


 そんな同一経験もあって、ケイジくんは理解してくれた上に、僕が話すのを憚った理由まで納得してくれた。こいつ、実はいいやつなんじゃないかとさえ思えてくる。



「でも、だとしたら益々、ここで逃げやがったレイジの野郎がうざってえ」

「……それは同意」


 ケイジくんはいつになく怒っていた。路肩の石ころを強く蹴飛ばす。跳ねて溝に落ちていく小石を、ただ僕はぼんやりと見つめるしかなかった。



――僕が見た夢に、空井さんが出てきた。つまり、それは……空井さんが、僕たちを取り巻くこの現状に深く関わっているということ……。




 以前に、サヨから聞いた空井さんの家――僕はここまでやってきた。


 いよいよ……いよいよ、俺の高校生活を変えるきっかけになった……いい意味でも、悪い意味でも……それが、ここにいる、空井さんなのだ。



「よっしゃッ」


 両頬を叩いて自らを鼓舞した。


「わかってるよな。アイツは、お前が思ってる以上に強かな女だぞ」

「ああ。でも、僕が1番よく知ってるんじゃないかな」


 適当に笑って僕はインターホンを押した。扉が開くと同時に、空井さんの母親が、僕らを出迎えてくれた。


「あら、ミキのお友達の……」

「あっ、千田ユウヤです。あのー、ミキさんは……?」

「……多分部活が終わる頃だと思うんだけどね……まだ学校にいるんじゃないかしら? 近頃、学校に残りがちだから」

「そうですか……」


 残りがち……か。


「最近、ミキさんのことで、何か変わったことって、ありませんでしたか?」

「えっ?」


 後ろからぐいっと空井さんのお母さんに話を聞こうとするケイジくん。目の前の女性は、少し困惑した様子で、一言言った。


「……ミキ、気になる子ができたみたいで……なんだか嬉しそうに学校通うようになったの。それくらいかしら……最近学校に残りがちなのも、そういうことかしらねえ」


 図らずとも、空井さんのお母さんの頬が赤く染まっている。


「あ、ありがとうございました」


 ケイジくんは少し気まずそうに礼を言い、深々と頭を下げた。僕もそれに釣られて深々と頭を下げ、空井さんの家を後にした。


「学校だね」

「結局だな」


 僕らは――最後の勝負をしに、学校へ向かった。



 学校に着くと、もう夕日が見えてきていた。部活が終わった学生たちが、学校の外へ向かって一直線に歩いているのを横目に、僕らは逆に校舎へ向かって歩いていく。


「……バドミントン部は終わったかな」

「水野サヨに聞いてみろよ」

「……わかった」


 そういえば空井さんとサヨは同じ部活だったっけ――と、サヨにメッセージを送る。


『部活終わった?』


 僕のこのメッセージの直後、すぐに返信が来た。


『さっき。まだぶしつー』

『空井さんも?』

『ミキちゃんもいるよーっ!!!』


 僕はケイジくんに頷いて伝えた。ケイジくんもわかってくれたらしい。


『あっ、伝言しようか?』

『それなら、自習室来てもらうように言ってもらっていい?』

『OK!』


 僕はこのやり取りをケイジくんに伝えた。ケイジくんは親指を立てて返してくれた。


「あれ、これ……俺いない方が良いのか?」


 ケイジくんが苦笑いしながら気を利かせようとするのを、僕は同じく苦笑いして制する。


「大丈夫、むしろ一緒にいてくれよ。そっちの方が、僕が大変なことになった時に助かるからさ」

「そうだな。お前が倒れがちだってのは、よく知ってる」

「ははは」


 彼の冗談に僕は笑い、自習室へと向かった。



 自習室に向かう廊下の雰囲気。締まりかけの扉の窓から差し込む夕陽が、全体をオレンジ色に染めていた。空を見ると、少し藍色に染まっている部分も見えていて――


「あっ」


 自習室の扉を開いたら――そこには、あの背中が待っていた。


「空井さん」

「ユウヤくん……あら、ケイジくんも」

「よお」


 空井さんに照れくさそうに挨拶する僕とケイジくん。しかし、僕らは単に挨拶をするために来たわけではない。僕は表情を改め、真剣な表情で空井さんに向き合った。



「空井さん。話があるんだ」


「えっ……」



 僕の切り出しに、頬を赤らめる”素振り”を見せた空井さん。


「レイジくんから何か聞いてる?」


 僕のこの言葉に、空井さんの顔が途端に固まった。


「……ああ、話ってそっちのことだったのね」


 そしていじらしく笑った彼女に、思わず胸の鼓動がどきりとしたのは、僕が男である以上仕方がないのかもしれない。


「その表情から察するに、レイジくんはあなたたちに大したことは喋ってないみたいね」


 空井さんの口調が、急に大人っぽくなった。


「ああ……その通りだよ。だから僕らは、彼がくれたヒントを頼りに君にたどり着いたんだ」

「……」


 ケイジくんは、空井さんと面と向かって話したことで、彼女の変化に戸惑いを隠せなくなっていた。

 きっと、僕よりも”それ”を信じる根拠に乏しいのが原因だろう。


「僕とケイジくんが変な夢を見たり、それが原因で記憶がごちゃごちゃになって倒れたりする原因、空井さんはわかってるんだよね!?」


 僕は尋ねた。ぐっと顔を近づけると、彼女の化粧一つ乗っていないのに綺麗な顔がより一層近づく。――見とれている場合ではない。


「あら、それなら……私とレイジくんの関係性……を答えてくれないかしら?」

「それなら簡単さ。差し詰めキミの後見人……と言うか、忠告者、といったところじゃないかな?」


 僕の推論に、ケイジくんは驚く様子だった。そう、あの会話を聞いていたのは、僕と、会話していた当人二人だけなのである。


『だから記憶だけの転送はやめとけって言ったんだよミライ。他にまで影響が渡るから』

『っていうより、何で来たのよ……桐谷レイジ』


 なぜかはっきり覚えていたこの会話の内容だけは、一字一句間違えずに言えた。そんな僕の様子を見て驚いているのはケイジくん。それ以上に驚いているのは目の前の美少女――空井ミキだった。


「理由はそれだけじゃない。レイジくんは……明らかに今日まで”居た”あの部屋に、長居するつもりは無かったんだと思う」

「えっ、なんで」

「家具が少なすぎだし、趣味のモノも何一つ揃っていなかった。漫画も、ゲームも……雑誌とか何もかも。あんなに人当たりが良くて会話のノリもいいのに趣味の一つも無いなんておかしいよ」

「……男子高校生とは思えないよな」


 これはレイジくんの部屋に実際に訪ねた僕とケイジくんだけがわかること――


「教えてくれないか……空井ミキ――いや、空井ミライさん。君は何者なんだ? 僕らの身に、何が起きているんだ?」


 僕は深々と頭を下げた。後頭部で、確かに空井さんからのまっすぐな視線を感じた。


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