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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
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18話「やっと見つけたぜ」

 レイジくんを捜索し続け、早くも一週間が経った。結局、この一週間の間、空井さんはどこか心を失ったかのようにぼんやりしていたし、レイジくんは結局見つかっていない。もはや学校側も彼をただの不登校とは認識していないらしく、その原因を探り始めている始末だった。


 しかし、進んでいるのは僕たちも同じ。とうとう僕とケイジくんは、レイジくんの家を突き止めることに成功したのだ。


「一週間もかかったかよ。長すぎたな」


 ケイジくんは、感慨深そうにマンションのポストに書き刻まれた名前を見ていた。


「うん……」


 桐谷レイジ。彼の謎がようやく分かる日が来た。ここまで掛けた時間……必ず無駄にはしない。


 そう意気込んで僕はインターホンを強く押した。反応はない。


「多分、すぐには出てこねえよ。学校側からの詮索も止めるようなヤツだ」


 ケイジくんの言葉には納得できる。だが、こうして待っているのも癪だった僕は、ドアノブをひねって入ろうとした。


「レイジいるんだろ!? 俺だ! 千田ユウヤ!!」


――ドアノブを強引に回す、押し込むも、チェーンが入るのを邪魔した。僕のこの行動には、さすがのケイジくんも驚いた様子だった。


「お、おい……んなことしたって……」

「いるんだろ! 返事しろ!!」


 止めるケイジくんを振り切って、僕は部屋の奥にも聞こえるであろう大きな声で叫ぶ。


「来いよ!」


 遠くで物音がした。来る――不思議と緊張感はなかった。相手がレイジくんだから――友達だから――どこかでタカをくくっていたのかもしれない。



「うるさいな……正直びっくりだよ」


 暗い部屋の向こうから、少々ボヤきながら僕らの前に姿を表した一人の少年――桐谷レイジ。彼は僕らが張り付いた扉の、固く無機質なチェーンを外し、僕らを玄関の中に招き入れた。


「やっと見つけたぜ……桐谷レイジ」


 ケイジくんが好戦的な目をレイジくんに向けたが、レイジくんは飄々とした様子で笑い流した。


「しかし、珍しい組み合わせ……だね。よりにもよってユウヤと……あんたじゃねえか」

「……まあ、これにはいろいろあったんだけどね」


僕は苦笑いしながらケイジくんを横目に見る。ケイジくんは早く本題に切り出したくて苛立っていた。


「……まあ落ち着きなよ……」


 僕がなだめるのもケイジくんは聞かずにずっとレイジくんを睨み続けている。


「……とりあえず、俺とユウヤの組み合わせである訳……ホントは知ってるんだろ?」

「……さあ」


 明らか含みを持たせた笑みを持ちながら、ケイジくんをあしらい続けるレイジくん。似たような顔が僕の視界の中で対峙していた。


「とぼけんのも大概にしろ……」


 苛立ちがあからさまにわかるようになってきたところで、僕はふたりの間に入った。


「……何か知ってるんだろ? 僕やケイジくんの身に、何かが降りかかってるってこと」

「……」


 僕の言葉は、核心を突いているらしい。レイジくんが額に汗を掻いたまま黙っているのが、何よりの証拠だろう。


「……奥で話そうか」


 レイジくんの固い笑顔に、俄な青筋が見えた。



 レイジくんの部屋の奥――小さなテーブルと、小さなテレビ、キッチンの食器は無造作になっている。いかにも男子高校生の一人暮らしって感じ――僕は一つの違和感を覚えた。


「本も、ゲームも何もないんだね」

「今はそんなことどうでもいいんだよ……」


 レイジくんは適当に言ってベッドに座った。背後に掛けられた制服があるのがすごく不自然だ。


「……おかしいんだもん」

「まっ、本題に入るんだろ? ユウヤよりも、その隣の目つきがえげつない男が怖いからさ」


 レイジくんは乾いた笑いで僕の口を牽制した。僕らを、カーペット一つ無いフローリングの床に適当に座らせた。


「さあ、まず、君たちに起こっている”現象”について、説明するかな」


 途端にレイジくんは僕らに対し、協力的になった。レイジくんはいけ好かないと言った様子だったが、僕は狐につままれたかのような感覚だ。


「……まず、君たちは今から俺がする話を、信用しようがしまいが構わない。ただ、正しいことを前提に聞いてくれな」


 彼が改まって言った言葉に、僕らは頷く。


「まず、ユウヤとケイジの身に起こってる変な現象。それは、時間の経過と共に、タイシやカホ、サヨちゃんたちにも降りかかるようになるだろう」

「んなっ……何でだ!?」


 ケイジくんは、何か予想が外れたのか、少し取り乱していた。


「多分、今の反応を見るからに……ケイジ、お前は”俺のせい”っつうか、”俺だけのせい”だって思ってるだろ?」


 図星を突かれたのか、ケイジくんは息を呑むだけだった。


「ど、どういうことなんだ?」


 ひと呼吸おいて問うケイジくんの顔を見ながら、思わず僕も息を呑む。今、この会話の主導権が完全にレイジくんの手にあるということを、二人は痛感させられざるを得なかった。


「……まあ、それはケイジ――の隣のこいつがよく知ってるよ」

「は?」

「えっ」


 レイジくんの言葉に、僕は戸惑った。


 ――僕がよく知っていること……?



 何も答えが思い浮かばない僕。隣からの強く鋭い視線――僕の額から思わず汗が溢れてくる。


「おい、適当なこと言ってんじゃねえだろうな」


 ケイジくんはレイジくんに強い口調で当たる。しかし、レイジくんは相変わらず飄々としている。


「……思い出しなよユウヤ。あの夢に……誰が出てきた?」


誰が――誰が出てきた? あの夢?


「まっ、これ以上は俺の口からは言えねえ。後は……”お前ら”で考えな」


 レイジくんは部屋を出て行く。それどころか、玄関まで行き、簡単な荷物をまとめて、靴を履き、扉を開き――


 ――部屋を出ていこうとしているではないか。



「ばっ、待てこの野郎!!」


 咄嗟に気づいたケイジくんが立ち上がった時には、レイジくんの部屋の扉が閉まっていた。ここで逃がすわけには行かない――と追う二人がその扉を開けた頃には、レイジくんの姿は無かった。


「逃げられたか……」


 悔しそうに呟く僕の顔を、訝しげに覗き込むケイジくん。


「お前、何か隠してるんだろ……? こないだから違和感しかなかったし」


 とうとう、隠すわけには行かなくなった。できれば話したくはなかったのだが――



「実は……」


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