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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
17/22

17話「それどころじゃねえだろ!」

 行方知れずのレイジくんを探すために、僕とケイジくんはまず、職員室へ向かった。職員室は生徒の情報を多く預かっている。言わば個人情報は山ほどあるというわけだ。


「あの、先生」


 頭髪に乏しい男性に話しかけた僕の声。担任の先生は笑いながら答えた。


「どうした?」

「桐谷レイジくんがなかなか学校に来ないので、様子を見に行きたいんです。住所教えていただいてもいいですか?」


 こういったのはレイジくん。成績優秀な彼の頼みに、先生も首を縦に振るだろう――


「悪いな、レイジ本人から止められてんだ」

「えっ」


 僕らは耳を疑った。


「な、なんだよそれ……。まるで俺らに『来るな』って言ってるみたいじゃねえか」

「なんでだろうなあ……。……あいつがおかしくなる理由なんてなかったはずなのになあ」


 担任の先生の様子を見るからに、レイジくんは深い理由を先生には話していない。そして、先生はクラスの問題すらも、いやいやながら疑っていると言った様子だった。


「お前ら、レイジのこと、何か知らないか?」

「いえ……むしろ聞きたいのは僕たちの方でして……」

「……そうか。まあ、協力できずに済まないな」


 僕らの言葉に嘘はない。その実直さを先生も十分理解したらしく、回転する椅子を僕らの方とは別の方に向けて作業に戻った。



「クソッ」


 自分の机に少々強く蹴りを入れるケイジくん。苛立ちが態度に出ているのを察した僕は何も言わない。そして、空井さんなら何か知っているのではないかとも疑ったが、そのこともケイジくんには言えない。


 ――協力する、と言ったはずなのに。


「アテが外れたが、こうなりゃレイジの通ってた通学路を探し当てて見つけ出すしか方法はねえな。なぜだか学校には在籍してるみたいだし、見つかるはずだ」


 ケイジ君は新しい提案をした。そして、僕はとある一つの懸念――なぜか学校には在籍している点について、思い当たる節があった。


「……離れられない理由でもあるんじゃないかな?」

「……は? どういうことだ?」


 僕の言葉に、ケイジくんは俄然興味を示した。


「いや、詳しくはわからないんだけど……。もし、僕らから逃れたくて学校を休んでるなら、転校するなり、自主退学するなり、自分から問題起こして退学になるなりして学校から本当の意味で去った方が楽じゃないか? でもそれができない理由がある……。だから彼はあんな方法を」

「普通に自分の生活があるからだろ。考えるまでもないぞ」

「結局は一緒だよ。僕らに何か隠してることがあるから学校に通えていない。この時点で自分の生活なんてあったもんじゃないだろ」

「ああ、そうか……なるほど」


 ケイジくんは一考するそぶりを見せた後、こう言った。


「じゃあ、彼なりの目的を見つけ出すことができれば、俺らが見たあのへんな夢に一歩近づける可能性があるってわけか」

「あくまで憶測だけど、そんなところだね」


 ケイジくんは自分で蹴った机を直して背筋を伸ばした。


「何が何でも見つけ出してやる……桐谷レイジ。隠してること、全部吐き出しやがれ……」


 ケイジくんなりにも、何か思うことはあるんだろうな……と思って、僕はそっと彼の背中に従った。



 この時、僕らはまだ気が付いていなかった。僕らが思っているよりも、ずっと重大なことの一端に、片足を突っ込もうとしていることに……




「桐谷レイジの通学路での目的証言はこれくらいか」


 ケイジくんはノートにまとめたレイジくんの目撃証言を僕に見せてきた。割と分厚くまとめられている。成果は十分だろう。


「まあ、イケメンな転校生って時点で目立つだろうし、これだけ集まるのも不自然じゃないね」

「んじゃ、行くぞ」


ケイジくんは早速荷物をまとめて飛び出した。冷静になって僕は慌てて彼を追いかけた。


「えっ、午後の授業はどうするんだよ!!」

「それどころじゃねえだろ!」


 こんなやつが優等生と呼ばれていたのか――と僕は半ばあきれながら、またしても彼の大きな背中についていっていた。



「とりあえず、ここの服屋の横の路地裏から出てきてるっていう目撃証言はある。あとは、この先の住宅街か、それともマンションか、アパートか」


ノートと道を交互に見ながらケイジくんは僕にはなしかける。


「にしてもだいぶこれだけで絞られたね。……じゃあさ、高校も転校してくるくらいだし、一軒家構えてるとは考えにくいでしょ。賃貸住宅かマンションかアパートに絞られるよね?」

「……まああそうだな」


 僕の意見に、ケイジくんは納得してくれたみたいだ。


「お前も、意外とよく考えていたんだな」


 ケイジくんから思ってもいない言葉が飛んできて、僕は困惑する。


「な、何でそんなこと言うんだよ」


 少し慌てた様子の僕を見て、ケイジくんは少し笑っていた。


「お前、何事にも無関心そうな奴だったから……。やっぱそれだけ、空井ミキが変わったこと、気にしてるってことなのかもな」

「……確かに、空井さんが変わったことと、レイジくんがいなくなったこと、因果関係はあるだろうから」

「……見つけ出そうぜ。絶対に」


 ケイジくんって、こんな顔もするのか……きっと部活動のチームメイトとかぐらいにしか見せたことがない、そんな純粋に頑張ろうという意志が感じられた顔だった。


 そして、そんな彼も、僕のことを少なからず気にかけてくれているようだ。それが何だか、虫の居所が悪いような感覚を覚えつつも嬉しかったのは、ケイジくんが少し僕の顔を見る回数を増やしていることに、僕自身気づいているからなんだろう。


 協力するよ、と言いつつ、空井さんとレイジくんの会話や、夢の内容の全貌を隠している自分を、何だか恥ずべき対象だと思ってしまっていた。


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