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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
15/22

15話「見てたらわかる」

 今までの僕の行動が、間違っていたのかは誰にもわからない。でも、これだけは言える。僕は、周りのことを考えたつもりで、周りのためになっていなかった。



「サヨ、ほんとにありがとう……」


 このことに気付かされた僕は、サヨに対しては感謝の気持ちでいっぱいだ。そして、同時に、僕がサヨに振られたという事実も伝えているようで、僕の心の中の蟠りは、少しずつ、解消されつつある。


「でもキツイな……振られるんだもんな……」


 独り言は病院内の廊下に良く響く。誰もいないからいいが――




 今日は退院の日。普通に学校のある平日なので、担任の先生だけが急遽駆けつけてくれたらしい。


「良かったよ千田……」


 頭髪にこそ乏しいが、感情は豊かな彼の表情を見て、僕も笑った。


「はあ、まあ僕としては、あんまり倒れてたっていう実感湧かないんですけどね」

「まあ、何よりだ。遅れを取り戻さないとな」


 結局そういう話に持っていく辺り、先生なんだなあ……と僕は苦笑いしながら先生の車に乗り込んだ。



 安全運転で進んでいく車。目の前が赤信号になったので車を止める。


「千田は……この前に比べて変わったな」

「えっ?」


 先生から、いきなりそんなことを言われて僕は困惑する。


「今までは、何事に対しても我関せずって感じだったが、文化祭の準備にも精力的に参加してくれたし、本番も仕事を頑張っていたし、体育祭でも頑張っていた。そのあとも、休んでる空井を心配して様子を見に行ったし――お前は変わったよ」


 変化が嬉しいのか、担任は優しく微笑んでいた。そうか――でも僕はそんなに変わったとは思えない。いつまでも、僕は弱気で情けない、冴えない男だ。



「何かあったのか?」


 割と色々聞いてくるんだな、と僕は苦笑いした。それと同時に、担任の言葉に思い当たる節を探す。


 答えは一つに絞られていた。


「……ありましたね」




 学校に入ると、クラスメイト全員が迎え入れてくれた。担任の“粋”な計らいというやつだろうか――


「心配したんだぜ!」

「良かったよほんとにー」

「まっ、あんたたちは知ってたでしょうが、意識戻ったこと……」


 相変わらずのタイシ、サヨ、カホの三人のやり取り。他のクラスメイトたちも、僕の快復を喜んでいるらしい。確かに、以前の僕だったら、こんな形で歓迎されることも無かっただろう。クラスにもしっかりと溶け込まず、ただ無為に日々を過ごしているだけの、僕のことなんか、正直どうでもいいはずなんだ。

 なのに、なぜ――?



「空井さんに感謝しとけよ」


 みんなが教室に戻るころ、ケイジくんが僕に耳打ちするように言ってきた。


「どういうこと?」

「俺が理由もなくお前を出迎えるわけないだろ」

「……はは、確かに」


 そっか――そういえば、と気になったが、空井さんがいない。


「何で空井さんはいないの?」

「知らねえ。昼休み以降見ていないな」



 僕は、もう一つ、聞くことにした。


「空井さんのこと、あれから狙った?」

「まさか」


 ケイジ君の返答は呆気ない。体育祭のときは、あんなに奪う気満々だったのに。


「見てたらわかる――空井ミキはずっと、お前しか見てない」



 ケイジくんの言葉に、全く嘘は無いだろう。それになんだか、ケイジくんの顔も浮かない。


「夢で一回見たんだ。すっげえ気分悪い夢。俺が空井ミキに振られるんだ。『千田ユウヤくんのことがどうしても好きだから』って言われてな。そんな夢を見たら、どうしても勝てない気がした。ただそれだけだ」


 ケイジくんなりの敗北宣言だった。僕の方に絶対に目を合わせてくれない。


「あんなにかわいい子、普通なら絶対自分のモノにするけどな。そんなお前の普通じゃないところに惹かれたと思ったら、なんか割り切れたわ」

「そっか……」


 容姿端麗、運動神経抜群、高身長でクールキャラ。そんな三拍子、それ以上そろった彼に、そんなことを言われたら、図らずとも嬉しくなる。


「……そっか」


 ありがとう空井さん。




「カホ! 空井さんがどこにいるか知ってる!?」


 僕はカホを大声で呼んで空井さんの居場所を聞いた。カホよりも先に反応を見せるクラスメイトたち。


「おおっ……どうするんだ?」

「もしかして告白?」

「やっと付き合う気になった?」


 囃し立てるそんな様子。僕にとってはそんなこともう関係ない。まっすぐカホにもう一度訊く。


「空井さん、どこ?」

「……多分、屋上か自習室。あんたのこと、きっと待ってるよ」


 カホの言葉の意図には、曖昧さが残っていた。だって、僕を出迎えに行くように言ったのは空井さんなのに、本人が来ていないってだけでも、十分おかしな状況だ。


――でも、今はそんなことどうでもいい。僕はただ、彼女に感謝の言葉を告げる。彼女が僕のことをどう考えていてもいい。どういう目的で近づいたのかとか、何で変な夢を見るのかとか、もうどうだっていい。



――冴えなくて、つまらなくて、無気力で、どうしようもない僕を変えてくれたのは、かわいくて、綺麗で、クラスの中心であった、空井ミキさん――彼女に他ならないからだ。


 とりあえず自習室を目指して走り出した僕。なまった足は思ったように動かないが、ゼンマイ仕掛けの機械のように足を回していく。背中から、カホの小さな声がした。


「決めてこい……」


 その小さな言葉に、後押しされた僕は、一気に駆け抜けた。




「空井さん!?」


 自習室に駆けこんだ僕だったが、彼女はいない。ってことは、彼女がいるのは、屋上だ。

 僕はさらに上の階への階段を駆け上がった。


 息切れもするし、太腿も悲鳴を上げている。日頃の運動不足を恨んだ。何でこんなに急ぐ必要があるのかも、正直解らなかったけど――――今じゃないといけない気はしていた。


 屋上に出る扉を強引に開け、外に飛び出した僕――太陽の光を浴びて辺りを見回すと、そこには――太陽よりもまぶしい彼女が立っていた。


「空井さん!」

「!?」


 驚いた様子で振り返る空井ミキ。彼女の耳元には、右手で持たれている携帯電話。彼女の第一声を聞くよりも早く、僕は彼女に近づいて行った。


「ごめん、予想外の展開……」


 彼女は電話の向こう側にそう告げると、電話を切り、僕に向き合ってくれた。


「ユウヤくん……」

「……ぜぇ……空井さん」


 彼女の澄んだ声が、僕の途切れた息、酸素を求める肺にしみこんでくる。


「あなたって優しい人ね」


 どこかで聞いたことのある言葉――この澄んだ青空も、どこかで見たことあるような気がした。


「……私と関わるようになってから……変な夢見なかった?」


 彼女の言葉には、心当たりがありすぎる。


「あるよ」


 僕は正直に答えた。整い始めた息。一息ついた僕は、次は彼女に対し告げた。


「でも、今はそんなこと、どうでもいい」


 空井さんの目が見開く。予想外だったのだろう。彼女は、僕の興味を引きそうな話題を、彼女の記憶の引き出しから引き出したのだろうが――


「僕は君に、どうしても言いたいことがある」

「……」


 息を整え、空井さんの目をしっかり見た。彼女と関わるようになってからの追憶を、一つ一つ思い返しつつ、僕は今、一番言いたい言葉を、彼女めがけて言い放った――――


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