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僕は未来に見られてる。  作者: トロンボーン裕一
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1話「あなたのことをずっと見てました」

『私、あなたのことが好きなんです。付き合ってください』

――もし、かわいい女の子から、こんなことを言われたらどんなに幸せだろうか。いや、幸せを通り越して、僕は壊れてしまうかもしれない。



 僕の名前は千田優哉せんだ ゆうや三末みすえ高校に通う高校2年生。この高校はあまり大きな高校じゃないけど、部活も学校行事も豊富で間違いなく楽しい高校生活を送るのに不満は無い学校だろう。まあそんな学校に通う僕だが、今は部活にも所属していない。委員会にも、生徒会にも入っていない。いわゆる、ただの無所属だ。青春を謳歌していないとも言えよう。顔もイケメンじゃないし、背も高くないし、みんなに見せびらかせるような特技もない。こんな僕が、『告白されたい』しかも、『かわいい子から』なんて考えているのだから、他人から脳内を覗かれたら間違いなく笑いものだ。


 でも、こんな僕にでも友人はいる。


「よっ、ユウヤ! まぁた考え事してんのか?」


 突如僕の視界に横入りしてくる男子。そんな彼こそ、僕の無二の友人、秋田大志あきた たいしだ。バカで、遊び人で、ちゃらんぽらんな性格――いわゆる典型的な“パリピ”という奴だ。僕はこの表現をあまり好ましく思っていないが、彼自身パリピと呼ばれることをうれしがっているのだから仕方ない。


「いや、そんなことないよ。ちょっと眠くてさ」

昼下がりの午後だ。しかも夏休みが開けたばかりでまだまだ教室は暑くてぼんやりしてしまう。

「はぁん……もったいねえな。せっかくの文化祭準備期間なのに、ぼーっとしてたらもったいないぜ!」


 そう、この時期は文化祭の二週間前で、学校内は完全にお祭りモード。パリピと言われるタイシが、それに染まっていないわけがなく、大きく動きながら、僕にまでそのムードを強要してくる。


 こんなふうにバカで強引なタイシだけど、僕は彼のことを嫌いだと思ったことは一度もない。バカな分、素直で友達想いな一面を持っているし、コミュ力も高い。一緒にいても退屈は絶対にしないような男だ。


「……ところで、ウチのクラスで一番かわいい子誰だと思う? 俺は空井さんなんだけど、お前は絶対に――」


 タイシがいきなり、俺の顔を指さし、とんでもないことを大声で言い放った。幸い、昼休みで教室内に人は少なかったが、彼にはこういう無粋な一面もあるのが厄介だ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。絶対にとかって“絶対に”決めつけるなよ!」


 僕が机をたたき、大声になったのをタイシは笑う。


「きゃはは、嘘だよ。でも純粋に気になるよな……ユウヤの好きな女子……」


 彼はいつもものすごく無邪気に笑う。まあ、好きな人はいないと言ったら嘘になる。だけど言ったら絶対にバカにされるから言わない。そう、無二の友人であるタイシにでさえ。


 こんな風に秘密もしゃべらずにみんなと一線を置いて過ごしている。それが、今の僕のこと冴えない感じを作っているのだろう。


 昼休みが終わり、ホームルームが始まる。この学校のホームルームは、昼休みのあとに行われるのが特徴で、諸連絡等は、この時間に行われる。


「はい、文化祭実行委員の、空井から、みんなに連絡があるそうだ」


 頭髪の乏しい担任が大きな声でみんなの注目を集める。口うるさくて器の小さそうな大人だけど、努力家で生徒に対し真摯に向き合おうとする意志が伝わってくるいい先生だと、僕は勝手に思っている。


 そんな先生の声に反応して立ち上がるのは、一人の少女――空井未来そらい みき。タイシが一番かわいいと言っていた子である。


「今日の放課後、文化祭のステージ設営の準備があるので、部活やバイトなどの予定がない方は、手伝っていただきたいと思っています。えっと……」


 空井ミキと目が合った。


「あっ、千田くん。暇だよね?」


 彼女の吸い込まれるような笑顔に、僕は首を縦に振る意外の選択肢を奪われた。



 放課後、突然手伝いがかりをやらされることになった僕は、彼女と一緒にステージ設営の準備を行うため体育館へと向かう。しかし、人通りが少ない渡り廊下の真ん中で、彼女は突然立ち止まった。


「千田くん……いや、ユウヤくん」


 突然僕のことを下の名前で呼ぶ彼女の澄んだ声に、僕の顔は思わず固まる。


「突然でごめん。私、ずっとあなたのことを見てたの……もし良かったら……」

「えっ、ちょっ……」


 突然の彼女の言葉に、思わず耳を疑う。僕はそれを反芻し、現実であるのか否かを脳内でぐるぐると確かめる作業に移った。


「もし良かったら、私と付き合ってくれない?」


 言葉が出なかった。あまりに突然に、くだらない願望が現実となり、現実なのか夢なのか、区別さえつかない。僕は幸せを通り過ぎて、壊れてしまいそうな感覚だけを覚えていた――――


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