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リベンジ魔王  作者: 蚊家津
4/50

疑心暗鬼 with 魔王

「我らが王、ディナーの準備が整いました。」


 アグリウスのその言葉に連れられ向かったのは、魔王城食堂。

 10魔族の初期時は勿論、この場所は何かの祝い事でも使用出来る様、とても広い間取りで作られていた事を思い出しながら巨大な扉の前に立つ。

 

「準備はよろしいでしょうか?我が王」

 

「ああ、問題ない。」


 アグリウスのその問いかけに軽く頷き、扉を開けさせ、その中へ踏み込む。


 そこには巨大な長テーブルが置かれていた。

 テーブルには白く清潔な布が敷かれ、その上に鎮座する数々の食器の上には、色とりどりの料理が置かれている。

 鼻に香ってくる匂いは、それぞれの料理の匂いが混ざり合った物であるが、決して不快ではなく、むしろ食欲を心の底から掻き立てる物へと変化している。


 それを囲むは、ここまで連れ立っって歩いてきたアグリウスを除く10魔族全員。

 その全員が立った状態で視線を俺へと注いでいる。


 俺は上座へ立ち皆に向き直る。


「諸君、長らく待たせたな」

 

「「「「「「「「「「滅相もございません!!」」」」」」」」」」

 

 その言葉と共に、全員が床に跪き頭を垂れる。

 その姿を見ながら、リジィーは次の言葉を紡ぐ。


「さて、諸君には謝らなければならぬ事がある。」


 そう前置きをし、何故自身が人間に戦争を起こしたのかを語る。

 それは、アグリウスとシュリに話した内容だった。


「「「「「「「「「「顔をお上げください、我が王」」」」」」」」」」


 それに対する反応も二名と同じ物だった……というよりも何でその二人も一緒に反応しているんだろうか?

 ともかく、その言葉をありがたく受け入れ、リジィーは皆に食事をとる様に指示を出す。


 ……自身の策略を実行するために……


 リジィーはこの会食の場で、裏切りそうな者に粗方の目星を付けるつもりでいた。

 アグリウスとシュリは、その忠誠心を再度間近に感じ、既に安全であると判断は下したが……

 それは、他10魔族全員に当てはまる訳では無い……忠誠を揺るがしていない者には悪いが、自身の安全と安息の為にも、しっかりと確認しなくてはいけないのだ。


 故に、リジィーは行動を起こす。


 既にその旨は、アグリウス並びにシュリには伝え、了承を経ている。

 まぁ、彼らも少しばかり、10魔族の忠誠を疑われたのを快く思ってはいないようだったが……自身の現状が現状だ、理解してもらうしかない。

 

 ……実を言うと、会食が始まる前には、アグリウスとシュリを除く全員に攻撃されるだろうとさえ考えてもいたのだ。

 それに対応する為に、かつての友の力を借りる準備はしていたが……それは徒労に終わりそうで少しばかり安心していた。


 ……よくよく考えると、裏切りを全く考えていない者には失礼な話である。


 それに対する謝罪の意味を込めた訳では無いが、「今宵は私の謝罪の意を示したい、よって主従関係なく騒ぐがいい。」と言ったのだが……


(騒がしいな……)


 その一言に尽きる光景が目の前に広がっている。


 その騒がしさの所為か、いつの間にか食事する手は止まり、10魔族それぞれの会話に耳を傾けていた……

 まず左前方、上座に一番近い席、其方に意識を向けると。


「あら、ルウワーフ。これ以上体に無駄な肉を蓄えれば、動きの切れが悪くなってしまいますわ、ですから心優しく、慈愛に溢れるこの私がその肉を頂いて差し上げてもいいわよ。」


「結構です、スロノドール。それよりも、貴方は女性としての魅力に欠ける体をなさっているのようで……サロスに捨てる事になっている脂身を譲って頂き、それを胃の中に詰め込めば良いのではないですか?」


「はん、ほざきなさい駄犬風情が、それ以上その胸と尻に贅肉が付けば、我が王が、もし!!仮に!!その卑しい体の貴方にご慈悲を掛けて下さるという、一時の気の迷いが生じた時に、我が王が潰れて仕舞いますわよ。」


「うるさいですね、普段外に出る事も無く、自室でのんべんだらりと過ごしている貴方には解らないでしょうが。私の体は度重なる鍛錬により、程よく引き締まっているのです。むしろ貴方の方が重いのでは?」


「あら、知っているかしらルウワーフ、同じ大きさなら、脂肪よりも筋肉の方が重いらしいですわよ。やはり我が王が潰れてしまいますわ。」


「言ってくれるわね、吸血鬼風情が」


「貴方こそ、この駄犬が」


 今にも一触即発という雰囲気の二人がそこにいた。

 その姿を見ながら、彼女達の名前と種族を記憶の中で当てはめていく。


 スロノドール……吸血鬼、多くのフリルで装飾されたドレスを身に纏い、その死人の様な白い肌、月明りの様な銀髪、緋色に光る赤い目が特徴的である。

 彼女の能力は至ってシンプル、ある儀式を行う事で他者を隷属させる事が可能だという事。

 その他にも色々と能力があったはずだが……記憶が混乱しているのか、今は思い出すことが出来なかった。


 次にルウワーフ……人狼、体にぴったりと張り付いたその服は、余分な部分が少なく、彼女の動きを阻害する事が無いように作られている。

 その体は服の上から見ても……あるいはそれを誇示するための服なのかもしれないが、引き締まっており、それでいて出るとこは出ているという印象だ。

 栗色のウェーブが掛かった髪は肩の少し先まで伸ばされている。

 得意な能力はオオカミ形態への特定変化と身体強化。どちらも彼女自身が長い鍛錬の末磨き上げた能力だったはずだ。


 彼女らの、俺のこの姿を見た時の最初の反応を思い出す。

 驚愕、それから何かしらの思惑を抱え込んだかの様な反応だ。


(まず、裏切りそうなのはこの二名か……)

 

 内心で下した灰色の判断をおくびにも出さない様にして、心の中に書き加える。

 少しでも疑わしい行動があれば警戒するのは当然だ、依然としてまだ裏切るかどうかの判断は出ていないのである。

 故に、リジィーは目を凝らす。少しでも疑わしいと思われる行動を探すために。


 ルウワーフとスロノドール、その二名の向かい側へ目を向ける。


「なぁフエン、どっちが勝つと思う。」


「……また賭け事ですか? ロロスさん。あんまり良い事ではないですよ。」


「まぁそういうなって、僕はそうだな……その二人なら、やっぱりルウワーフに分があるかな?」


「はぁ、でしたら私はスロノドールさんに賭ける事にしますよ。で、何を賭けるんですか?」


「そうだな……じゃ、このドラゴンのステーキを一切れにしようか。」


「わかりました。」


 その対面の女性の諍いを使い、賭け事に興じている二人の男性魔族がいた。


 ロロス……n種族は解ってはいない。その姿は人間の青年の様にも見える……が、それは仮の姿であり、本体は巨大な蛇ともつかない姿であったはずだ。

 彼の力は10魔族の中でも異端であるとも言える……何故なら10魔族、そのそれぞれが中級魔法程度なら、得手不得手があるものの、ほぼ全てを習得しているのにも関わらず。

 ロロスは初級魔法すら使う事が出来ない。それは彼の体質……いや呪いとも言える部分が大きい。


 「無限の魔力」、それが彼の能力……いや呪いである。


 言葉の通り、ロロスにはいくら魔力を使っても枯渇をしないという特異な体質がある。

 しかしその能力の所為で、彼は魔法を一切使う事が出来ないのである。一体どういう原理でそうなっているのかは解らないが……そういう種族なのだと考えるしかない。

 ……ではなぜ彼の魔力が無限なのだと判断したのか……答えは簡単。

 魔力を消費するタイプのマジックアイテムを使わせたのだ。結果、魔王の体を有していた当時の俺でも、その魔力の総量に困惑する事になったのは、今はいい思い出だ。


 次にフエン、此方も種族を思い出す事が出来ないが。その姿はオオカミのそれと変わりない。


 「無限の胃袋」、それがフエンの持つ力の一端だ。どれだけ大きな物体、量であれ、その全てを飲み込む事が出来、そして飲み込んだものを好きな時に、任意で吐き出す事が出来る。


 10魔族の中でもとりわけ使い勝手がいい能力だった。

 さらには彼自身の隠密能力も高く、その体に取り込んだマジックアイテムを駆使した奇襲戦法を得意としていた。

 彼は10魔族の中でも一番若く、最後に加わった魔族の為、周りの者に対し敬称を使うようにしているようだった。


 彼らも、俺の今の姿を認めた時、少しばかり困惑していたようだ。

 しかしルウワーフとスロノドールの二名とは違い、此方はその後に特に何かしらの反応は見て取れなかった。

 

(白……って所かな?)

 

 リジィーの内心で、裏切りそうかの判断を下されているとは思わない二人の魔族は、依然賭け事に興じていた。


 その二人の奥の席、其処に鎮座する巨体とその巨体をからかっている二人の姿に目が移る。


「おいニルブニル。お前昼間っから寝っ転がってる癖に、儂が作った料理を食いまくんじゃねぇよ。」


「いやサロス……仕方ないでしょ。この体を見てよ、君達とは食う量が違うんだよ。それに、それはヨルも同じでしょ? むしろヨルの方が僕より食っているし……」


「ヨルは仕方ないんだよ。本体があれだから……それに、それを言うのならお前はもっと体を小さく変化できないのか? 大きくて邪魔だ。」


「うん、それは理解している。でもこれがもう限界なんだよ。これ以上小さくというなら、骨を何本か折らなくちゃいけなくなる。」


「おう、それはいい考えじゃないか。手伝いが欲しいなら手伝ってやるよ。」


「……冗談はよしてくれよ。」


 其処にはドラゴンをからかう八本腕の男の姿があった。


 名はニルブニルとサロス。彼らの会話は聞く人によっては物騒に感じるかもしれないが、それが本気の話では無い事をこの場にいる全員が知っていた。

 その二人の姿を認めつつ、リジィーは己の記憶と照らし合わせていく。


 ニルブニル……ドラゴン、その体は今は全長5mほどだが、それは彼が自身の体を小さく折りたたんでいるからに過ぎない。

 というのも、彼の本来の大きさはゆうに20mを超えるているのだ。その巨躯は普段魔王城の地下、そこに存在する洞窟に横たえており、外に出る時のみ、今の様に体を折りたたんで出てきているのである。

 体が引きちぎれるような感覚だ……というのは、その折りたたんだ姿について聞いた時のニルブニルの言葉である。


 彼の得意な能力は、精神憑依。


 先の大戦ではその力を使い、多くのゴーレムを用いこの魔王城の守護に最も貢献したと言える魔族である。

 勿論、ドラゴンとしての能力……飛行や火吹きも可能である。

 ……ただ、それらの能力は出不精な彼が使う事はほとんどないのだが……


 次にサロス、その左右の肩から生える4本、両腕を合わせ計8本の腕から解る通り、多腕種の魔族である。

 彼の特技はアイテム生成……各種薬品から多種多様のマジックアイテム、及びありとあらゆる武器防具の作成に携わっている。

 その能力はとても高く、何かを作るという分野においてはまず間違いなく一番に近い所にいるであろう、というのがリジィーの評価だった。

 また、ただ物を作成する事だけではなく、その鍛え上げられた体にも目が行く。

 一言で表すのなら筋骨隆々、その腕一本一本がその膂力を感じさせる。

 その巨大な力を持って敵を叩き潰す事が得意だったはずだ。


(この二名は解らないな、俺の姿を見た時の反応は、特に何も無かったし……)


 むしろ驚いてくれた方が良かったとさえ思える。そうしてくれればその後の感情も読みやすくなるからだ。

 しかし二人の反応は無に近い物があった、それは俺がどういう状態であれ受け入れるつもりがあったとも言えるしその逆……初めから裏切るつもりだったのかもしれないとも取れる……


(……保留だな。)


 一種逃げに近い判断を下し、彼らの対面へ視線を向けると……


 目と目が合った……


 リナシー……種族不明。ルウワーフ、スロノドールとはまた違った魅力を持った女性だ。

 ルウワーフが健康的な魅力、スロノドールが幻想的な魅力だとするなら。彼女はただ一言、誘惑的な魅力である。

 その顔の造形から体躯、その肢体の程よい肉付きまで……その全てが成熟した女性という存在を思わせる。

 しかしそれは決して下品ではなく、むしろ彼女に相対する存在は、自ずから吸い寄せられていくであろう魅力であった。

 黒く艶やかな髪は腰の辺りまで流されており、そのみずみずしさを表す様に、頭頂部で反射される光が天使の輪の様に光り輝いていた。


 彼女の能力は、魅了と精神支配。


 その二つを相手に、自身の言葉を聞かせるだけでやってのけるほど強力だ。

 ただその弊害で、支配対象の知能は極端に低下する……その結果、単純な命令しか理解できなくなってしまうというデメリットもあった。

 故にその能力は専ら、対集団戦において行使される事が多かった。



 その彼女はずっとこちらを見ていた。



 いつから此方を見ていたのか解らない……だが、俺と目が合ってもそれを逸らす事無くずっと見続けている。

 一瞬、俺の後ろに何かいるのかと思ったが、俺の後ろには壁しかない。

 反応に困り少し手を振ってみる。


 すごい勢いで振り返してきた。腕が引きちぎれるのではないかと心配になる位に……


(……解らない、決して敵意は抱いていないようだが……)


 少し頭が痛くなってきた……

 判断がつかないままにリナシーの奥、そこに座り、食事を口の中に放り込み続けている少女へ目を向ける。


 ヨル……種族不明。その姿は幼い人間の女の子、髪の色は無地の白、瞳は空虚という言葉を表すように虚ろで、その整った顔と動くことが無い表情から、まるで人形の様に見える。

 だがこれは仮の姿、本来の姿は何よりもとても巨大な蛇であった。

 彼女自身には、これといった特殊能力は無い。だが本来の姿に戻り、暴れ回るだけで天災とも言える甚大な被害を叩きだす事をこの場の全員が知っている。

 

 その彼女は今、山と積まれた数々の料理を貪り続けている。

 彼女の両手が休まる事は無い、手に握られた料理が口に放り込まれたらまた次の料理を握りしめる。

 まるで永久機関の様に際限なく、躊躇いなく動き続けている。


(ヨルは問題ないだろう。)


 そう判断を下したのは、彼女との付き合いの長さからだった。


 今この場にいる10魔族……その一番最初の魔族が彼女であった。

 勿論他の者も付き合いは長い……ただそれとは比べ物にならないほどの時間を、彼女と共に過ごしていた。

 だから断定する、それが自身の一方的な思いであったとしも構わないと考えるから。


 そしてその奥、リジィーから一番離れた左右の席に座るのは、シュリとアグリウスの二名……


 これでこの場に、10魔族全員が終結している事が確認できた。


(願わくば、裏切り者が居ないでほしいが……)


 リジィーはその思いを胸の中に押し込みながら、次の行動を考える。

 裏切り者が居た時、自身という存在を仕留めるには、今夜が絶好の機会なのだと思わせられる様に……

 


 やがて食事は終わる。

 まさか、自身の忠誠心を疑われているとは思わない10魔族を残し、リジィーは……


「今日は長旅で疲れた、よってこれから自室で休む事にする。各自、後は自由にすると良い。」


 そう言い残し、食堂を後にするのであった。


◇◆◇◆◇◆◇


 アグリウスは悲しかった。


 何故、我が王は我々10魔族の忠誠を疑われになられるのだろうか? と……

 確かに長い時間は経った……しかし我々は王の言葉を信じ、今日この日までこの城に留まり続けたのだ。

 それは並々ならぬ意思のなせる事……だからこそ、何の疑問もなく我々の忠誠を受け入れて下さっても良いのではないか? と……


 そこでいいや違うと、アグリウスは思考を切り替える。


 我が王には我々の……10魔族の忠誠が未だ届いていないのだ。なら届くまで忠誠を尽くせばいいだけの事。

 隣に座るシュリを横目に見る。彼女は我が王から頂いたというその本を、熱心に読み込んでいる。


 そう……それはつまりシュリの忠誠は我が王に届いたという事を意味する。

 そして私にも、その胸の内を明かしてくださったという事は、シュリほどでは無いのだとしても、私の忠誠が届いている事を意味する……と思いたい。

 ふと、心の内を明かされた時にこぼした、我が王の小さな独り言を思い出す。


 今夜何事も無ければ信じられる。それが我が王が漏らした独り言だった……


 ……ならばこの夜ぐらい待っても構わないだろう……比べられないほどの長い時間を待ち続けたのだから……


 場所は魔王の寝室。


 ベッドで横になる我が王を、居もしない裏切り者から守るために、アグリウスはシュリと並び椅子に座り続けていた。


◇◆◇◆◇◆◇


「ふんふんふ~ん♪」


 魔王城の廊下、既に暗闇が支配し、月明りのみが頼りとなったその廊下を迷う事無く進む影が一つ。

 その影の名はスロノドール、彼女はある目的の為に月明りの中を迷う来なく突き進む。

 

「まさか人間になっているなんてね~、私、驚いてしまいましたわ。」


 その独り言は廊下に小さく響き渡り、月明りの中に吸い込まれ、消える。


「でも、これは千載一遇の好機でもありますわね。」


 そう、これは好機だった。

 リジィーの力は弱く、今であれば、容易く押さえつける事が簡単であるために。

 やがて、スロノドールは目的の部屋へ辿り着く。


「さぁ、我が王、覚悟はよろしいかしら?」


 誰にも聞かれる事が無いその独り言を残し、スロノドールは扉を開ける。

 室内は至って簡素な作りになっている。ただ、かつての魔王、その体躯に合わせた作りになっているため、大きな家具の方が多い。

 その室内を、スロノドールは音もなく歩き、リジィーが眠っているベッドの前に辿り着く。 

 

「……スロノドールか?」


 その声はリジィーの物であった。

 今もまだ、リジィーが眠りについていると思っていたスロノドールは、一瞬鼻白む。

 しかし、すぐに調子を取り戻し言葉を返す。


「はい、その通りでございます。我が王」


「……そうか。」


 スロノドールの言葉に返されたのは悲しげな了解の言葉であった。

 その悲しみにスロノドールは気が付く、そしてそれが意味する事を理解し、心が痛んだ。

 しかしスロノドールに引く気はない。


「ごめんなさい、我が王。ですが……」


「いや、良い……少し予想していた事でもあったからな。」


「そうですか……」


 そう言われてしまえばどうしようもない。

 スロノドールは少しの間迷い、その動きを止める。


「あぁ……それでこれからどうするんだ?」


 そんな彼女をリジィーの質問が動かす。

 その質問は、スロノドールを受け入れてくれた言葉だと考えたためだ。


「天国へ上って頂きます。」


 酷く抽象的な答えがスロノドールから出る。

 当然だ、スロノドールにはリジィーを天国へ上らせる自信があったからだ。


「そうか、天国か……今まで一体何人位送ったんだ?」


 それはスロノドールの言葉に対するリジィーの質問だった。

 スロノドールはリジィーのその質問に少し拗ねた様に答える。


「ふふっご冗談を、私は純潔ですよ。」





「……………………はっ?純潔?」


 返ってきたのは間の抜けたリジィーの声。

 それは少しばかり、スロノドールにとって不愉快な反応ではあった。

 だがそれはすぐに理解してもらえる事だと考え、行動を起こす。


「はい♪さぁ、我が王。甘く、熱く、蕩ける様な一夜を共に過ごしましょう♪」


 リジィーに囁く様に告げると共に、スロノドールは、そのフリルがあしらわれたビスチェを纏った華奢な体に力を込め、リジィーに飛びかか……


「スピードスペル・ウインドショット」


 ……ろうとした時、突如として叩き付けられた衝撃に弾き飛ばされ、壁に叩き付けられる。


「……っ敵!?」


 スロノドールは混乱する頭の中で冷静に判断を下し、その攻撃をしてきた相手を補足する。

 しかしそこに立っていたのは……


「……シュリ!?それとアグリウス!?」


 スロノドールの混乱は依然強くなるばかりである。

 その混乱をくみ取ったわけでは無いだろうが、アグリウスが動く。


「我らが王……この状況を見ても、本当にスロノドールが裏切りに来たとお思いですか?」


 リジィーはそれには答えず、自身の手首の付け根で頭をコツコツと叩くだけである。

 やがてリジィーは意見をまとめたのであろう、スロノドールに一つ質問をする。


「スロノドール、お前は一体何をしに来たのだ?」


「……えっ?……私の純潔を捧げに……です……」


 他の者の前でその言葉を口にするのは恥ずかしかったのだろう。

 羞恥に顔を赤く染めながら、スロノドールは答えるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇


「うふ、うふふふふ♪」


 魔王城の廊下、既に暗闇が支配し、月明りのみが頼りとなったその廊下を迷う事無く進む影が一つ。

 その影の名はルウワーフ、彼女はある目的の為に月明りの中を迷う来なく突き進む。

 

「まさか人間になっているなんて、少し驚いてしまった。」


 その独り言は廊下に小さく響き渡り、月明りの中に吸い込まれ、消える。


「でも、これは千載一遇の好機でもある。」


 そう、これは好機だった。

 リジィーの力は弱く、今であれば容易く押さえつける事が簡単であるために。


 やがて、ルウワーフは目的の部屋へ辿り着く。


「さぁ、我が王、覚悟は良い?」


 誰にも聞かれる事が無いその独り言を残し、ルウワーフは扉を開ける。

 室内は至って簡素な作りになっている。ただ、かつての魔王、その体躯に合わせた作りになっているため、大きな家具の方が多い。

 その室内をルウワーフは音もなく歩き、リジィーが眠っているベッドの前に辿り着く。 

 

「……ルウワーフか?」


 その声はリジィーの物であった。

 今もまだ、リジィーが眠りについていると思っていたルウワーフは、一瞬鼻白む。

 しかし、すぐに調子を取り戻し言葉を返す。


「はい、その通りです。我が王」


「……そうか。」


 ルウワーフの言葉に返されたその言葉には、悲しみの感情が含まれていた。

 その悲しみにスロノドールは気が付く、そしてそれが意味する事を理解し、心が痛んだ。

 しかし、ルウワーフに引く気はない。


「我が王、きっとこれから起きる事は不敬な事だと私は思う、それでも私は引く気は無いです。」

 

「いや、良い……少し予想していた事でもあったからな。」

 

「そう……ですか……」


 迷いはあった……それでもきっと、その先に自身が求める答えが存在するのだ。

 だから此処で今更引くことは出来ない……


「あぁ……それでこれからどうするんだ?」


 そんな彼女にリジィーの質問がかかる。

 その質問にルウワーフは明確な答えを返す。


「大丈夫です、痛みは与えません。」


 彼女から出てくるのは自信に満ちた決定的な言葉。

 その言葉に、少しばかり警戒の色を込めた言葉が返される。


「そうか、痛みか……いかに今の俺が脆弱な存在だったとしても、多少の抵抗ぐらいはするぞ?」


 それが、リジィーの答えだった。

 ルウワーフはリジィーの答え、明確な敵意を前にしても怯まない。


「大丈夫、そういった知識には自信があります……ですから安心してください……すぐに骨抜きにしてあげます。」




「……………………はっ?骨抜き?」


 返ってきたのは間の抜けたリジィーの声。

 ルウワーフは自分の体に自信があった、だから例え我が王が初めてだったとしても、痛みを与えない自身があった。

 さっきの敵意も、痛みがあったらの話だろう……前提の痛みが存在しないので、特段注意する事は無かった。


「はい。さぁ、我が王。激しく、優しい、忘れられない一夜を共に過ごしましょう。」


 リジィーに熱くなった吐息のままに告げると共に、ルウワーフは、その艶やかな肌に張り付く薄布に包まれた体に力を込め、リジィーに飛びかか……


「ふんっ!!」


 ……ろうとした時、突如として腹部に叩き付けられた衝撃に弾き飛ばされ、壁に叩き付けられる。


(……っ敵!?)


 ルウワーフは混乱する頭の中で冷静に判断を下す、問題はその敵の実力。

 全く気配がしなかったのだ。つまりその者は相当な実力者である。

 この場にいるのが自身のみなら何も問題は無い、だがここには自信の命より大事な人がルウワーフにはいた。


「御逃げ下さい!!我が王!!」


 掠れる声で自身の大切な主へ言葉を掛け、少しでも時間を稼ごうと敵と対峙する。

 しかしそこに立っていたのは……


「……スロノドール!?それとシュリにアグリウス!?」


 足を振り切った姿勢のままのスロノドールと、その後ろで椅子に腰かけているシュリとアグリウスの姿だった。

 ルウワーフの混乱は強くなる。

 なぜここに3人がいるのか?彼らが始めからいたのならなぜ、自身が気づく事が出来なかったのか?

 その混乱をくみ取ったわけでは無いだろうが、アグリウスが動く。


「…………我らが王。この状況を見ても、本当にルウワーフが裏切りに来たとお思いですか?」


 リジィーはそれには答えず、自身の手首の付け根で頭をガツガツと叩くだけである。

 やがてリジィーは意見をまとめたのであろう、ルウワーフに一つ質問をする。


「ルウワーフ、お前は一体何をしに来たのだ?」


「……子供を……作りに……」


 他の者の前でその言葉を口にするのは恥ずかしかったのだろう。

 羞恥に顔を赤く染めながら、か細い声でルウワーフは答える。

 リジィーはその両手で頭を抱えた……


 と、そこで寝室の扉が開かれる。


 この部屋にいる全員の瞳が、扉を開けた魔族へ注がれる。

 自身の想像していた光景とは全然違う物が広がっていたのであろう、その魔族……リナシーは扉を開けたままの状態で固まっている。


 誰も、何も喋らない。

 誰もが硬直したまま、動く事が出来ないでいた。


「……リナシー……何をしに来た……」


 その沈黙を切り裂くのはリジィーの言葉、彼はその両手で頭を抱えたままリナシーへ問いかける。

 それに対しリナシーは、羞恥と恥辱の為に顔を赤く染めながらこう答えるのだった。


「我が王の寵愛を頂きに……」


「………………………我らが王。」


「皆まで言うな!!アグリウス!!」




 リジィーは頭を強く掻き毟った……

 


◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、玉座の間にて10魔族全員が集められた。

 その10魔族の内、スロノドール、ルウワーフ、リナシーは、玉座に座るリジィーの前に跪き、それ以外の物は左右に別れ、一列に並んでいる。


「……っふ……無様」


 その光景から、昨夜起きた事に察しがついたのであろう。

 ヨルが鼻から微かに抜ける様な嘲笑と共にその一言を言い放つ。

 その嘲笑を受けた三名は一斉に其方を睨むが、ヨルはその視線を向けられてもどこ吹く風。

 その空虚な瞳を揺らしながら、リジィーの裁定を待つ。


「さて、皆も薄々感じているとは思うが……昨夜、私は夜這いを掛けられた。」


 誰もそれに答える物はいなかったが、奇遇な事に全員の意見が一致していた。



 やっぱりな……と。



 リジィーの言葉は続く。


「確かに、スロノドール、ルウワーフ、リナシー……その気持ちは一人の男性として嬉しい。だがな、その結果を考えても欲しい……もし、今この時、万が一身籠った場合、そなたらは戦線に立つ事が出来なくなるのだ、それは女性としての一つの幸せなのかもしれない……だがそれは10魔族としての幸せか?」


 その問いかけに、3名は首を振り答える。

 ならばと前置きし、リジィーは自身の言葉を続ける。


「その気持ちを今は抑えてほしい、そして、全てが終わった暁には、その気持ちにこた……」


 えよう、と言い切ろうとした言葉が止まる。


 言い切るのはまずいと、本能的に判断したからだ……その結果不自然に言葉を区切ってしまったが……

 しかしそれも数秒の事、リジィーは何事も無かったように続ける。


「答えられる様に私も努力しよう。それでは不満か?」


「「「いいえ、ありがたき幸せです!!」」」


 3者のその返事を聞き、一つ頷き他の者に了承をとる。


「他の者も質問が無ければ、此度の事はこれで不問とするが、良いかな?」


 それに対する答えは、異論ありませんという物だった。

 その答えを聞き、3名を立たせ列に戻らせる。


「諸君、長きに渡る忠誠、誠に嬉しく思うぞ。」


 3名が列に戻ったのを確認したリジィーは、裏切りを警戒していた事をおくびにも出さずに感謝の言葉を述べる。

 それに対する答えは一糸乱れぬ礼だった。

 その姿に、自身の浅慮を心の中で謝罪しながら、リジィーは世界を征服するための作戦を頭の中で組み立て始めていた。





 世界の最果てに存在する魔王城、そこでは静かに、ゆっくりと、魔王の計画が動き始めた。




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