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リベンジ魔王  作者: 蚊家津
31/50

猟犬は獲物を捕らえる

長めです。時間のある時にどうぞ。


気が付けば早一か月。日々更新をここまで継続してきましたが……想像以上に話が進んでねぇ!!

妄想が膨らんでしまうのもそうですが、基本的に冗長になってしまっているのが原因か……

誤字脱字含め、そういったもろもろの問題を抱えている本作品ですが、楽しんでいただけていれば幸いです。

また、ここまで読んでくださっている皆さんには感謝しかありません。今後も魔王様一行の活動を面白おかしく書いていける様に頑張りますので、応援のほどよろしくお願いします。


前書きが長くなりましたが、前回からの続きをお楽しみください。


 クーネ・ルナライト……それがその女性の名である。

 

 歳はの頃は20、彼女の特徴を上げるとするのなら、その特徴的な銀髪であろう。

 白というには暗い色合いのそれは、その特徴的な暗さとは裏腹に光を反射する。

 その髪を、腰の辺りまで長く伸ばしているのだから尚目立つのだ、それに加え、バランスの取れた肢体にも目が行く。

 胸は控えめであるが、しっかりと存在し、腰は細すぎず太過ぎない。さらに尻は少しばかり大きいが、それが周りの男の情欲を掻き立てる。

 クーネは気にしていないが、彼女の美貌を狙う男は多かった。


 そんな彼女は、一言で言えば性格が狂っている。


 というのも、他者を傷つけるのに愉悦を感じるのだ……それも死ぬ瀬戸際、そのぎりぎりまで痛めつけるのが趣味である。

 彼女曰く、後ほんの一突きしただけで死んでしまう……そんなぎりぎりまで弱った存在が好きなのだと……

 だが、それとと同時に、殺すのはつまらないとも言っている。

 殺してしまうと、もう反応が楽しめないから……なのだそうだ。


 そんな殺すよりも、痛めつける事を好む彼女は、裏のギルドに所属している者の中でも、極めて異端であるとも言えた。……彼女はそれを気にはしていない様だったが……


 ともかく、彼女はその日依頼をこなす為にブレマス城に潜入していた。

 先着にして3名まで、破格の報酬が掛けられたその依頼には、自身を含め、レイドとイレ―ナという二人も参加したため。

 彼らにリリア王女の誘拐に当たって貰い、自身はその援軍を防ぐ為の足止めをさっきまでしていたのだ。


 足止め自体は成功。雑魚に等しい存在とはいえ、自身の得意とする召喚魔法を用い、簡単には突破できないであろう数の骸骨兵を出したのだ。

 何故か一体、予想外の援軍が現れたがその足止めも成功。……何の問題も無かったはずなのだ。


 「本当にあの二人がやられたというの?それも短時間で?」


 その理解し難い現実に突き動かされ、この城からの脱出を図るために、今も人の居ない廊下を走り続けている。

 レイドとイレ―ナ……その二人の実力を良く知りはしないが。それでも、前払いの報酬を使えば、負けるはずが無いと思っていたのだ。

 

 「っ!?スピードスペル・ロストビジュアル」


 混乱に彩られた思考の中、目の前の曲がり角の先に複数の人を発見し、咄嗟に壁に張り付き、隠匿の魔法を使用する。

 数秒後、その曲がり角からはこの城の兵士達が現れ、私の目の前を駆け抜けていく……

 彼らが居なくなったのを確認し、再度自身に与えられたそのマジックアイテムの効果に驚いてしまう。


 「……これだけ正確に、周りの生物を把握できる魔法が、こんな小さなイヤリングに込められているなんて……」


 自身の右耳に付けたイヤリング……それにそっと手を触れる。

 それがクーネに渡された前払いの報酬である。このマジックアイテムの効果は大きく言えば索敵……

 まるで俯瞰しているかの様に、自身の周り……それも自由な範囲の生命を感じ取れるのだ。

 しかも必要であればその生命に印をつける事が出来る。この城に潜入する際、あらかじめレイドとイレ―ナの二人には、それを行っていたのだ……


 「レイドは死んだ……イレ―ナも、動いていない事から行動不能と見るべきね……それを誰かは解らないけれど、二人がやったと言うの?」


 依然イレ―ナの付近には二つの生命が存在する。信じたくは無いが、その二人がレイドとイレ―ナを撃退したという事だろう……

 

 「あり得ないわ……レイドとイレ―ナのアイテムは戦闘に向いている。しかもイレ―ナのアイテムは空間転移。負けたとしても殺されるのではなく、行動不能に追い込まれるなんて……」


 自身には到底理解できない現状だった……しかし、このマジックアイテムが壊れていないのを確認できた今、そうであると判断するしかないだろう。

 ……二人には悪いが、私はこのまま逃げさせてもらうつもりだ。

 別に彼女達も文句は無いだろう。所詮一時的に協力関係を結んだだけで、それに期待する方が馬鹿げているのである。


 「協力しろと言われていた貴族も逃走を図っているみたいだし、もうこれ以上此処に用は無いわ……公王に向けた骸骨兵も片づけられちゃったみたいだし。急がないと……」


 クーネは急ぎ、移動する。潜入はイレ―ナのアイテムで行ったため、事前に確認していた脱出経路からは離れている……だがそれでも、このアイテムを使用すれば誰にも見つからずに、そこまで辿り着ける……はずだった。


 ……このアイテムの弱点は俯瞰した視点であるという事……故に上の階や下の階の生命も同時に探知する。

 だがそれでも、自身の視界でそれを補う事で問題ないはずだった。故にクーネは、自身の傍に存在する一つの生命を無視していた……


 きっと……上か下の階にいる奴がアイテムの探知に引っかかっただけだろう……自身の視界により補強されたその思考は、その事実を問題だとは認識しなかったのだ。


 だがその生命は、先ほどから此方を追いかける様に後ろをついてくる……何度か振り返り確認するが何もおらず、そこには、がらんとした廊下が暗闇に続いているだけなのである……

 もちろん、自身と同じ様に魔法を使用し隠れた可能性がある……だから後ろを向きながら、その生命が存在する場所を眺めながら移動する……

 自身の動きにつられる様にその生命も動き出す。視覚には何も映らない……しかしそれはあり得ない事なのである……

 何故なら、この世界で一般的に使われる隠す事に秀でた魔法は、その対象の上に周りの風景を被せ、同化させる物であるからだ……

 言ってしまえば擬態の方が近い……だから姿を隠したまま動く事が不可能なのである……


 だがその生命はそれを行った……


 「其処にいるのは誰!?」


 思わず叫んでいた……恐怖に突き動かされた思考は麻痺し、自身が今、誰にも見つからない様に行動している事さえも忘れたかのように叫んでしまう。

 それほど恐怖だったのだ……得体の知れない何かが自身をつけているというのは……


 その叫びが届いたのだろうか?その言葉と共に、その何かは姿を現し始める……

 空間が歪み、奥の風景を遮るように、段々とその姿を現したのは……一人の少女であった。

 その髪は鮮やかな金髪、その短めの髪に、負けず劣らず主張するのは長い耳。その耳はエルフ族の象徴である。

 そして目鼻立ちは整っており、今は子供と言っても過言では無い顔ではあるが、将来は美女になるであろう事が伺える。

 少女の体は白い豪奢なドレスに包まれ、その控えめな胸には一輪の赤い花が添えられている……


 おおよそ、クーネという悪党と対峙するには、相応しくないであろう少女が其処にいた……


 だがクーネは油断しない。当然だ、今の事象を目の当たりにし、彼女が自身より上位の存在では無いと、どうやって断ずる事が出来るだろうか……

 だからクーネは考える、彼女の目的は何か……どうすれば自身に有利に、或いはこの場を切り抜ける事が出来るかを……

 だからこそクーネは動けない、少しでも情報が欲しいから……少しでも相手の手の内を暴きたいから……


 そのクーネの沈黙をどう受け取ったのか。その金髪の少女はクーネに話しかける。


 「……何故……私の存在に気が付いたのですか?」


 静かな少女の問いに、クーネは答えを言うべきか迷う……彼女の言葉から、自身の持つアイテム……その効果がばれていないと判断したためだ。

 悩みはしたが、その答えはすぐに出る。クーネの取った答えは沈黙……まるで何も聞こえていないかのように沈黙を続けたのだ。


 「喋る気なし……ですか。……良いでしょう。気にはなりますが目的を曲げる必要もありません。死んでください。」


 少女の表情に動きは無かった……まるで何も感じないかのように、彼女は右腕を此方に向ける。

 その動きと魔力が込められる気配に、咄嗟にクーネは横に飛ぶ……そして、目の前を通り過ぎた絶望に驚愕する。

 自身が少し前までたっていた場所……その場所を炎が埋め尽くしていたのである。

 その熱量は凄まじく。余波にも関わらず、クーネの艶やかな肌を軽く炙る。

 自身も分野は違えど魔法を使うから解る、それは紛れも無く中級魔法であった……それを無詠唱で放ったのだ……この少女は!!


 (勝ち目など初めからある物か!!むしろ逃げる事すら叶わない!!……このままでは死ぬ!!)


 混乱と驚愕と恐怖に彩られた思考のまま、自身の最後を理解する。だから、どうにかその最後を変えられないかと考える。

 もう彼女に挑もうという気は無くなっていた。ただただ恐怖に支配された思考のまま、自身が生き残る道を模索し続ける。


 「へ~、まさか回避されるなんて……リジィー様のアイテムも見破ったし……人間の中では優秀なほうなのかしら。」


 だから少女の言葉を聞き逃す事は無かった……リジィーという名から想定される人物は一人しか思い浮かばないが……たとえ彼じゃ無い別の人物だとしても、同じ懇願をしていただろう。


 「私を!!私をリジィー様に合わせてください!!お願いします!!貴方が望まれる事なら何でもいたします!!ですから!!」


 もう形振りを構っているだけの余裕などなかった。ただそのリジィーという人物と会う約束を取り付けるしか、この場を乗り切る方法が無いと判断したためだ。

 彼女が望むというのなら、裸で踊ってやっても構わない……それだけの決意がクーネにはあった。

 その悲壮感溢れる懇願が伝わったのだろうか……少女は、その綺麗な顔に眉根を寄せ、考え事をしている。

 其処にさらに押し込もうかと考えたが……彼女の機嫌を害するのはまずいと思い、彼女の裁定を待ち続ける。

 時間にして十数秒……自身の命が掛かったこの場面では、その時間は無限に等しかった……


 「いくつか聞きたい事があります。それを聞いてから判断しますが……良いですね?」


 「もちろんです!!」


 私に異論などあるはずは無い。その滑稽であろう私の姿を見つめても尚、少女はその顔に表情を浮かべない。ただただ事務的に質問を口にするだけだ。


 「ではまず一つ目。なぜ私の存在に気が付いたのですか?」


 それは少女が現れ、始めに口にした言葉である。あの時は答えなかったが、今は答えるしかない。


 「このマジックアイテムの効果です。これは所有者の周りの生命を探知する事が出来るんです。」


 自身の右耳、そこに付けられたイヤリング型のマジックアイテム指差す。それを少女は見つめながら彼女は質問を続ける。


 「二つ目。そのアイテムはどこで手に入れた物ですか?」


 「今回の依頼、その前払いの報酬です。支払った人物は知りません。」


 「……三つ目。貴方のお仲間は何人ですか?」


 「私を含め3人が襲撃しました。それとは別に、一人の貴族が協力しています。」


 質問というよりかは、尋問に近い会話が繰り広げられる。クーネはそれに対し、自身の知る限りの事を正直に答える。

 何故なら、嘘を言ってどこでそれが自身の不利に働くか解らないからだ。

 その思いを感じ取っているのであろう。少女は多少疑いはしても、それが本当であるかの確認をしては来なかった。


 「最後に……何故リジィー様とお会いしたいのですか?」


 「もちろん生きる為です。それ以外に他意はありません。」


 質問はやがて終わる。自身の知る限りの事を喋ったクーネに対し、少女は少しばかり迷った様な素振りを見せている。

 その事から、クーネには生き残る事が出来るという、希望があるかのように思えた。


 「最後……と言いましたが……もう一つ追加します。何でもすると言いましたが……犯され、その体と精神を壊されても文句は言わないのですか?」


 その質問を少女がした時、クーネは恐怖に体を支配されていた。何故なら……その少女は歪んだ笑みを浮かべていたからだ……

 美しく醜く狂気に歪んだ引き寄せられる笑み……表現するのなら、相反するであろうその言葉でしか表せないその笑みを浮かべ、彼女はクーネに問う。

 本気なのだ……クーネは理解する。少女にとってその質問は、クーネに起こり得る未来を言っているのだ。


 其処に女性としての尊厳は無く、ただただ情欲を満たす為だけに体を使われる。……リジィーなる人物がそうするのかもしれないし、もしかしたら、この少女がそうするのかもしれない……

 それを誰がするのかを問うても、この少女がクーネに教える事は無いだろう。もしかしたら、そうなるかもしれないと言っているだけかもしれない……

 そうだ、あくまでこれは想像だ……実際にそうなると言っている訳では無いのだ。


 (そんな物、希望的観測に過ぎない!!)


 思考が自身に有利に考えそうになるのを、叱咤し、止める。

 少女がそういったのであれば、私の未来はそうなるのであると受け止めるべきだろう……


 (いっそ、此処で死ぬべきなのかもしれない……)


 死ぬのはもちろん怖い……今までさんざん奴隷を買い、人攫いを行い、その人間を痛めつけ、殺して来た彼女であるが、いざ自身がその立場に立つと、これほどの恐怖を感じるとは思ってはいなかった。

 だが、少女が言う地獄よりかはましに思えた……今一瞬の苦しみで死ねるのなら……それも……


 「ああ、言い忘れていましたが……私にこれだけの時間を使わせたのですから、もし、今更自身から言い出した事を拒否するというのなら……相応の報いを受けてもらうつもりなので悪しからず。」


 依然その歪んだ笑みを浮かべたまま、その希望すらも叩き伏せてくる……この少女はとても美しい悪魔の様に思えてしまう……

 ……結局、私には選択肢すらも与えられていないのだ……この依頼を受けた時点で運の尽きだったのだろう。

 諦めにも近い感情のまま、少女に小さく承諾の返事をする。


 「うふふ、リジィー様は喜んでくださるかしら?私達には遠く及ばないまでも、中々に綺麗な玩具が手に入った事だし……褒美として私も一緒にあの逞しい腕に……うふふふふふふふふ」


 遠くを見つめ、空想に耽る少女の笑い声が廊下に木霊する中、私は自身に不幸が降りかからない事を祈る事しかできなかった……


◇◆◇◆◇◆◇


 スアー公国首都ブレマス……その中心地に立つブレマス城の中を一人の中年貴族が走っていた。

 普段運動らしい運動をしていないのだろう。見事に肥えたその腹は、彼が一歩大きく踏む出す度に大きく揺れる。

 そんな滑稽な姿で、大して速くも無い速度で走る彼は一人では無い。彼は6人の私兵も引き連れていたのだ。

 私兵の全員は中年貴族の下で働いている者である。もちろん、今回の反逆を知らされ、有事の際の彼の警護を任されていた。


 「ひぃ……はぁ……だから儂は嫌だったんだ!!こんな……ひぃ……はぁ……急に行動を起こすなんて!!」


 彼の悲鳴は私兵に向けられた物では無い、甘言を囁いてきたとある人物に対してである。

 本当は行動など起こしたくなかった、だが、部下の魔法使いが手に入れた情報を奴に告げると、彼は……


 「なら急いだほうがいいだろう。丁度パーティーが開かれるんだ。その機会に行動を起こそう。……大丈夫。ちゃんと問題なく事は進むさ。」


 そう言ったのだ……結果がこの様だ!!襲撃は見事に失敗、リリアを捕らえる事も出来ずに、挙動不審だと思われたのだろう。会場を囲む様に兵士が配置され始めたのを見た瞬間、この場から逃げるしか手は無くなっていた。


 「くそう!!何が……ひぃ……はぁ……大丈夫だ!!問題だらけでは無いか!!」


 私兵は何も答えない。ただただ儂の警護の為に、周りを取り囲みながら、速度を合わせて走るだけだ。

 其処に命令以外の理由など存在しない。それでも、今はこの6人だけが自身の頼りでもあった……

 ……と、急に前を走っていた兵士が立ち止まる。その背中に軽く顔面をぶつけ、少し痛めた鼻を擦りながら確認する。


 「何だ!?なにがあった!?」


 兵士の背中越しにその問題を認識する。そこには一人の少女が立っていた……

 その髪は青色、それは珍しい色合いであるから印象に残っている。体を包むは漆黒のドレス……その体は子供である、故に大人びた衣装との噛み合わなさが、精一杯背伸びした子供という印象を与える。

 そして、特徴的な短い青髪に添えられるのは純白の白い花……それは全体的に暗い色合いの彼女の姿に、一筋の光と輝かしさを与えていた。

 名は確かブラウ……あのリジィー・スロードが連れていた少女であったはずだ……

 だから記憶に残っている。もちろん、子供ではあるがその可愛らしい顔にも引かれたのもあるが、それ以上にリジィーの名が強かった……


 しかし、なぜ彼女が其処にいるのかが解らない……彼女は会場を出るまで、物好きな貴族共に囲まれていたはずなのだ……


 「我が王、リジィー様の御意思をお伝えします。武器を捨て、大人しく投降しなさい。そうすれば命までは取りません。」


 ブラウは尊大に告げる。いかに貴族殺しの御付きであれど、貴族である自身にそんな尊大な態度をとるのが許せなかった。


 「武器を捨て投降だと?リジィー・スロードは馬鹿か?誰がそんな事するか!!それとも、こんな少女に言伝を頼んで、自身は怖いから、部屋でびくびく震えているのか?」


 ブラウの態度に怒りを覚えながら、侮蔑を込めてリジィー・スロードを馬鹿にする。

 それと共に小声で私兵に指示を出し、口封じの為に殺す為武器を構えさせる。……一応、出来れば生け捕りにしろとも伝える。何せ、あのリジィー・スロードが気に入った女だ……若いとはいえ、その体を楽しんで見るのもいいかもしれなかった……

 その敵意に反応したのだろう。ブラウはその顔に諦めに近い感情を浮かべる。きっと自身の末路を考えてしまったのだろう……だが後悔してももう遅い。


 「ふははは!!ブラウ君、恨むのなら、馬鹿な主に仕えた自身を恨むんだな!!」


 「その言葉……そっくりそのまま貴方の周りの兵士さんにお返ししますよ。」


 呆れた声がブラウから発せられる、しかし貴族には、それが精一杯の強がりにしか聞こえない。

 何故なら彼女は少女、大人の男を相手にし、尚且つ武器すらも持っていない彼女には、武器を手にした私兵を相手にできるはずが無いからだ。


 「その小娘を捕らえろ!!おっと、できれば生かして置けよ……反抗的な少女を屈服させるのは、心をそそられる物があるからな。」


 「下種が……来なさい、アゾット!!」


 ブラウの叫びと共に、彼女の周りの空間が歪んだような気がした。だがそれも一瞬、彼女の姿は依然其処にあり、彼女の周りに援軍が現れた様子も無かった。

 しかし、つい先ほどまでとは全く違う物があった……それはブラウの手にした短剣である。

 両刃の短剣であるそれは、対人戦を意識して作られたのだろう。美しい装飾を施されていたがその刀身は、禍々しい狂気を含んでいる様な気がする。

 その短剣を目にし、貴族を含め彼の私兵までも動く事を躊躇う。……気迫というのだろうか……それとも殺気であろうか……得体の知れない恐怖が、ブラウという少女から発せられていたのである。


 「再度お願いします。今武器を捨てるのなら、私は許します。ですが……それ以上行動するのなら命の保証はしません。なにぶん人を殺した事は無いため、手加減できる気がしないのです。だから死にたくないのなら武器を捨ててください。お願いします。」


 言葉面だけであれば、懇願しているのはブラウである。しかし、この場でその忠告を聞いた者全員が、それを本気で言っているのだと理解する。

 だが貴族には、部下を思いやり、自ら投降するだけの器量は無かった。


 「やれ!!やってしまえ!!そんな言葉、虚仮脅しだ!!」


 半ば現実逃避した思考のまま、私兵に死ねと命じる。私兵だって死にたくは無いだろう……その動きは躊躇いによって一瞬遅れ、それでも、形だけでも従わないといけないがため、ブラウに向け全員が突撃した。

 その突撃は酷く緩慢である。何故なら全員の腰が引けているのである。それはブラウの動きに即座に対応する為でもあった……

 何か動きがあれば即座に回避する。最悪、馬鹿な主である貴族を切り捨ててもいいとさえ考えていた……


 だが、形だけでも行動を起こしてしまったが故に、彼らは死ぬ事となってしまった……


 「あまり気は乗らないのですが……仕方ありません。」


 そのブラウの呆れの声と共に、その姿がぶれた……一瞬後に一番前にいた兵士は、転ぶ様に遅い突撃の勢いのまま床に倒れた……その首からは血が溢れんばかりに流れ出ている……

 全員が……ブラウに向かっていた後続の兵士と貴族を含めその全員が、一瞬にして思考を停止した。

 それと共に兵士は立ち止まる。その姿を眺めながら、ブラウはゆっくりと短剣を手にした腕を引き絞る。

 今度の動きは見えた……と言っても、それでも尚速い事には変わりない。

 一瞬にして、ブラウの次に近かった兵士の下へと詰め寄る。その勢いのまま、その心臓目がけ引き絞った腕を開放する。


 ザシュ……


 文字にすると酷く間抜けだが、その音が一人の兵士の命を絶った。

 全員が動けない……まるで魅了されたかのように、視線をブラウに注ぎ、手にした武器すらも振り上げようとすらしない……

 その愚かとも言える思考の放棄と停止は、実戦経験の薄さから来るものであった……

 というのも、この世界において戦争は長い間無く、あるとすれば魔族との戦闘である。それも大型の魔族は、冒険者や騎士団が討伐に当たる為、当たったとしても低級魔族にしか当たらない……

 結果として、命を賭けた戦いに慣れていないのである……それも自身が圧倒的に不利な戦いは尚更だ……


 だからそれを認めたくないが為に、思考が考える事を放棄する……ブラウにとって、無抵抗の者を殺すのは心苦しい事ではあるが、初めに此方の忠告を聞かなかったのは彼方だと自己を正当かし、虐殺を続ける。


 ……そのついでという訳では無いが、ブラウには目的があった。それは短剣の力を直に確認する事である。

 一応、主から聞き、そのほぼ全てを魔族に対し試し、効果を確認してはいたが……人間相手にも聞くかどうかの確認をしたかったのだ。

 最初に使ったのもその一つだった。効果は驚くほどに強い。ただ起動呪文を念じただけで、大人が一人死んだのである……


 そんな事を考えながらも、次々と無防備な体に短剣の力を試していく……

 気が付けば、残るは貴族のみとなり、自身の周りには兵士の死骸が散らばっていた……


 「思っていたよりも拒絶心は無かったな……」


 魔族との戦闘で心が麻痺した所為か……それとも、この者達が悪事を企てていると聞かされていたからか……ブラウの内心には思ったよりも、人を殺す事に対する拒絶が湧かなかったのである。

 それをブラウの主は喜ぶだろう……だが、彼女にとってそれは複雑な物であった……

 

 「……それについて考えるのは後……まずはこいつを捕まえないと……」


 悩みに入りかけた思考はすぐに切り替わる。今は、この貴族を捕らえる事を優先しないといけないのだ。

 その当人は、腰を抜かしたのか、床に這いつくばりながら……それでも尚ブラウから距離を取ろうと、必死に腕を動かしている。

 彼にブラウは近づき、その無様な背中を足で押さえつける。


 「ひぃ!?……りっ、理不尽だ!!こんな!!こんな事って!!」


 もう逃げられないと悟ったのだろう。貴族はその頭を抱える様に腕を上げ、ぶるぶると震えている……

 その姿に哀れみの念を抱きながら、ブラウは、以前からずっと思っていた答えを口にする。


 「当然です。この世界はとても不公平なんですから。」



 スアー公国首都ブレマス、その中心地に立つブレマス城。

 この500年間、侵入者を許した事が無いその城に人知れず潜入し、誰にも知られる事が無く制圧された三人の人攫い……それと共に一人の反逆者が魔王の手に落ちた……

 彼の持つ情報は、魔王が想像していた以上の事態を引き起こす物である事を……魔王は知る由も無かった……



実を言うと今回は、日々更新一か月記念閑話にしようかな~っと思ったんです。

ただ、完全に今までの流れに水を差す行為であった為に断念。

また、未だ骨組みしか出来上がっていないので、肉付けに結構時間が掛かりそうという理由も相成り、その思いが成就されるかは未だ未定です。


そんな本作品ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


ではまた次回の機会に

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