魔王は呼ばれる
短めですが何とか日々更新継続。
魔王様の付き人は、シュリが一番扱いやすい気がする今日この頃。出来れば他の魔族との絡みも作れないかと模索している最中です。
それまでは基本的にシュリがメインヒロインしそうです。そんな話ですが楽しんでいただければ幸いです。
……どうしてこうなったのだろうか?
リジィー・スロードは、周りを兵士に囲まれながら考える。
これが歓迎を受けての結果なら特に悩む事は無かった。しかし、取り囲んでいる兵士の目に映るのは紛れも無い敵意である……
俺の後ろについて来ているシュリとブラウは、取り囲む兵士を威嚇するように睨んでいる。
俺が指示を出せば、ブラウは解らないがシュリは間違いなくこの兵士達を殺すだろう。
だがそれは避けたかった。というのも場所が場所であるからだ……
スアー公国首都ブレマス。その中心地に立つブレマス城……其処が今、リジィーが頭を悩ませている場所だったからだ。
ここに来たのはもちろん理由がある……むしろその所為で、来たくも無かったこの場所に来ざるをえなかったのだ。
……本当にめんどくさい。
この元凶を作った人物に、絶対に解けない無魔法による呪いでも掛けてやろうかと考えながら。
依然、この場にいる全員が放つ威圧を受け流し続けていた。
◇◆◇◆◇◆◇
城塞都市グ・ラムス、リジィー・スロードはこの都市での活動を再開していた。
というのも、当面の間は、人間世界に潜入した10魔族の情報を待つ必要があったからだ。
サロスとニルブニル、そしてアグリウスには、以前と変わりない役割をこなしてもらっている。
それと共に、城内部に残っている男子奴隷には、計画の一部を手伝ってもらっていたが、それにも多くの時間が必要だった。
結果、リジィーは自身の成長を再開する事にした。
シュリとついでにブラウを連れ、この数日の間。ほぼ毎日ギルドの依頼をこなしている状態だった。
だがその日、普段とは違う事象がリジィーへやってきた。
「これは公王様からの御言葉である!!」
銀貨1枚に相応しいボロ宿……今回はブラウも一緒なので、三人部屋であるその場所に、朗々とした女性の声は響き渡った。
リジィー・スロードはそれに眉を顰めながら、突如入ってきたその者に告げる。
「声を張り上げなくても聞こえる。周りの奴に迷惑だ、静かにしろ。」
「……これは失礼した。これは私の癖なのだ、許してほしい。」
その女性は俺の注意に、少しばかり恥ずかしそうにしながら、気を取り直し公王の御言葉とやらを告げる。
「汝、リジィー・スロード殿。近日催されるブレマス城のパーティに出席されたし。警護兼付きの者として、私、アリス・エレクシアが同行する事となった。早速移動するぞ!!」
……此方の了承を得る気は無いらしい。薄い金髪をポニーテイルにした、その騎士然とした風体の女性は、ベッドに腰かけている俺になぜか睨みを利かせている。
はっきり言って行きたくは無かった。出来る事なら断りたかったが……今の俺の立場ではそれは難しいだろう。
というのもこの国、スアー公国での公王の言葉というのは、俺が10魔族に命令した時程の力を持っているのである。
半ば強制と言っても違いは無い。
今までは、コプレーションというチームに在籍している事で、同じく誘われていた他メンバーと共謀し、適当な理由を付ける事で断ってきた。
しかし、それもコプレーションを抜けた今では不可能であった……
どうにか断れないものかと思案に暮れるが、公王の思惑が開け透けている為に、どんな理由を付けようと、断るのは不可能であると思われた。
俺を取り入れたいのだ、公国の中心に……
もちろん、コプレーションの他のメンバーにもこの話は行っているだろう。しかし今までの答えと、彼らの性格から来るとは思えない。
ならその一部とはいえ、コプレーションで活動していたリジィー・スロードという存在は、とても魅力的に映るだろう。
さらに、もし俺を取り込む事が出来たのなら、他の者も続いてくれるかもしれないという、皮算用もあるのだろう。
取ってすらいないのに、それを元に計算されても困るのだが……それが人間の思慮が浅いと思う要因の一つでもある。
ともかく、時間を無駄にする事にはなるが、断る事が出来ない現状ではそれを受け入れるしかなかった。
彼女……アリス・エレクシアと名乗った女性に、連れがいる事を伝え、その者が帰ってくるまで待ってもらう事にする。
「……了解した。では、私もこの場で待たせてもらう。」
そう言い、この部屋にある三つのベッド、その一つにアリスは腰を下ろした。
どうやら、逃げられない様に監視するつもりらしい。
「別に逃げる気はないよ。もっと楽な所で待っていればいい。」
一応彼女を気遣っての言葉だった。もちろん、その言葉通り逃げる気は無い。今逃げたとしても、余計面倒な事になるのは目に見えていたからだ。
しかし、そんな俺の気遣いを無視し、アリスは依然、睨みつける様に此方を見つめ続けている。
「ユリスが言っていた。リジィー・スロードは得体の知れない奴だから気を付けろと。私はそんな言葉には騙されんぞ!!」
そのユリスという名には覚えがあった。そしてアリスの性、エレクシア……彼女が名乗った時は偶然だと思っていたが、ここまでくると偶然ではないだろう。
一応確認の為にアリスに聞いてみる事にする。
「アリス……さん。貴方はユリスの……コプレーションに所属している、ユリス・エレクシアの姉妹なのですか?」
俺の言葉に、半眼に開き睨みつけていたその目を大きく見開き、動揺した様に震えた声で返してくる。
「な、な、な……何故解った!!まさか心でも読んだのか!?この化け物め!!」
……馬鹿なのだろうか?こいつは……
自分からユリスという名を出し、自分が先ほど名乗ったにも関わらず。そこから推測しただけで化け物扱いするとは……
……いや、違うか……ユリスと会話していた時にも思ったが。これはエレクシア家の者の特徴なのだろう。
なんか妙に間の抜けた会話というか。自身ではひた隠しにしているつもりが、傍から聞いている人には筒抜けなのだ。
ただ、ユリスはここまで酷くは無かった。
「やはり公王様の下にこの者をお連れするのは危険だ!!今この場で始末しなくては!!」
言葉で表現するのなら、ぐるぐると目を回しながらだろうか……
アリスは立ち上がり、その腰の剣を引き抜こうと手を伸ばす。
「馬鹿!!とち狂った事をしてんじゃねぇ!!」
その姿に問題が起きそうな気配を悟った俺は、思わず彼女に飛びかかり、押さえつけていた。
当然だ、このままいけば、下手したらアリスを殺さなくてはいけなくなる。出来る限り問題は起こしたくなかった。
その際、彼女が座っていたベッドに押し付ける形になったが、それがクッションになってくれたようで助かった。
「ええい!!離せ!!離さんかこの化け物!!」
ベッドに組み伏せられたその体を、出来る限り大きく動くようにもがきながら、アリスは暴れ回る。
それを何とか押さえつける為に、半ば抱きつく形で抑え込む。
「取りあえず落ち着け!!何も怖い事は無い!!安静にしていれば何も問題は無い!!」
「リジィー様、ただいま戻りまし…………」
……用事を済ませた、シュリとブラウが部屋に戻ってきた。
うん、その冷たい視線の理由は解る。ただ状況を理解してほしい、俺は何も悪くは無いのだ。
「違う、違うぞシュリ、ブラウ!!これは……「離せ!!私はこんな事には屈しない!!」……お前は少し黙っててくれ!!」
俺の弁解の言葉をかき消す様に重ねられるその悲鳴に、苛立ちが募っていく。それと共に、シュリとブラウの目には輝きが失われていくような気がした……
「これはだな、この者が「エレクシアは気高い一族!!たとえ辱めを受けようとも「だから黙っててくれ!!お願いだから!!」
「リジィー様。別にお気に為さらずとも、私はそういった事には寛容なつもりです。存分に楽しんでください。……ただ、出来るなら私の目の届かない所でして頂きたいものです。でないと、嫉妬でどうにかなってしまいそうですから……」
「違う!!違うぞシュリ!!お前が思っている様な事は断じて「騎士として命を受け早10年、この身に剣を受ける事は無かったがそれも今日まで、この場で別の剣を「お前女性だろう!!そんなはしたない事言うんじゃない!!」
「リジィー様……私もそういった行為について知識は多少あるのですが……それでも、私の様な年の者に見せつけるのが好みなのでしょうか?……出来る限りリジィー様の考えは理解したいのですが……はっきり言って軽蔑します。」
「だから違うってブラウ!!お願いだから話を聞いて!!こいつが剣を「ああ、父上母上妹よ。私は今日、騎士ではなく一人の女性となりま「アリス!!お前絶対正気に戻っているだろ!!狙いすましたかのような嘘をつくな!!」
ボロ宿で繰り広げられるその騒動は、一階にいる宿の主人の我慢が切れるまで続く事となった……
◇◆◇◆◇◆◇
そんな頭の痛くなる出来事があったが、落ち着きを取り戻したアリスに連れられ、数日の間馬車に揺られてこの場所……スアー公国首都、ブレマスに辿り着いたのである。
アリスは用があるとの事でこの場にはいない。しかし、彼女は俺達にこうも告げていた。
話は通してあるから中に入って待っていてくれ。
その結果がこれである。
吹き抜けに作られた広間にて、周りを取り囲む兵士はその各々が、紛れも無い敵意を宿し睨みつけている。
そしてそれに対抗するように、シュリからは凶悪な重圧、ブラウはその瞳に出来る限りの威圧を込めている。
(……話通っていないじゃねぇか!!アリス!!)
内心の俺の叫びを他所に、兵士の代表であろう者の声が掛けられた。
「大人しく武器を下ろし投降しろ。そうすれば刑は軽くなる。」
「取りあえずの確認なんだけど、君達の俺達に対する認識って何?」
申告を無視し掛けられた俺の問いに、若干虚を突かれたようだったがすぐに返してくれる。
「公王様の城に武器を持って現れた反逆者だ。」
「ですよね~」
うん、それしか考えられない。やっぱりアリスの話は信じるべきでは無かったのだ。
内心でアリスの評価をどんどん下げながら、どうするべきか思案に暮れる。
……殺そうと思えば、一瞬で片づけられる。
俺はの力でももちろん、シュリに命じればすぐに終わる話である。
しかし、ここで問題を起こすのはまずい話だった。というのも、俺は今、リジィー・スロードとしてこの場に居るのである。
こいつらを始末した場合、間違いなく俺がやった事になる。それはこの世界での動きが制限される事に他ならなかった。
だから、さっきからずっとアリスが来るのを待ち続けているのである。
彼女なら、何の問題も起こさずにこの場を取りなす事が出来るだろうから……
「投降するのか?しないのか?」
ただそれもそろそろ限界だった。動く事が無い俺達に痺れを切らしたのだろう。兵士の代表がその最終通告を口にする。
アリスはこの場に現れそうも無かった……
(仕方ない、殺すか。)
形だけだとしても、一時的だとしても、一度でも敗北する気は俺には無かった。
勝利を追い求めるのなら、大なり小なりの一切合切敗北は認めない。……それは、転生を果たしてからの俺の信念でもあった。
それに不手際を晒したのは公国側なのである、ならばしかるべき罰を受けてもらうとしよう。
そう思い、シュリに指示を出そうとした時その声は響き渡った。
「おやめなさい、その者はお父上がお呼びになられた客人ですよ。武器を納め、礼を尽くしなさい。」
吹き抜けに作られた広間、その二階部分からその声は掛けられる。俺にはその声の人物には心当たりがあった。
「リリア様!?……了解いたしました!!皆の者客人をお通ししろ!!」
この国の現公王、アーノルド・ネガ・シュバルツの娘、リリアの言葉は強力であった。
兵士代表の言葉と共に囲いは解かれ、一歩此方に踏み出した代表が深々と礼をする。それに続くように、一拍遅れて兵士全員が同じ体制になる。
「別に問題は無い。君達は自分の仕事をしたに過ぎないからな。ただ……兵士間の連絡は怠らない方が良い、取り返しのつかない事になるぞ。」
兵士全員の謝罪を受け、特段怒りも持ち合わせていなかった俺は、一応の忠告と共に彼らの失態を許す。……文句があるとしたらアリスに対してであるから当然だ。
「ありがとうございます。それでは客人殿、此方へ。」
「お待ちなさい、そのお方には特別な対応が必要です。故に私がお通しいたします。」
代表が感謝を示し、自身の次の仕事を行おうとした矢先にリリアが口を挟む。
彼女はいつの間にか移動し、向かいに見える大きな階段を下りている所だった。その姿を認めた兵士は、一斉にその場に跪き彼女へ向け頭を垂れた。
それには一瞥もくれる事無く、リリアはゆったりと此方へ近づき右手の甲を此方へ差し出す。
彼女の求めている行為は解る。跪き、その甲に軽い口づけをしてほしいのだ。
「明後日行われるパーティが始まるまでどこで過ごせばいいんだ?」
その求められた行為を無視した俺の言葉に、リリアは子供の様に頬を膨らませ、拗ねた顔をした。
「久しぶりの再会にも関わらず、相変わらずつれないお方ですね……まぁ良いでしょう。客室に案内しますわ。」
彼女はくるりとその場で半回転すると、降りて来た階段へ向かい歩き出す。
俺はそれに続きながら、彼女の事を思い出していた。
リリア・ネガ・シュバルツ。現公王、アーノルド14世の娘である。
年齢は今年で17歳、その容姿は美しいの一言。10魔族の女性と比べても、遜色ない美しさを持っている。
髪の色はシュリと同じ様な鮮やかな金色。その髪を長く伸ばし、三つに編んでいる。
体の造形もバランスが取れている。丁度子供っぽさと大人の中間であるように思われるそれは、彼女の魅力の一つである。
それ故に、彼女に近寄ろうとする者は後を絶たない。彼女の魅力にひかれた者はもちろん、公王の懐に取り入りたい者も含め、多くの者が彼女を我が物にしようとしていた。
だが、彼女はその体質からそういった思惑を読んでしまう……
「リジィー様。貴方、あのまま私が声を掛けなければ、あの者達を殺していたでしょう?」
前を歩くリリアから、突然声を掛けられる。
依然、此方を向きもせずに前を歩き続ける彼女は、今の言葉に確信を持って俺に問うていた。
それに肯定を返しつつ、内心ではやり辛いとどうしても思ってしまう。
彼女には色が見えるらしいのだ。
敵意を持っている者は赤い色がその身から、下心があれば桃色が、良からぬ事を企ていたら黒色……といった具合に、その者の思考が色となって彼女には映るらしい。
結果、彼女に近寄った美男子共は片っ端から全滅。それでも言い寄る輩は後を絶たないらしいが……
ともかく、美と権力の欠片を手にする彼女にとって、その体質は極めて恵まれた物だと言えるかもしれなかった。
まぁ本人はそれを快く思ってはいないようだが……
「此方でお過ごし下さい。用があれば其方のベルを鳴らしてください。すぐに城の者が現れますので。」
「ああ、ありがとう。リリア王女」
自身の仕事は終わったとばかりに、リリアは俺の礼を受け取った後この場を去る。
そこには何の感情も見えない、表情こそ動いているが……どうにも不自然極まりなかった。彼女と接した時、まるでヨルを相手にしているような錯覚に陥るが、ヨルの方がまだ感情の機微が解る。
言葉にするなら、生きている人形の様な女性……というのが彼女という存在に対する俺の評価だった。
「シュリ、ブラウ。明後日が終わるまでここで暮らす事になる。それまで自由に行動していい。以上だ。」
ただ、そんな自身の思考などどうでもいい事だ。数日の間、動こうにも動けない状態が続くのなら、その間を二人の配下の休養に当ててもいいだろう。
その俺の指示に、二人の配下は感謝を示し、シュリは本を読み始め、ブラウは自身の武器である短剣の手入れを始める。
その姿を視界の端に収めながら、部屋に置かれたベッドに横になり、今後に起こり得る騒動に辟易とし始めた。
「本当……出来る事なら断りたかったな……」
ぽつりとこぼされる俺の言葉。それは俺の内心を模ったかのように、小さく、そして暗かった……
本当に何で俺なんかを呼ぶのだろうか。アーノルド14世も馬鹿では無いはずなのに……
リジィー・スロードは……自身の悪名の一つを思い返していた。
貴族殺し……
思えば、それがリジィー・スロードに与えられた、最初の悪名だった気がする。
そんな下らない事を思い返しながら、思考はどんどんまどろんでいく。
その心地よいぬかるみに浸りながら、俺は意識の手綱を引き離した。
今回から、スアー公国パーティー編として何話か作成予定です。
次回は、これだけ貴族殺しについて触れやすい終わり方になったので、閑話としてその部分に触れるかもしれません。触れないかもしれないけれどね……
ではまた次回の機会に




