ヒトビトは迷い、
神 は 考えた
『ヒト』 の 死後
残された 『ヒト』 は 何 を 思う のか
カナシイ サミシイ フアン
神 は 優しかった
それゆえ 残酷 で あった
だから 神 は
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少年の髪を、風が揺らしている。透き通るような、薄い茶色の髪を。光に照らされて、キラキラと輝いているようにも見える。
それを見つめるもう一人の少年がいた。
彼の名は、ジーク。
彼の住む国では珍しい、濡れたように黒く、長く、美しい髪を持っていた。
ジークはいつもその少年を見つめていた。見つめるだけであった。話しかけるでも隣に行くでもなく、ただ静かに、見守るように。
少年がそれに気づくことはないと思っていた。
しかし、『その時』はいつだって唐突にやってくるものだ。
「ねぇ、君、なんでいつも僕を見てるの」
少年の凜とした高い声が、ジークの鼓膜を震えさせる。
ジークは特に驚くでもなく、まるでかくれんぼでもしていたかのように肩をすくめて笑ってみせた。
「ごめんね、気分悪くしたかな。君こそ、いつもここにいるけど何か見てるの?」
ジークは少年に近づくことはせず、よく通る低めの声で少年に問いかける。
「いや。…けど、なんだかここにいると…」
少し目を伏せて、少年は答えた。
「知らないことが、見えてくる気がするんだ」
少年の向こうには、『青』が広がっていた。海も、空も、空気でさえもすべてが『青』だった。
『青』が揺れた。まるで少年の声に反応するように、ざわざわと。ジークは目を閉じてその眩しさを遮る。
「知らない、こと?」
「そう。誰も、知らない…知ることのできない、そんなこと」
ジークには少年の答えの意味が理解できなかった。
誰も知ることのできないことなど、本当に存在するのか。
自分が見えていないものなど、あるのか。
ジークが理解できなかったのか、あるいは理解したくなかったのか。
それこそ、誰も知ることができない。
「…で、君はなんで僕のこと見てるの」
…そういえば。
少年の言葉に気をとられて、ジークは彼の質問にはっきりと答えていなかった。
「なんで……か。そうだなぁ……綺麗だったから、かな」
ジークの返答に、少年は明らかに怪訝な顔をした。はぁ?とでも返ってきそうな、心底嫌そうな表情だった。ジークは苦笑する。
「あー……えっとね。随分前…何かすごく悲しいことがあった気がしてさ。それが何なのかはさっぱりわからないんだけど。…それで、ここに来たんだ。ふらふら歩いてたらここにたどり着いちゃった、ってかんじかな」
少年は体ごと振り返り、ジークの目を見つめて言葉の続きを待った。ジークの後ろで一つに束ねた黒く長い髪が宙に漂う。
「そうしたら、君がいたんだ。そこに立っていた。その茶色い髪がさ、風になびいてて、白い肌が透き通ってて、後ろの景色と同化しているように見えた」
『青』は尚も揺れる。
同時に少年の瞳も、揺れた。
少年は、目を、奪われたのだ。
ジークのその表情に。