第一話 潜入
~第一話 潜入~
夜中。
スラムのかなり奥の治安のとてつもなく悪い場所。そこに立つ5階建てのビルを物陰からのぞき込む。
「アレ、か・・・・。しかし、こんなところとは。まあ、何かを隠すにはうってつけかもしれないけどな」
ここに来るまでに何度か絡まれた。とりあえず皆ただの浮浪者やチンピラだったので問題なく撃退してきたが。少し歩けば絡んでくる状況は精神的によろしくない。
今でもどこかから銃声や人の悲鳴のようなものが聞こえてくる。きっとろくでもないことがここでは繰り返されているのだろう。
ここはスラムという底辺の中でもさらに底辺にまで落ちた、本当にどうしようもないやつらの吹き溜まりだ。
ある程度組織によって統制がとれている地区と違い、完全な無法地帯であり、迷い込んだら二度と出てこれないとまで言われている。
そんな場所にある謎の指輪。
胡散臭いにもほどがある。
「さてさて、どう攻めるかな・・・」
ビルに近づきすぎないように周りを見て回る。見える範囲にはカメラ等はないようだが、警戒は怠らない。
しばらく探索していると排気口を発見した。
「いけるか・・?」
排気口をふさいでいる網はさび付いておりぐらぐらでしっかりとはまっていないようだった。
「うわ・・。物語みたいなラッキーもあるもんだ。わなってことはないよな・・」
まあ、見るからに小汚いなんの手入れもされていないビルだここだけきれいということはないだろう。
網を外して中に入り込む。
しばらく進むと排気用の網が見えた、そこそら下をのぞき込むが誰もいる気配がない。様々なものが散乱している部屋だった。
「うーん。もらった資料によるとここ地下があるんだよな。そっちが怪しいかな・・・」
矢田さんが持ってきた資料はビルのデータと今までの結果からの予想戦力のみだった。
「うけたけど、こんな情報。予想ばかりで何の役にも立たないな・・・。武装もわからないし・・」
地図があるだけましではあるができれば荒事は避けて穏便に盗み出したい。
もう少しいろいろわかってるかと思いきやほぼ何もわかっていないという状況に話を聞いた後頭を抱えてしまった。
やはり、しっかり話を聞いてから仕事は受けるべきである。やるといった手前話をきいて断るのも極まりが悪い。なにより恩もある。世の中はなかなかうまくいかないことばかりだ。
「とりあえず降りるか」
部屋の中へ。
本当にゴミが散乱しているだけの何もない部屋だ。
「外に人の気配は・・・と」
部屋のドアに耳をつけ外の様子をうかがう。
あいかわらず人気はない。ビル全体に人がいる気配を感じないのだ。
「全員が留守ってわけでもあるまいに・・・」
やはりビルの地上部分は地下にある何かを隠すためのおとりでしかないのだろうか。
「現在位置は・・・」
タブレット端末を操作して。あらかじめ入力しておいたビルの見取り図を出す。
「ここ・・・か。」
地下への階段はこの部屋を出て少し先にあることが分かった。
「まあ、でかいビルじゃないからな。こんなもんだよな」
部屋から顔だけ出して周りを見渡す。
カメラもなし。
さっと部屋を出て、なるべく足音を立てないように階段に向かう。
階段はすぐに見つかった。
「さて、こっからなにかあるかな・・・?」
階段を一歩一歩慎重に降りる。
階段を下り切るとそこには金属でできた丈夫なドアがあった。
「カギは・・・かかってない」
人とおり調べたところトラップの類もなさそうだ。
「男は度胸だな・・・」
ゆっくりとドアをあける。ドアの先は通路になっており通路にそって左右に3つずつ部屋があった。
「倉庫か何かとしてつかわれてたのか?」
カメラがないことを確認して通路に入る。
そして左側の一番手前のドアを調べる。
カギもかかっていないようだ。
「とりあえず・・・」
素早く部屋の中に入り込み周りを見渡す。天井から切れかけたランプがぼんやりと部屋を照らしている。
部屋の中は先ほどの部屋同様ゴミの山だった。
しばらく探索しても何も出てこない。
「まあ、いきなりなにかあるなんて都合のいいことはないよな」
ほかの部屋もしらべてみたがどこも大して変わらなかった。
「・・・というかここまで何もなさすぎると、逆に怪しいな・・・」
もうすでに自分は敵にばれており、死地へと誘導されているような気分になる。
「とはいえ、地下ってここまでなんだよな。下ははずれで上が正解ってことなのか?」
通路の先にはまた扉がありそこを開けるとさらに地下へと続く階段があった。
「おいおい、地下は一階だけじゃなかったのかよ・・・・」
データにはここから下のことは書いていなかった。
「あやしすぎるな・・・おい」
その階段を下りる。
「おいおい。どんだけ降りてるんだ・・・」
2,3階分は降りている気がする。
新しくこれだけのものを作るなんてもはや怪しいではなく確信だ、この先には何かがある。
階段を下り切るといままでとは違う重工で真新しいドアがあった。
「カードキーとパスワードか・・・。厄介だな・・・・」
パスワードはハックでもすれば何とかなるかもしれないがカードキーはどうにもならない。
「とりあえずここまで、か・・・」
いったん戻り作戦を立て直さないといけない。矢田さんにも相談しないと。
階段を再び上る。
「やれやれ。特に成果はあげれなかったな」
まあ、焦りは禁物だ。こういった場合焦ってもいいことは一つもない。
登り切りドアを開ける。
するとそこに。
黒ずくめの人物がいた。
「なっ!」
その人物はすばやく手をこちらに向けてくる。
「やば・・・」
階段を数歩降り相手の視界から外れる。そのとき近くをなにか硬いものが石に当たる音がした。
「うってきやがった!」
油断していた。だれもいないとおもっていたらこれか。発砲は続いている。
「畜生」
逃げ場はない。ここでなんとかやつを倒すのだ。懐から愛用の銃を二挺取り出す。
「たのむぜ。相棒」
さあ、何とか生き残ろう