何でも屋の男
~プロローグ 何でも屋の男~
「つっきー。つっきー。おきるっす、朝っす、というか昼っす」
ゆさゆさとゆすられる。
「あと3時間・・・」
布団の魔力は強力だ。昨晩は夜遅くまでゲームをしていたのだ。いつになってもネトゲは楽しいものである。
「もー!またネトゲっすか!いい加減にしたほうがいいとおもうっす!」
揺さぶられる力が強くなる。頭ががくがくとシェイクされる。
「うお・・・落ち着け・・・。OK起きるから」
まだまだ寝たりないがこれ以上頭をゆすられては脳みそがどうにかなりそうだ。
だるい体を何とか起こす。
「ふぁあああああ。おはよう。アンナ・・」
「はい、おはよっす。つっきーお客さんすよ?はやく寝癖を直して服を着るっす」
「はいはい・・・」
そういってアンナが部屋を出ていく。
「やれやれ」
クローゼットからいつものシャツとズボンそしてジャケットを取り出しささっと袖を通す。
いつも通りのスタイルだ。上から下まで真っ黒なのでアンナからは蝙蝠と呼ばれたこともある。
クローゼットにつけられた鏡をのぞき、ブラシで髪型を整える。
「ふむ・・・。こんなもんかね・・・」
鏡に映るのはごくごく平凡な顔だった。生まれて25年見慣れた自分の顔だ。
さすがにあまりお客を待たせるのもよくないのですぐに部屋を出る。
といっても部屋の斜め前がすぐ事務所なのですぐに到着する。
「さて。お仕事と行きましょうか」
ドアを開ける。今日もお仕事が始まるのだ。
プラチナムシティ。
それがこの都市の名前だ。人口800万人の巨大都市でありこの大陸の首都でもある。
遠くから都市を見ればまるでピラミッドの表面に無数の光がともっているように見えるだろう。
この都市は下からスラム、下町、富裕区、政治区と別れている。
それぞれの階層には関所のようなものがあり、出入りを厳しくチェックされている。
特に富裕区から上にはスラム、下町の人間はまず入ることができない。一部の商人や外部からの客
そういったものだけが立ち入ることができる。
下町はいわゆる一般のある程度の収入を持つ者たちが住んでおり、比較的治安は安定している。とはいえ場所によっては危ない場合もあるので完全に安全とは言えない。
ここに住んでいるのは都市において労働力としてなんらかの職業に従事できるもののみである。
一番下のスラムにおいては労働力として職業に就けなかったものや、なんらかの障害を負って働けなくなったものそういった都市にとって役に立たないもの達が集められた場所である。
こちらは暴力やら事件やらは日常茶飯事で治安は最悪。都市の汚いものをすべて押し込んだゴミ捨て場だ。
俺。月元 明人の事務所もこのスラムにある。ここで俺は何でも屋をやっている。失せものさがし、掃除、荷物運び、なんでもござれだ。
だが、土地柄持ち込まれる仕事はたいてい血なまぐさいものやヤクザからの明らかに危なそうな物品の受け渡しなどが多く、掃除なんて平和な仕事が舞い込んだことはほとんどない。
今日の客もきっとろくでもない話を持ってきたに違いない。やれやれ。どんな面倒が待っているのか。だが、食うためには働かなければいけない。お客様は神様なのである。
「どうも、何でも屋月元です」
そういって部屋に入ると接客用のソファに腰かけた一人の男が振り向いた。目の前のテーブルではアンナがいれたであろう茶が置かれている。
「おお。月元、相変わらず眠そうだな」
にやりと怖い顔を向けてきたのはこのあたり一帯を仕切るアルバファミリー参加の組織。遠峰組の若頭
矢田信也である。
右目に大きな傷があり、その獰猛な顔立ちと相まって実に怖い。子供が見たら泣き出しそうだ。
「矢田さん。今日のご依頼はなんでしょう?」
この矢田さんはなぜか俺のことを気に入ってくれており時々仕事を回してくれるありがたいお人だ。
内容は毎回なかなかひどかったりするのだが金払いはいいので助かっている。
「はっは!そう警戒すんなよ!」
彼の声はいつも大きい。
「はあ、前回の仕事忘れたわけじゃないでしょう?」
前回はひどい目にあった。ちょっとした届け物だといわれ指定された場所にもっていってみれば。二つの組員さんたちの銃撃戦に巻き込まれたのだ。どうにも届け物の中身が危ないものだったらしく、それを奪おうとしたやつらが襲撃してきたらしい。ちなみに中身が何なのかはしらない。知ってもろくなことにならないだろう。
「あれはすまなかった!まさかばれてるとは。まあ、情報を流した阿呆はしっかりけじめつけさせたから
勘弁してくれな」
「はあ、まあ、毎度のことですしいいですけどね」
こういったことは本当によくあるのでそれほど気にしてはいないがやはり心構えもなく銃弾の中を駆けるのはあまり心臓によろしくない。だが、矢田さんの場合荒事があるなら必ず事前に伝えてくれるので今回は本当にイレギュラーだったのだろう。ほかの依頼主のまるで死んで来いとでもいうような依頼に比べればまだましなのである。
「だが、きっちり生き残ってやがる、やっぱいい腕してるよなぁ。やっぱ、何でも屋なんかやめて家にこねぇか?歓迎するぜ」
「ただ逃げ回っていただけですよ。逃げ足には自信があるので」
毎度毎度誘ってくれるのだがヤクザになんてなりたくはない。
「ふん、まあいいや。とりあえず今回の仕事なんだが」
といって内ポケットから一枚の写真を取り出す。そこにはルビーの指輪のようなものが移っている。
「これは?」
「あーなんだな。まあ、聞かないでくれ。とりあえずそいつを探すのが今回の依頼だ」
「盗まれたりしたんですか?そうなると見つけるのは・・・・」
この広いスラムで小さな指輪一つみつけるなんて砂漠でビー玉を探すに等しい。
「いや。場所の見当はついてる。というか、家のもんを何人かやってるんだが、まあ、だれももどってこないわけよ」
「それはなんとも・・・・・俺の手にはあまりそうですが・・・」
「はっは、まあ、そういうな。お前さんの腕を見込んでたのんでんだ」
何人も言って帰ってこれないような場所。そんなデンジャーな仕事は御免こうむりたい。命は惜しい。
「今回はさすがに・・・・」
「報酬はこれだ」
ポンと机の上に封筒を頬る。かなりの厚みだ。それが2つ。
「は・・・・」
さすがに息をのむこんな大金はそうそうお目にかかれるものではない。それと同時にこれだけの金を積む時点でこの仕事のやばさを物語っている。
「どうだ?前金で100万成功報酬で100万うまい話だと思うんだがな」
合計200万とは随分と張り込んだものである。200万もあればスラムで2年は生活していける。そういう金額だ。
「むむむむ」
さすがに唸ってしまう。多少命がけだとしても目の前の札束は非常に魅力的だ。
「まあ、今回はさすがにやばいってことで大盤振る舞いよ。ほかのやつに頼んだとしてもここまでの金額はださねぇ。お前さんだからこの金額だ。どうだ?うけてみちゃくれないか?」
「そうはいわれても、何の情報もないんじゃ・・・俺も先に行った人たちのお仲間にくわわるだけなきがするんですが」
「お前さんなら大丈夫よ。たぶんな・・」
その自身はどこから来るのか。彼は随分な過大評価をしてくれているみたいだ。
「んー。でもなぁ」
「ああ、もうわかった」
そういってポケットから随分と分厚い財布を取り出し。その中から札の束をとりだし、机にほおった。
「組織からの金+俺からの小遣いだ。30ある」
「・・・矢田さんがそこまで必死になるなんて、よっぽどやばいものなんですね」
「まあ、正体はいえねぇが。やべぇもんにはちがいねぇ。というかうちの上級組員が戻ってこれないような案件、任せられる奴なんてそうはいねぇしな、お前に受けてもらわないと俺の立場もちと危うい」
「ちょっとまってください。上級組員でだめだったんですか」
あっ。としくじった!問わんばかりの顔をする。
「ああ・・・・・おう・・・。それが送り込んだのは俺の指示でよう。さすがに上級組員を失いすぎってことでお叱りをうけちまってな今回の件解決できなきゃ指が飛ぶ」
「それはまた・・・・」
彼の組の上級組員といえば全員が訓練された優秀な兵士だ。その辺のチンピラなら一人で20でも30でも相手にできるだろう。
「なっ。たのむよ・・・。このとおり」
机につくくらい頭を下げる矢田さん。
「ああ・・・顔を上げてくださいよ。わかりましたやります。受けますから」
矢田さんには仕事以外にもいろいろと世話になっている恩もあるので、あまり邪険にもできない
ふつうなら速攻で断る危ない仕事でも、報酬+矢田さんの恩という大きいものが二つあるので腹をくくるしかないだろう。
「でも、無理そうだったら速攻あきらめて逃げますからね?自分が生きるの最優先にしますよ」
「おう、もちろんかまわねぇ。お前でダメなら俺にはもうどうにもならん。その時は俺が特攻するだけさ」
にっと壮絶な笑顔を浮かべる。怖い。
「とりあえず、場所を教えてください。それとできる限りの敵戦力」
「わかった」
今回の依頼もなかなかハードになりそうだ。