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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いい女?

作者: 東雲枯葉

 うわ、すっごい偶然じゃない?

 あれ? あたしのこと覚えてない? ほら、高校で同じクラスだったじゃない。一緒に図書委員とかしたよねー、そうそう、それそれ。それが私。もう、思い出すの遅いんだから。

 たまたま入ったバーで会うなんてさ。へぇ、出張でこっちに来てんの。ほんと久しぶりよねー。

 どれぐらいぶりだっけ? 高校卒業してからだから、結構たってるよね。こらこら、指を折って年数を数えないっ、年齢がばれちゃうじゃない。

 え、同い年なんだから、ばれるも何もないって? そりゃ、あんたは知ってて当然だけど、バーのマスターは知らないだから。ばらさないでよ、ほんとに。結構好みのタイプなんだから。

 え、常連かって? 違うわよ、今日初めて入ったバーよ。で、マスターの外見に一目ぼれ、て感じ。

 相変わらずだなー、ていう顔ね。人間、そうそう変わりはしないわよ。ほら、あんたもなんか頼みなさいよ、一杯ぐらいなら再会を祝しておごってあげるわよ。

 もちろん、あんたは私に一杯をおごりなさいよ。それが礼儀ってもんでしょ。



 で、あんたは今、何してんの?

 ふーん、ただのサラリーマン、ねぇ。あたりさわりのない返事ね。こうドラマティックな出来事とかなかったわけ? 結婚してるとか子どもができたとか離婚したとか。何もない? もー、つまんない奴ぅ。ま、あんたは昔から、変な秘密も何もない無難な奴だったっけ。

 そういう私はどうかって? 自分に何かあったら、あんたのことを聞く前に言ってるって。こちとら、天涯孤独の一人身ですもん。親はいないし自分を養ってくだけで精いっぱいってなもんよ。

 ちょっと、そんな悪いことを聞いた、ていう顔をしないでよ。私の両親が亡くなったのはずーっと昔のことだし、今更、それを引きずってたりしてないわよ。

 彼氏とかいるかって? ものすごく下手っくそな話題変換ねー。だから、さっきも言ったけど、いたら真っ先にあんたに自慢してるってば。

 べ、別にずっといないわけじゃないんだからね。今は仕事が忙しくて、たまたまいないだけなんだから。

 ちょっと、その生暖かい目はやめてよ、見栄張ってるんじゃないんだからっ!! だいたい、女のプライベートを根掘り葉掘り聞くもんじゃないでしょう。いい女には秘密があって当たり前なんだから。ちょっとは遠慮しなさい。

 



 あ、マスター。ちょっとテレビの音、大きくして。うん、そのニュース見たいから。あんたも知ってるでしょ、今、女性連続殺人が起こってんの。昨日の夜も起きたらしいんだけど、私、今日は忙しくてニュース見れなかったのよね。

 うわやだー、結構、うちの近所で起こってるじゃない。前回のまでは同じ県でずーっと起こってたから、模倣犯の可能性もあるって。やだもぅ、早く犯人捕まらないかしら。これじゃ怖くて夜道を歩けないじゃない。

 はいはい、私なんか誰も襲わないって? そりゃそーでしょーけどね。

 人間、何が起きるかわからないんだから。私がこのバーを出た後、襲われないなんて保証なんてどこにもないわけよ。

 というわけで、あんた、私を送りなさい。速攻で露骨に嫌がらないっ!! 出張でこっちに来てるんだから、あんたもどうせ明日の朝早いんでしょ、さっさと帰りましょ。

 じゃ、マスター。お勘定、よろしくー。



 あ、タクシーはここまででいいわ。ここからは歩ける距離だし。ほら、あんたも降りる。あたしの家の前を通り過ぎたら、あんたが泊まってるホテルなんだから。駅近でいいホテルじゃないの。

 ちょっとぐらいは歩いて酔い覚ましをしなさい。そんなに飲んでない? 飲んだ人間ほどそう言うもんよ。


 あ、道はそっちじゃないわよ。こっちの公園。ここを抜けると近道なの。暗くないかって? そんなことないって。大丈夫大丈夫。ほら行った行った。


 んー、街中の公園とはいえ、緑の中を歩くのは気持ちいいわねー。

 元々、人気はないところなんだけど、やっぱり近場で事件が起きると、夜に出歩く人はいないわねぇ。だからまぁ、一人で通るのはちょっとイヤだったんだけど。

 だから、あんたが嫌がりながらも付き合ってくれてうれしいのよね。はいはい、無理やりで悪かったわね。

 でもまぁ、あんただって悪い気はしないでしょ、こーんな美人に頼られたりするんだから。

 って、ちょっとー、あんた、何遅れてんの? 振り返って遠くにいるとか、何もないとこに話しかけた私、馬鹿みたいじゃない。


 どしたのよ? 立ち止まったりして。なんか見つけたの? 靴ひもでもほどけた?

 ……って、何、手に持ってんの? 何か光ってみえるんだけど。


 ちょ、ちょっと……どうしたのよ。なんで、あんた、……そんな、ナイフなんて握ってんの。なんで、そ、それを……わ、私にむけてんの。

 や、やだ……ち、近づかないでよ。な、何する、つもりよ。


 ……わ、私を、殺すって? ほ、本気? そ、そんなことしたら、あんた、警察に捕まるわよっ、やめてっ。い、今なら、何もなかったことにするから私何も言わないからっ。


 捕まらないって、そんなわけないじゃないっ!!


 ……え。

 あんた、なの。

 あんたが……あの、女性連続殺人の、犯人……な、の。

 でも、さ、昨晩のは、ここの近所だけど、それより前のは、別の県で……あっ、あんた、出張で、こっちに!? じゃ、じゃあ、今までのは、全部、あんたが……っ。


 やだ来ないで近づかないでっ、私、何も話さないからっ。絶対に話さないから、秘密にするからっ、見逃してよっ!!

 だ、誰か、誰か、たす……。









 って、まぁ、怯えてみたんだけど、あんたのご希望に添えられたかしら?

 何がなんだかわかんないって、顔ね? まぁ、普通、あそこまで怯えられた獲物に反撃されるならまだしも、自分の方が刺されるなんて思いもよらなかった、みたいな?

 あ、無理に動かさない方がいいわよ。あんたみたいな素人と違ってね、こちとらプロなもんだから、動けないように刺すのはお手の物なわけ。ま、一撃で殺さなかったのは、ちょっとした憂さ晴らし、なわけだけど。


 なんで自分が殺されるか、わかんない? 理由は簡単、あんたが人殺しだから。

 あんたは自分では上手に立ち回っていると思ってたようだし、警察も手がかりをなかなかつかめてなかったから、捕まらない、と思ってたみたいだけど、警察以外の存在にはあっさりと面が割れていたのよ、可哀そうなことに。

 で、お仕事が私に回ってきたってわけ。


 あぁうん、あんたがなんで女性ばっかり殺してきたとか、そんな理由はどうでもいいから。あんたが人を殺してて、今後もそれを止めようとはしない、そのことだけ明確ならいいのよ、ほかのことはどうでも。

 そんな事情は地獄の閻魔様にでも話しておけば。あんたの秘密を聞くとか、そういう無駄な時間は使いたくないの。命乞いもするだけ無駄なのは、あんたが一番よくわかってるでしょ。


 じゃ、ばいばい。





 もしもしー。私。お仕事終わったから後始末よろしくー。

 いやぁ、私もびっくりしたわよ、かつての同級生が人殺しになってるとかさー。ほんと人間ってどんな風に成長するかわかんないもんねぇ。昔はただの人見知りしやすい少年だったのに。

 え、人殺しになった経緯とか聞かなかったかって?

 なんで聞かなきゃいけないのよ、いい男ならともかく、そうじゃない男の秘密なんて聞かされたってうれしくないわよ。

 だいたい通りすがりで殺す方法なんていくらでもあるのに、わざわざ再会の場を演出して、獲物の演出をして、とか、面倒くさいやり方を付き合ってあげたのよ。殺し方ぐらい、私のやり方でいいじゃない。

 相手に絶望を与えてから殺せ、なんて、相変わらず男ってバカな浪漫を引きずっているわよね。

 はいはい、わかってるわかってる。浪漫じゃなくて当然の報い、なわけね。そんなに力説しなくてもわかってるって。

 ま、ともかく後始末班が来たら、私は帰るから。明日も朝が早いんだから、早く寄こしてよ。


 え、なんで明日も朝が早いって?

 女のプライベートを根掘り葉掘り聞くもんじゃないでしょう。いい女には秘密があって当たり前なんだから。ちょっとは遠慮しなさい。

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