エピローグ
月日は早すぎるスピードで流れていった。
女王になり1年が経過し、少しずつ女王らしくなってきたハルカは、城の隣に建てられた像の前にいた。
そこには2つの像がある。
1つはシャマ国初代女王アイリ。そしてその横にはセラの像が建てられていた。
15代女王セラの功績をたたえ、その像は創られたである。
真新しいセラの像の前にハルカは静かに立っていた。
「ハルカ、またここか」
ハルカの背後から声がした。声だけでハルカには誰かわかる。
「タイラ、どうしたの?…なんか、急いでいる?」
「兄さんたちがハルカに貴族の扱い方を教えるって張り切っていたぞ。いつもの部屋に来てだってさ」
「…貴族の?」
「ああ。ハルカも立派になったし、そろそろいいかも、だってさ。なんかもったいぶってたけど、教えたくてうずうずしてるって感じだった。だから早く行ってあげた方がいいぞ」
「わかった、すぐ行く」
そう言って笑顔を見せる。カナタとホタカに認められつつあることが嬉しいようだ。
「なあ、なんでハルカはいつもここに来ているんだ?お母様の銅像ができてからほとんど毎日来ているだろう」
「…私も、いつかここに並びたいって思うの。そのために頑張らなくちゃいけない、って思うんだ」
「…そうか」
「私は、今でも不安に思うことがあるの。私は本当にここにいていいのか。何もなかった私が女王になって…私ばかり幸せになっていいのか。本当はまだよくわかっていないんだ」
「…」
「毎日おいしいものが食べられて、素敵な服を着せてもらって、素敵な家族がいて。こんな幸せでいいのかなって思う。でも…そんなこと言っても何も始まらないじゃない。私ばかり幸せでいいのかって思うなら、みんなに幸せを分ければいい。女王になったからそれができると思う。きっとお母さんも女王になってそんな風に思っていたんだと思うの。そして、お母さんはそれを成し遂げた」
「…そうだな」
「私はお母さんやアイリ様とは違って宝石ではない。ただの石だよ。それでも宝石と同じくらい輝きたいって思っている。精一杯磨いたら土で汚れた汚い石も、輝くと思う。ここに来るとね、頑張らなくちゃって思える。頑張る勇気をもらえる気がするの。だからここに来て、夢をなくさないようにしているんだ」
「そっか。…なんかハルカらしいな」
「そう?」
「ああ」
「あ、そうだ。ねぇ、また今度、トヨに手伝いに行こうよ」
「女王なのに手伝いするのか?」
タイラがいたずらっぽい口調で言った。
でもその口ぶりは、出てくる答えがわかっているようだった。
「いいじゃない、女王だって。外に出て、人の手伝いだってするわ。だって私は宝石じゃないただの石だから」
ハルカはその言葉に胸を張る。
「でも、輝く石だ」
「うん。…まだまだ途中だけどね」
ハルカが優しい顔で笑う。
その笑顔につられ、タイラの顔にも笑みがこぼれた。
暖かな風が2人に触れた。周りの木々も揺れ、一緒に笑っているようだった。
ハルカの前に立つ銅像も笑っている気がする。とても優しい空間だった。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「そう言えば、今日の夕食の時、お父様が新しい話をしてくれるって言っていたぞ。こっちもなんか張り切っていたよ」
「本当に?じゃあお父さんが張り切っているうちに話を聞かないとね。…頑張ってお勉強会早めに終わらないと」
2人は城の中に入っていく。幸せそうに笑っていた。
大きな太陽が2人を見ている。
2人の夢が叶うのは、本当に遠い、遠い未来だろう。
2人がいる間に叶う夢ではないかもしれない。それでも2人は夢を目指していく。
たとえ自分たちの手で夢が叶えられなくても、いつかは叶えられるように。
その道筋を作れるように頑張るだろう。
明るい光で輝く太陽は遠い。手が届かないほど。
しかし、いつか、きっと。そう思う。
遠い太陽を目指すものはきっと、宝石などつけなくても輝けるのだ。
太陽の光に照らされた2人の姿は、どこか輝いているように見えるのだった。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
『輝く石』はこれで終了です。
大学時代に書いたものを直しながら、こうして投稿できて
本当にうれしいです。




